現実編04 火花

午後、校庭の片隅。

バスケットゴールの下で、静かに火花が散った。


偶然のような、必然のような。

涼真と雄大、二人の男が向かい合っていた。


「……偶然だな。ここ、人が少ないと思ったんだけど」


雄大が手の中でボールを回しながら言う。

表情は穏やか、けれど目は一切笑っていない。


「君に合わせたわけじゃないよ」


涼真はポケットに手を突っ込み、まっすぐゴールを見つめていた。


「でも、君もここに来るってことは……」


「君が彼女にとって特別だったのは、過去の話だろ?」


わずかに刺さるその言葉に、涼真の目が細くなる。


「それとも、取り戻すつもりか?」


一瞬の静寂。

そして、雄大は小さく笑った。


「もし君がそう思ってるなら……少しは警戒したほうがいいかもな」


その声の奥にあるのは、現・王としての揺るぎない自信。

彼は軽やかにボールを放ち、リングを正確に通した。


「君が彼女に触れた過去は否定しない。

でも——今、彼女の隣にいるのは俺なんだ」


その言葉に、涼真は唇の端をほんのわずかに吊り上げる。


「……そうか」


そして、風が吹く。

わずかな火種が、確かに熱を帯び始めた。


「なら、遠慮はやめるよ」


静かな声だった。

だが、その一言が二人の均衡を音もなく崩していく——。

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