第7話 雅子の部屋1
20世紀のいつか、雅子大学3、明彦大学2
GW前の月曜の午後、彼が部室に急に入ってきてから、ずっと好きやった。いや、ちゃうな。去年のバレンタインデー、大学の合格発表の時からや。美術部に入部してからは狙ってた。明彦が部室に顔出すんは、大体月水金やったさかい、うちも月水金に顔出してた。でも、いつも部員がおって、二人っきりになれへん。歓迎会でも離れた席で話もできへんかった。明彦の隣に座ったんは明彦と同期の吉田万里子。仲良さそうに喋ってたっけ。チェッ。
四月、五月、六月、その間、彼がチラチラ、うちを見るのに気ぃついてた。うちが方言で喋るとモジモジするさかい、きっとうちが方言喋るんが好きなのもわかった。やけど、万里子も狙ってる様子。彼女だって大阪の出身や。彼が彼女の方言でも同じようにモジモジするのもわかった。でも、万里子には内藤くんあてがったやんか!うち、焦ってたもんなぁ。明彦と数ヶ月だけ上言うたって、うちが年上やもん。
やっと二人っきり。しかも週末。これ、ずっとうちが脳内でシミュレーションしてた場面や。何度も何度もセリフ考えて想定してた。考え抜かれたセリフや。明彦の答えも元カノの話以外はほぼ想定通り。うちが二ヶ月半も彼のこと考えて、会話のセリフまで決めてたなんて彼には思いもかけへんことやろなぁ。
でも、ヒメの話は想定外。驚いた。明彦も気になるけど、仲里美姫、ヒメも気になる。彼女どこにおるんやろ?明彦にもっとヒメのこと聞かなあかん。去年から明彦とヒメに何があったんやろ?
彼女探して、見つけて話して、決着つけな、うちはいつまでも明彦とはモラトリアムのままなんや。ヒメ!どこや!…おっと、千夜一夜物語で寝物語でヒメの話聞くんやった…寝物語…うち、エッチになった?万里子になったんかしら?
居酒屋の支払いをぼくがする、うちがする、って押し問答して、彼の財布奪うように見せかけて、うちが胸擦り付けたら、明彦、ビックリしてたな。万里子の大きな胸には負けるけど、小ぶりでも上向きの自慢の胸やもん。ここまで接近遭遇したら、腕絡ませて胸押し付けても構わへんやろ?彼の腕に胸グイグイ押し付けてやった。ベタベタするのは嫌いや!って言うてたんは誰やったっけ?まあ、気にせえへん。彼の手のひらがギュッとうちの手握りしめた。二人共手のひらに汗かいてる。
サマーニットのプルオーバー、ブカブカの着てきたんやけど、どうやろ?彼からブラ見えるかな?あ!盗み見てる見てる。ブラの色は、ラピスラズリの濃いブルー。パンティーもお揃いやもん。あら?困ったわ。
乳首がブラに擦れて固くなってもたよ。なんか、あそこもジワッと濡れだしちゃった。高校二年生以来、男の人との経験ないんやけど、うちってこんなに淫乱やったんかしら?吉田万里子責められへんやん!そう思たら、彼の腕ギュッとして、もっと押し付けてもた。
ふわぁ~、ドキドキするわ。
うちら、腕絡ませながら、ほとんどシャッターの閉まった神楽坂の商店街を早稲田通り方向にブラブラ歩いてった。ずっと歩いてたいけど、うちのマンション、すぐそこなんよね。残念。
「明彦、ここがうちのマンションやで」
「あれ?立派じゃないですか?ぼくのアパートと違う!」
「そうでもないねん。薄利多売の企業のマンションやさかい、壁も薄いんよ。隣の物音聞こえてまうんよ」
「ふ~ん」となんか考え込んでる。エッチなことかしら?
うちの部屋は三階の角部屋。間取りは2LDK。学生にしてはリッチな都心のマンションみたいに思われるけど、パパが東京に出張する時に使うさかい、ついでにうちが間借りしてるって話。明彦にそう説明したら納得したみたい。
せやけど、しまった。明彦をうちのマンションに誘うまではシミュレーションしてたんやけど、ちょっとぉ、うち、これからどうすんの?どうしたらええの?この流れって、うちが彼を誘ったんやけど、うち、このまま彼に抱かれるんやろか?抱かれたら、どうなるんやろか?うちの男の人との経験って、たった一人で、高校生やったさかい、こういうシチュなかったんよ!
「さ、明彦、どうぞ、入って」って年上の余裕かましたつもりで(あくまでポーズ)彼を招き入れる。玄関口でキスされるんかなぁ?
「はい、お邪魔します」って彼、普通に靴脱いで揃えてあがってしもた。チェッ。
彼、ダイニングテーブルに座った。うちが「何か飲む?」って聞くと「雅子は何飲むん?」って逆に聞いてくる。「うちかぁ、うちなぁ、パパのね、お酒がいっぱいあんねん。ウィスキーもブランディーも日本酒も。カクテルの材料もあるんよ。リキュールとかビタースもある」
「カクテルの材料が揃ってるの?」
「ええ、シンクの上の棚にお酒入ってるわ」
「もしよかったら、ぼくがカクテル作りますか?」
「明彦、カクテルできるん?」
「ホテルのバーでバイトしてるから。たいがいのカクテルは作れる。雅子はどういうカクテルがお好みなんだろ?甘いの?辛いの?強いの?弱いの?ジュースみたいなの?どれでもご要望にお答えします。なんのお酒があるかによるけど」
「自信ありそうやなぁ?」
「プロじゃないけどね」
「じゃあなぁ、パパがよう作ってくれるんがマンハッタンなんよ」
「ふ~ん、バーボンとベルモット、ビタースはあるってことだね?」
「マンハッタンをオンザロックで飲みたいわ」
「お酒どこ?」
「そこのシンクの上の棚」
「お安い御用で。シンクの上の棚、開けていいよね?」
「どうぞ」
明彦、棚からメーカーズマークとチンザノ、アンゴスチュラビターズの瓶取った。うち、冷凍庫から氷取り出して、ミキシンググラスとバースプーンを明彦に渡した。大ぶりのウィスキーグラス二個に氷たっぷり入れた。彼、手慣れた手付きで、バーボンをドボッと入れて、ベルモットは少なめ、ビターズを八滴ミキシンググラスに入れてステアした。
「ストレーナーは使わんの?」ってうちが聞くと、「別にジュースは使っていないからね」ってミキシンググラス傾けて、バースプーンで氷止めながら、ロックグラスに注いだ。「ベルモット少なめやさかい、ほぼウィスキーのオンザロックやけどな」って最後に氷入れながらうちにグラス渡した。「また、乾杯、雅子」
「乾杯、明彦。でも、おつまみないなぁ?何か作ろか?」
「よければ、ぼくが作ろうか?」
「明彦、できるん?」
「うん、五分だよ。大根ある?塩昆布は?ツナ缶もあるかな?」
「あるけどさ…何作るん?」
「おまかせしてよ。お湯を沸かして下さい、雅子」
うち、大根、塩昆布渡して、ツナ缶を缶切りで開けた。明彦、大根の皮さっさと剥いて、縦長の千切りにした。「明彦、お湯湧いたで」「うん、じゃあ、ステンレスの水切りある?」「ハイ、これ」明彦は水切りに千切りした大根入れて、そこに熱湯回しがけした。「え?何するん?」「こうすると、大根がこなれるだよ、小皿ある?」うち、小皿渡した。
小皿に大根、水煮のツナ、塩昆布入れて、菜箸でざっとかき回す。「ほら、できた。五分くらいだろう?雅子、食べてみようね」って、菜箸でちょっとつまんで、うちの口に押し込んだ。あら?おいしいやん?
うちら、おつまみ(大根のサラダ?とナッツ、干しぶどう)とグラス抱えて「ソファー行こよ、明彦」って、リビングのソファーに移った。彼も隣り合って座った。
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