現実編01 完璧な日常
澄みきった青空に、ひと筋だけ薄い雲が流れていた。
まるで、完璧な舞台に落ちた、微かなノイズのように。
中庭には上品な笑い声が響き、生徒たちは整った制服の裾を風に揺らしながら談笑している。
その中心で、ただ一人、光を纏ったように佇む存在がいた。
学園の頂点に君臨する“女王”。
「おはようございます、美桜先輩!」
すれ違う生徒たちが、儀式のように声をかけていく。
「おはよう。今日も頑張ってね」
美桜は微笑んだ。
それだけで空気が変わる。
光が差し込んだように、周囲がぱっと明るくなる。
隣を歩く芙美が、わざとらしくため息をついた。
「相変わらずの人気ね。……もう守護神か女神か、って感じ」
「また、からかって」
美桜が笑うと、芙美は肩をすくめる。
彼女――
双子の弟・
だがそれでも、彼女が敬意を込めて「美桜」と呼ぶ少女は、別格だった。
トップの成績。無敵の運動神経。非の打ち所のない社交性。
凰城学園の生徒会長、
そして何より――
生まれながらに、頂点に立つ存在だった。
「でもね、時々思うの。
美桜って、もう人間じゃない気がするのよ。神話から抜け出してきた感じ」
「ちょっと、人をモンスター扱いしないで」
軽口を叩き合いながらも、芙美の目には、どこか冗談ではない光があった。
完璧すぎる少女。だからこそ、どこか――
近づくのが少し怖い、そんな存在。
そのとき――
「美桜、おはよう」
その声に、美桜は振り返った。
朝日を背にした人影。
端正な顔立ちと、清潔感ある立ち居振る舞い。
「おはよう、雄大」
自然な笑顔でそう答えた。
けれど――
(……今日は、視線が逸れた?)
一瞬だけ、そんな気がした。
気のせい。
そう、自分に言い聞かせた。
いつも通りの朝。完璧な日常。
私たちの“王国”。
けれど、その空に流れた一筋の雲が、
ほんの少しだけ、不穏な影を落としていた。
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