第7話 神宮寺オカルト相談所 その六

「それじゃあ、軽く質問から始めるね。まず確認だけど、心あたりとかはあるかい? その夢を見始める前に、何かしら変なことがあったとか」

「……ゴメンなさい。分からないです」

「心霊スポット、パワースポットに行った。中古、またはハンドメイドの小物を買った。変なモノを見たとかは?」

「えーと、その……。ない、です……」

「ふーむ……」


 しかしながら、石動さんには心あたりがないという。所長がいま挙げたのは、経験則から導き出された『オカルト関係のトラブルに繋がる言動ランキング』の上位に入っている原因たち。

 オカルトにまつわるトラブルは、これらのどれかに当てはまる、または類する行動を取っていたが故に発生することが多い。

 だからこその質問だったわけだが……。どうやら今回は珍しいパターンのようだ。まあ、本人が完璧に忘れているor気付いてないパターンもあるのだが。

 あとは……後ろめたい理由から依頼人が誤魔化している場合もある。とはいえ、今回はそういうタチの悪い依頼ではなさそう。石動さんの反応からして、恐らく本当に心あたりがない。そういう表情だ。

 これで実は心あたりを隠してましたとかだったら、それはもう騙されたと乾いた笑いを上げるしかない。もしそうなら、とんだ大女優だと逆に関心するレベルだ。


「うーん。これは困ったねぇ」


 だが、それ故にこの依頼は厄介だ。伝え聞く内容からして、オカルトの影がチラつく。にも関わらず、依頼してきた本人には心あたりがないという。

 こういう依頼は、大抵が一筋縄じゃいかないんだよなぁ。トラブルの規模にもよるが、酷い時は状況が二転三転する。場合によっては、長丁場になることも覚悟せねばなるまい。

 あと、依頼人の精神の不調が原因だったりすることも稀にあるんだよな。ストレスからくる幻覚とか幻聴とか。その場合は、逆にこっちも判断つかねぇから迷走するという。察知しずらいオカルトとかも普通にあるから余計に。

 今回はどっちなんだろうなぁ……。できれば簡単に終わるようなやつだったら良いなぁ。確かに暇は嫌だとは愚痴ったものの、クソ面倒な厄介事がくるのは話が違うし。程よいものが良いって言ったし。


「……仕方ない。石動さん、一度キミのことを霊視させてほしい」

「霊視?」

「そう。それもちょっと深めに覗きたい。だから許可がほしいかな」

「全然良いですけど、私の許可がいるんですか?」

「うん。一言に霊視といっても、実際は結構種類があってね。その人の内面、過去の行い、運命、先祖から続く因果とか、人によって視れる内容はいろいろあるんだ。ただどちらにせよ、かなりプライバシーに踏み込むことになるから、モラルとして許可はもらうべきだよねって話」

「プライバシー……。なるほど」

「あと、単純にそっちの方が良く視える。許可を出すってことは、こっちからの干渉を受け入れるってことだ。ほら、痴漢と触診だと抵抗感は雲泥の差だろ?」

「例え」


 もっと他に言い方あるだろうに……。相手女子高生だぞ。痴漢を例に出すんじゃねぇよ。セクハラで訴えられても知らんぞマジで。


「……えーと、霊視をしたら、原因が分かるんですね?」

「ほらー。所長が変なこと言うから、石動さんが身構えちゃったじゃないですか」

「え、これ僕が悪いの?」


 悪いよ。


「んーとね? 正直なところ、原因が判明するかは分からない」

「え」

「ただ、それ以外に手がないんだよね」

「……まだ質問しかされてないですよ?」

「そうなんだけどね?」


 言外に『見切りつけるの早くね?』と言われてしまった。実際その通りなので苦笑するしかない。


「まず大前提として、僕たちみたいな霊能士は、霊的存在の気配が分かるんだ。感度は個々の才能だったり、特性によってマチマチではあるんだけど、霊能士を名乗れるレベルだったら、面と向かって話せばまず分かる」

「補足すると、呪いとかもほぼ確で分かります。原因の特定は無理でも、『そういうのが身近にある』ってことは肌感で分かるんです」

「凄い」

「いや、そんな感心されるほどのことではないです。人に危害を与えるような悪いモノに対して、ただ敏感ってだけですから。……あー、防衛本能とか、生存本能みたいなのが働くイメージだと分かりやすいかと」

「へー」

「で、石動さんなんだけど。──そういう気配が全然感じないんだよね」

「……え? 全然?」

「うん。全っ然。これっぽっちも。ミリどころかナノで」


 そうなんだよなー。だからこそ困っている。実のところ、うちの事務所はこんな問診みたいなことは基本しないのだ。原因を探るために、こうやってアレコレ質問してるのは珍しいのである。

 何故かと言うと、所長がいるから。さっき許可を求めていたことから分かるように、所長は霊視ができる。それもかなり高精度な霊視が。

 霊能士レベルとなれば、術による補助を行えば霊視自体は可能だ。だが精度は微妙で、ギリギリ霊視の体をなしているぐらいが限界。

 それぐらい霊視というのは難しく、一般にまで通じる知名度のわりに、高い素質を要求されるのである。……ちなみに俺は無理。

 で、そんな所長がいるから、こうした手探りの調査なんて滅多にしないのである。依頼人ではなく、まとわりつく悪いモノに霊視をすれば、それで大体こと足りるから。

 もちろん、質問などもしなくはないのだが、それは経緯の把握であったり、霊視では拾いきれない細かい情報を補完するためだったり、原因を自覚させるために行ったりする。……あとは、反省を促したり、罪を自白させるためにやることもある。

 つまるところ、いまの状況はわりと困っている。本当にそうした気配が石動さんからしないのだ。俺も所長も鋭い方なので、普通だったら分かる。悪いモノがこのビルの敷地内に入ってきたら、その時点で気付ける。冗談抜きで。

 にも関わらず、石動さんがここを訪ねてきたことに気付けなかった。ノックされるまで分からなかった。だから余計に驚いたのだ。


「……それはつまり、私の勘違いってことですか?」

「いや、多分違う。話を聞いた限りだと、霊的な干渉を受けてることは間違いないんだ。他に原因があるとすれば精神的な問題だけど、それにしたって症状が不可解すぎるからね」

「あと考えられるとしたらイタズラ、つまりこの相談内容そのものが嘘の場合でしょうか?」

「嘘じゃないですよ!? 本当なんです!」

「でしょうね。そもそも俺たちにイタズラかます動機が薄い。配信者に対する嫌がらせは動機になるっちゃなりますが……。さすがに女子高生がウン万円払ってまでやることじゃないでしょうし」


 だから石動さんの悩みは、オカルト由来である可能性が高い。なので放置はできない。なにせ夢の変化から推測するに、日を追うごとにナニカが接近してきているのだ。

 最低限そのナニカを突き止め、安全かどうかを確認しなければマズイ。


「もし霊的なナニカが干渉している場合、考えられるパターンは三つ。一つ目は、本当は悪いモノが憑いてはいるけど、僕らの感知をすり抜けてる」

「……そんなことあるんですか?」

「なくはない、ってところかな。……自画自賛みたいになるけど、僕らは業界でも上澄みでね。そんな僕らの感覚を誤魔化せる手合いだとすると、状況的には完全詰み」

「うぇっ!?」

「それぐらいヤバいってこと。でも、代わりに滅多にないと思ってくれて良いよ? だからどちらにせよ、この一つ目は考慮しないものとする」

「えぇ……?」


 もしそうなら対策なんか無理だし、そもそも想定する必要がないレベルで稀有なパターン。つまるところ、考えるだけ無駄な仮定である。


「二つ目。石動さんへの干渉がな場合」

「……良いモノ?」

「うん。石動さんに分かりやすく噛み砕くと、プラスの力。これだと霊能者の感知をすり抜けやすいんだ。理由としては、生きるという行為そのものがプラスの力に属するから。どっちもプラスだから紛れちゃうんだよね」

「この比喩に則ると、逆に悪いモノはマイナスの力になります。害意や悪意は、自分や他人を傷付ける。それ即ち、生きるという行為を脅かすこと。だからマイナス。なので、分かる人間には一目瞭然なんですよね。白いオーラの中に、黒いオーラが混ざってるのをイメージすると分かりやすいですかね?」

「へー」


 ちなみに、これはあくまで素人向けの比喩である。実際は陰陽思想とかに触れながら説明する必要があるのだが、無駄に複雑になるのでこれで良し。


「代表的な例を上げると、神様と加護とかかな? で、この場合は要調査。それで判明次第対処って感じだね」

「え? 加護とかなら問題ないんじゃないですか?」

「そこはケースバイケースだねぇ。結局、干渉しているのは人ならざるモノだし。人間基準で考えるとアレな場合があるんだよね」

「ライオンとかは生肉食べれますけど、人間は無理じゃないですか」

「あー」


 あと、過ぎたるは及ばざるが如しってパターンもある。薬も過ぎれば毒になる的な。


「で、三つ目。ナニカが害意なしに石動さんに干渉しているパターン。プラスの力が白、マイナスの力が黒だとしたら、これは限りなく透明に近い力による干渉だ。これが一番タチが悪い。……あ、一つ目は除外してね?」

「……害意がないのに?」

「さっき言ったのと同じ理屈だよ。相手に害意はなくても、人間基準だとアウトな可能性があるんだ。むしろ、この場合はそっちの確率のが高くてねー」

「なにせこの干渉のしかたをしてくる奴って、凄い無邪気か、淡々とした正義感MAXかの二択なんですよ。前者の場合は悪意なく残酷なことしてくるし、後者の場合は使命的な理由から行動しているので、止めさせようとするとほぼ確定で衝突します」


 無邪気はヨーロッパで語られる妖精タイプ。正義感MAXは天使みたいな神の使いタイプ。……まあ、どちらにせよ天災みたいなものである。


「とまあ、専門家の僕らがパッと思いつくパターンがこれなので、ちょっと霊視して目星を付けたいなと。多少踏み込んでもね。……大丈夫かい?」

「……は、はい。お願いします」

「良し。じゃあちょっと失礼するね」


 理解と同意を得られたようなので、早速所長が霊視を開始。焦点の合わない瞳で、ジーッと石動さんの顔を見つめ続けること暫く。


「……あ、あのー。これは、いつまで続くんでしょうか……?」

「場合によりけりですね。まあ、我慢してください」

「いやすっごい気まずいんですけど。……あと正直恥ずかしい」

「気持ちは分かります」


 見てくれは整っているとは言え、今日会ったばっかのオッサンに凝視されるのは、女子高生的にはツライものがあるだろう。それがうちの所長、怪しさMAXの見た目インテリヤクザなら尚更である。


「……うん。ちょっとは分かったかな?」

「そうですか。ちなみにですが、未成年を合法的に凝視したことに対する弁明は?」

「残念だけど、その軽口にはちょっと付き合えないかなぁ。──サチ君、これから真面目な話をするよ」

「……もしかしてヤバい状況です?」

「状況についてはまだなんとも言えない。ただこれは、僕よりキミの領分だ」

「へ?」

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