第28話 次から次へと何なのよもー!
私、魔法使いのメオ! こっちは追加発注を受けたマンタクちゃん!
全然終わらないの! もうかれこれ一週間以上マンタク漬け!
ラギハッド支部長の一万個に加え、各都市の商人から追加発注受けまくり!
作れるのが私しかいないから、もうずーっとマンタクちゃん!
イスクさんのなんか見ないで作れるよ! あははっ! もう、こんな記憶消したい!
っていう、そんな、発狂しそうな日々を過ごしていたある日のこと。
「あの、メオを、お借りしても宜しいでしょうか」
急に、お店をビットが訪ねてきたんだ。
素朴な感じは昔のまま。
気恥ずかしそうにお店の入り口に佇む姿は、なんだか可愛いと思える。
『……ああ、この子がメオちゃんの』
「違います。息抜きも兼ねてちょっと離れますから、片付けお願いしますね」
『はいはい、それじゃあごゆっくりー』
ディアさんめ、怪しい笑みと共に手をひらひらさせちゃって。
私とビットはそんなんじゃないんだからね。
とはいえ。
二か月も離れてないと思うんだけど。
店から少し離れた木陰に二人で佇むと、やっぱり以前のビットとは違うって分かる。
「ジロジロと見て、なんか変なところでもあったか?」
「あ、ううん、背が伸びたねって思って」
「まぁ、俺もまだまだ成長期ってことだろうから、多少はな」
照れ笑いする姿とか、何も変わってないなって思える。
ロウギット石切り場で初めてあった時の笑顔、そのままだ。
「それにしても、ビットも遠征について行ってたって知らなかったよ。東の国も全部一緒に回ったの?」
「ああ、何事も勉強だって親方が言ってくれてな。それに、メオだって頑張ってるんだから、俺も負けないぐらい頑張らないと、隣に立てないだろ?」
隣に立つ?
風に揺れる髪を抑えながら、私は彼の顔を見上げた。
「何もなかったのに、あっという間に石切り場のトップに立っててさ。それに、あんな素敵なお店の店主でもあるんだ。普通じゃ出来ないことが、メオは出来てる。もちろんそれが簡単な事じゃないってわかってるけど、それでも凄いと思うんだよ」
ほめ殺しされて、ちょっと照れる。
意味もなく足を揺らしたり、手を後ろで組んでニマニマしちゃったり。
「最近だと、町の治安改善でも活躍してたんだろ?」
「それは、依頼されてね」
「だとしても、メオは最善策を叩き出したんだ。どれもこれも偉業と言えるレベルのことだと思う」
ふふっ、そうでもないけどね。
どれもこれもギリギリの、悪戦苦闘ばっかりだったけどさ。
終わってみれば、まぁ何とかなるもんだって、そう思えるよ。
もちろん、皆の助けがあってのことだけどね。
「俺、明日から、また親方と一緒に旅に出るんだ」
「……そうなんだ。今度は西? それとも南?」
「西、南は砂漠もあって、夏季に向かうべき場所じゃないみたいでさ」
そうなんだ、でもいつかは行く訳なんだし、結構大変な旅なのかも。
ビットも成長しようとしてるんだ、私も負けないようにしないと。
……って、これじゃビットと一緒か。
「ふふっ」
「どうした?」
「ううん、一緒だなって思って」
あ、疑問符を顔に浮かべてる。
旅に出るのに一緒とか、意味わからないよね。
ちょっと気が緩んじゃったかも。
「あの、今日来たのは、メオにお願いがあってさ」
「お願い? いいよ、私に出来ることならなんでもしてあげる」
「本当か? じゃあ……その」
彼は頬を朱に染めると、いったん視線を下げて、その後私を見て、また視線を逸らして。
なんだろう、なんでもないのに、胸がどきどきする。
見ている私の方も緊張しちゃって、思わず目を逸らしてしまったり。
「メオ」
「う、うん」
何を、お願いされるのかな。
同世代の男の子からのお願い。
ううん、ビットからのお願い。
どんなのか、ドキドキしちゃう。
「その……」
「……」
「その……メオの、マンタクちゃんを、俺にくれないか」
……。
……ん?
今この男、なんて言った?
「ごめん、一瞬耳が遠くなったみたい、もう一回言ってくれる?」
「メオのマンタクちゃんを、俺に譲って欲しい」
は?
「噂で聞いたんだ、マンタクちゃんを集めることが、その人への好意の表れだって。でも、俺には何個も買い集めるだけの金もないし、だけどメオのマンタクちゃんは他の男に渡したくないから、だから」
「あー、うん、あのね、ビット」
「頼む、一個でいい、メオのマンタクちゃんを俺に譲って欲しいんだ!」
何に使うつもりだよ、私のマンタクちゃん。
あー、ダメだ、なんか急に頭痛くなってきた。
「メオ!」
「ビット……あのね、私のは作ってないんだ」
「作って、ない?」
「うん。っていうか作る訳ないじゃん。ビットは私が全裸接客するように見えるの?」
「見えない……けど、メオが作ってるって聞いたから、てっきり」
試作品としても作らないわよ。
作る訳ないじゃない、あんな人間の尊厳ぶち壊すようなアイテム。
なんだかドキドキして損しちゃった。
でもまぁ、ビットらしいって言えばらしいけどね。
「万物従属」――――「〝形状変化〟ストーン・ゾナ・アルフ」
両手に魔力を集めて、標的を定めて集めた魔力を放つ。
魔力に包まれた小石、その全てをかき集めて、小さな枠を作り出した。
枠の中に小石を詰めて、形状変化して泥へと形を変える。
「……まさか、俺の為にマンタクを作ってくれるのか?」
「作る訳ないでしょ。ビットはこんな青空の下で、下半身露出する女の子と仲良くなりたいの?」
「それは……メオだったら、いいかなって」
そこはなりたくないって言いなさいよ、どうして私だと下半身露出していいと思うのよ。
ビットの中で私って一体なんなのかな、ちょっと悲しくなるよ。
はぁ、まぁいいや、気を取りなおそ。
枠の中に開いた手を押し込んで、形を固定させてと。
「自由爛漫」――――「〝形状記憶〟ボルンデッド」
固まった石から手を引き抜けば、私の手形が完成する。
「はい、私の手形」
「え、これ、貰っていいのか?」
「うん。体の一部を写した物なのだから、これでも一緒でしょ?」
そこら辺の小石で作ったものだから、価値はゼロに等しいけどね。
あれ? ……でも。
「ありがとう、俺、すっげー嬉しい」
こんなのでも、喜んでくれるんだ。
ものすごい喜んでくれていて、渡しただけなんだけど、なんか恥ずかしい。
「俺、これ、宝物にする」
「別に、しなくていいわよ、そんなの」
「いいや、する。これで旅に出ても、メオが一緒だと思えるのだから」
そこまで、なんだ。
ふへへ、ちょっと、嬉しいかも。
「忙しいところ、邪魔しちゃってごめんな」
「いいよ。最近ちょっと疲れてたし、良い息抜きになった」
「そっか……じゃあメオ、行ってきます」
「うん。行ってらっしゃい」
なんか、胸の辺りがぽかぽかする。
手形を大事に抱え込んだビットは、町の坂を下りて、やがて見えなくなってしまった。
見えなくなるまで、見送ってしまった。ちょっとだけ、寂しいって思う。
「いってらっしゃい、か」
見送ったんだから、出迎えてあげないとだよね。
帰ってきたら、おかえりって言ってあげないと。
「にひっ、まったくもう、ビットったら」
誰もいないのに、自然と笑顔になってしまう。
こんなのって初めて、何なのかなこれ。
「ディアさん、ただいまー!」
『お帰りなさい。あらあら、スキップなんかしちゃって、相当良かったんですね』
「別に何もないよ、お土産渡しただけだから」
『はいはいそうですか。あ、そういえばメオさん、フィアネさんが折り入って話があるそうですよ?』
フィアネさんが? なんだろう。
『二階で旦那さんと一緒に待ってますから、早く行ってあげて下さい』
「うん、わかった」
レストラン事業で何か問題でもあったのかな?
でも親方も一緒ってことは、ラミーちゃん問題?
まさか、今回の旅にフィアネさんも同行するとか?
うぅ……ちょっと、不安。
「失礼します」
二階に上がると、ご飯を食べる用のテーブルと椅子があって、二人はそこに座っていた。
腕組みしたアンドレ親方、凄く真剣な表情だ。
フィアネさんにいたっては、泣いていたのか目元が赤く腫れている。
とにかく、重い話になりそう。
「メオちゃん……」
「あの、お話があるとのことなのですが、一体?」
あまり良い話じゃないのが雰囲気から分かる。
こちらも覚悟して聞かないと。
「ああ、嬢ちゃんにしか頼めないことでな……俺は別にいらないって言ったんだが」
「ダメ! 絶対必要! あれがないと、私耐えられないよ!」
おお、夫婦で意見が食い違っている。
あんなに仲良さそうにしていたのに、一体何が。
「あの、結局、何が必要なのでしょうか?」
「メオちゃん!」
「はい」
「チン拓、作れるよね!?」
……。
……ん?
今フィアネさん、なんて言いましたか?
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