第27話 荒くれ者集団到来!

「アナタ!」

「おお、フィアネか、出迎えありがとうよ」


 大行列の先頭を歩くアンドレ親方へと、フィアネさんは飛びついた。

 飛びつくなり熱烈なキスをして、それはそれは何秒間もして、それからやっと離れた。


「馬鹿野郎、風呂にも入ってないんだ、臭くてたまらねぇだろうに」

「全然臭くないよ、だって、どんなのでもアナタなのだから」

「へへっ……おお、嬢ちゃん、恥ずかしいところを見せちまったな」


 いえいえ、恥ずかしいどころか、良いものを見させてもらいましたよ。

 しかし、なんて言うかまぁ、確かに荒くれ者集団に見えるね。

 全員ズタボロな服装だし、日焼けしているのか色黒で、屈強な野盗に見えてしょうがないよ。


「アンドレ親方、お疲れ様です。あの、もしかしてこの集団って」

「おお、北のサラウマから連れてきた商人どもよ。とはいえ、それだけじゃねぇんだけどな」


 アンドレ親方の視線が後ろの方へと向けられたので、私もそっちの方をチラリ。

 ん? よく見たら、集団の何人かは縛られているね。

 

「親方、あそこの人達って?」

「ああ、この町で悪さした奴らだ。なんでも、最近この町じゃ全裸接客なるサービスが流行ってんだって? それを目的にした婦女暴行事件が多発してるって、あちこちで話題になっててな。そんで、北の方に逃げてきた奴らに関しては、俺たちの方で捕縛したって訳よ」


 おお、さすがは親方、逃げちゃった犯人を捕縛してしまうとか、やることが凄い。

 

「まぁ、こいつ等捕まえる為にあちこちで全裸接客について聞いちまったもんだから、まるで俺たちが接客を受けたいみたいに扱われちまったんだけどな」


 あ、だから全裸接客を求めている荒くれ集団って噂が流れたのか。納得。


「でもまぁ、しょうがねぇよな。逃げた奴らがまたこの町にやってくるかもしれねぇし、ラミーやフィアネ、メオが事件に巻き込まれたなんて聞いたら、俺だって我慢ならねぇ。こいつ等には徹底的に罰ってもんを味わってもらわねぇとな! おいビット、そいつら、町の警衛に叩き出してこい!」


 あ、ビットも一緒だったんだ。

 はれ? なんかビット、前よりも大きくなってる気がする。

 腕も太くなってるし、なんていうか、男として成長した感じがするよ。

 

「おらっ、行くぞ! とっとと歩け!」


 おお、言葉使いも凄い。人間、変わる時は変わるもんだね。

 腕組みしたアンドレ親方に見守られながら、ビットに引っ張られていく犯罪者たち。

 あらかたいなくなった後、アンドレ親方の目がぎょろりと、私の方へと向けられた。


「ちなみになんだが、全裸接客、嬢ちゃんが始めたんじゃねぇよな?」

「私がそんなことを思いつくと思いますか?」

「まぁ、思わねぇな。いやな、いろいろと話を聞くと、どうやら回楽店で裸の店員がいたってのが事の発端らしくてな。まぁ、嬢ちゃんとこのディアさんの事なのか、とは思ってたんだが……そうか、てことは、誰かに盗み見されたってことなんだろうな」


 え゛、そうなの? このふざけたサービス、ウチが発端なの?

 ディアさんが裸というと、夜中かな? 

 おかしいな、ドーナツさんが魔力補填してるはずなのに。

 あのエロ猫め、後でとっちめてやらないと。


「あ、そうだ、メオちゃん、旦那に報告してもいい?」

「報告?」

「うん。メオちゃんのお店をレストランにする話」

「ああ、はい、どうぞ」


 フィアネさん、律儀だね。

 

「ねぇアナタ、私、メオちゃんのお店でレストランを開業しようと思っているの」

「ん? そうなのか? そりゃいいな、じゃあさっそく飯を食べに行こうじゃねぇか。おい野郎ども! 一旦ここで解散だ! サラウマの商人は俺と一緒に付いてきてくれや! 飯でも食いながら、今後について話し合おうぜ!」


 え? あのちょっと、待ってもらえます? 今の店内はいろいろと不味いのですが?

 あああ、ダメだ、この流れは止められる流れじゃない!

 フィアネさん、旦那さん大好きチュッチュッチュモード入っちゃってるし! 

 店に急げ! 今の店内を見られたら、何か不味い気がする!


「ディアさん!」

『え、何? どうしたの? そんな大汗かいて』

「マンタクちゃん、速攻で片してください!」

『え? なんで?』

「早く! お客様が来ちゃいますからー!」


 まぁね、間に合うはずがないとは思ってましたけどね。 

 だって、店内に転がってるマンタクちゃんの数、五百を超えるんですもの。

 当然のごとく、店内に入ってきたアンドレ親方たちに見つかることに。


「なんだこりゃあ、女のアソコ? おい、嬢ちゃんよ、こいつは一体何なんだ?」

「こいつは一体何なんだと聞かれると……ちょっと、恥ずかしいですね」

「もしかして、嬢ちゃんのをかたどったのか?」

「ちちち、違いますよ! 誰がこんな恥ずかしいの、する訳ないじゃないですか!」


 ゲラゲラ笑ってくれたアンドレ親方だったけど。

 事情を説明したら、いろいろと納得してくれたみたい。


「町の為って言われたら、そりゃ断れねぇよな。にしても精巧に作ったんだな、似すぎだろ」

「アナタ、他の人のなんだから、あんまり見たらイヤよ?」

「おお、すまねぇ。ははっ、なに、嬢ちゃんもいろいろと苦労してんだなって思ってよ」


 苦労はずっとしてますね、それこそ、気が休む日もないくらいですよ。

 フィアネさんが作ってくれたオヤツのカボチャパイを一口頬張る。

 美味しい、こんなの毎日食べてたら太っちゃいそう。

 

「そんな嬢ちゃんに、ちょっとばかしの朗報だぜ」

「朗報ですか?」

「ああ、北のサラウマ、東のコンベン、ジャルベン、ヴェルシンに関しては、石材【ラスレーの黒正妃】を、以前と同じ価格設定で購入することを確約してきたぜ」

「ホントですか!?」

「ああ、本当だ。さらには今回の視察次第では、石材の価格を上げてもいいと言ってきた。一方的に取引停止にした負い目を感じているのかもしれねぇけど、実際に石材の価値としては以前よりも上なんだろ? だったら適正価格ってのにしねぇと、市場が狂っちまうからな」


 確かに、以前の鉱石よりも硬度は上げてある。

 それで価値が上がったと言えるかどうかまでは分からないけど、以前と比べて違うのは確かだ。


「基本的に、魔力が込められたアイテムってのは相場が跳ね上がるもんなんだ。以前よりも若干の上乗せ、なんて条件は、見方によっては破格かもしれねぇけどな。何はともあれ、これで自分たちの食い扶持は確保できたって訳よ」

『残るは、南のグハロゼア、ラウグ、西のベルダー、ですよね』

「おお、ディアの嬢ちゃんも久しいな。って、なんだ、アンタまだ霊体のままなのか?」


 ふよふよと浮いてきたディアさんを見て、他の人も驚いているけれども。

 

「このディアさんを見られるのも、そろそろおしまいかもしれませんよ?」

「そうなのか?」

『まだ分かりませんけどね。フィアネさんの助言が正しければ、近日中には元に戻れるかもしれません』


 ふわりと浮いて、くるくると回転するディアさん。

 元に戻った時に同じことして、派手に転びそうな気がするね。

 しばらくは様子見てあげないとかな。


 ん? サラウマの商人さんが、マンタクちゃんを手にしながら親方に何か言ってる。

 物珍しそうにしているけど、何かな?

 あ、話が終わったみたい。


「嬢ちゃん、このマンタクちゃんっての、何個か購入してもいいか?」

「え? 親方がですか? あの、奥様が泣きますよ?」

「バカ野郎、俺じゃなくてこっちの方が欲しいそうなんだ」

「ああ、商人の方ですか。でしたら、顔を見て購入したらどうです?」

「顔?」

「はい、このマンタクちゃん、全裸接客を提供している、嬢のアソコを再現したものになりますので」


 アンドレ親方、その日の内に商人を連れて全裸接客に向かったみたいなんだけど。

 これがクリティカルヒットしたみたいで、商人さんの興奮はもう凄いことになったみたい。

 最初は見本に何個かって話だったのに、気づいたら千個単位での注文が入っちゃったのよね。

 男の人の欲望って凄いね、姿絵と一緒に購入とか、まぁ確かに売れるのかもだけどさ。


「私のアソコ……姿絵と一緒に世界中に広がるんだ」


 イスクさんたち全裸嬢、なんか落ち込んでたけど。

 でも、そもそも自分の身体を売りにしているのだから、むしろ大歓迎として受け入れて貰わないとね。

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