第26話 そして、町はより一層ピンクに染まりました!
「二次審査、満場一致で合格です」
接客嬢のマン拓を活用した新しい大人のおもちゃは、九人中九人が合格という結果を叩き出した。
二次審査を合格した大人のおもちゃ、その名も【マンタクちゃん】は、さっそく量産体制へと入る。
でもね、総数一万個、しかも接客嬢ごとに二百個ずつだから、作るの大変。
「ううぅ、分かってはいたことだけど、魔力が尽きちゃいそう」
『魔力無しだと、ラスレーの貴婦人と同じになっちゃうんでしょ?』
「そうですね……魔力切れはアウトなので、少しだけ休みます」
している最中に砕けた、なんてことになったら洒落にならない。
あーもうマン拓見たくない、ずーっと見てるから、なんか目が変になりそう。
右を見ても左を見てもマン拓って、こんなの異常だよ。
いいや、寝よう。まだあと八千個も作らないといけないんだから。とっとと寝よう。
……。
…………。
………………ん? もう朝?
眠い時って、どうしてこんなにも寝つきが良いのかな。
もっと寝てたい、朝が来たなんてきっと嘘だよ。
あれ? でもなんか、良い匂いがする。
思わず鼻が反応しちゃう、美味しそうな匂い。
(一階? ディアさんが朝ご飯作ってくれてるのかな?)
寝間着姿のまま、とたとたと階段を下りると。
そこには、金髪を髪留めでとめた、エプロン姿のフィアネさんの姿があった。
彼女は私に気付くと、朝日よりも優しく微笑む。
「メオちゃん、おはよう。ごめんね、勝手にキッチン借りてるから」
「おはようございます。いえいえ、どうぞ使って下さい」
魔法玉を活用している。
フィアネさんが魔女? ……あ、違うか。
フィアネさんの胸にしがみついたドーナツさんが点火したのか。
魔力持ってるもんなぁ、ドーナツさんを使えば、魔法玉も使えるってことか。
キッチンから店内へと向かうと、げんなりとする現実が目の前にあった。
五十人分のマンタクちゃんが転がる風景とか、こんなの現実じゃないよ。
なるべく目に入れないようにして、店内の一角に設けた席へと座り込む。
「お待たせしました。市場で買ってきた魚を焼いたものと、目玉焼きとベーコンセットです」
ことりと置かれたご飯の数々、なにこれ、すっごく美味しそう。
「これ、なんですか?」
「白米って言ってね、東方から取り寄せた穀物なんだって。他にも醤油とか、なんだか珍しいものが多かったから、いろいろと買ってみたの。メオちゃんのお口に合うといいんだけど、どうかな?」
白米……あんまり耳に馴染みがない食べ物だけど。
試しに一口、もぐもぐ……ふむ、ちょっと甘い感じ?
あ、でも、他のと一緒に食べると美味しいかも。
「美味しいですね」
「ほんと? じゃあレパートリーの一つに追加しようかしら」
『いいなぁ、私も食べてみたいなぁ』
ふよふよと、ディアさんがやってきた。
「霊体化、治らないですね」
『商談も決まって、結構大きな金額動いてるのにね』
マンタクちゃんの売り上げ次第では、一気に金貨十万枚が入る見込みなのに。
ディアさんの霊体化は、一向に治る気配がしない。
お店も繁盛してた時もあったし、何が治る条件なのかな。
「ディアさんの霊体化って、治るの?」
「ああ、フィアネさんは知らないんでしたっけ。ディアさんの霊体化は、この家に憑り付いていた悪霊によるものなのですが、その悪霊が言っていたのですよね。一度でいいからこの店を繁盛させたかったって。ですが、繁盛させても、商談を成立させても、治る気配が全然しないんですよね」
とはいえ、悪霊が言っていたことだから、全部信じていいものかって話でもあるんだけど。
雑談もほどほどにして、ぱくぱくと朝食を食べていると。
神妙な面持ちになったフィアネさんが、ぽつりと、言葉を口にする。
「ねぇ、もしかしてなんだけど」
「はい?」
「それって、そもそもが間違ってるんじゃないのかな?」
ベーコンを食べていた口が止まる。
え? そもそもが間違っていた?
「ほら、このお店って元々レストランだった訳じゃない? だから、繁盛ってことは」
「……ああ、ご飯を食べるお客様で席を埋めたいとか、そういう」
『え、それ、可能性として相当高くないですか?』
確かに、言われてみればその通りだ。
元々レストランだったのだから、お店の繁盛と言えばそっち系になる。
ディアさんが夜な夜なカウンターに立つ時も、ウェイトレスの真似事をしていたし。
「でも私、料理出来ないし」
「私、これでもコックの資格持ってるの。それにね、ラミーも大きくなってきたから、ちょうど仕事探しもしてたところなんだけど……」
え、それって。
フィアネさん、慈母愛溢れる笑みを浮かべると、しゃんっと、両手を握ってアピールしてきた。
「メオちゃん、どう? 私、雇ってみない?」
「い、いいんですか?」
「うん、あのキッチン目にした時から、頭の中でレパートリーが浮かんで止まらないの。もともとそっち系で仕事もしたかったんだけど、なかなか条件が合わなくてね。ここでなら家からも近いし、最悪、二階でラミーを寝かせることも出来るかなって、思ったりして」
ぺロって舌を出したフィアネさん。
え、待って、めっちゃ可愛い。
ちょっと真似してみよ。
ペロっ。
『やめておきましょうか』
「なんでですか」
『走り終わった犬みたいですよ』
「走り終わった犬ッッ!!!」
べろんべろんになんか出してないもん!
これでも可愛くしたつもりなのに!
「ふふっ、大丈夫、メオちゃんはそのままでも可愛いから」
「そうですよね、ほらディアさん、私は可愛いですって」
『はいはい、良かったですね。それはそうとフィアネさん、いいんですか?』
目を細めて笑っていたフィアネさんへと、ディアさんが問いかける。
「え? うん、全然、私は構わないわよ?」
『ありがとうございます、私の為に』
「やだな、ディアさんの為じゃないから。これは私の為にやることなの」
『……では、そういうことにしておきます。元の身体に戻ったら、恩返しさせて下さい』
ぺこりを頭を下げるディアさんに対し、フィアネさんは優しく微笑む。
二人とも、どこか大人な対応をしているのは、やぱり大人だからだよね。
二人を見習って、私も大人になる努力をしないと、かな。
「霊体化、早く治るといいわね。はい、じゃあメオちゃんはご飯食べて、作業再開しましょうか! 完成品は私が商工会に持ち込むから、じゃんじゃん作っちゃってね! そして作業がひと段落したら、この店の改装工事に取り掛かりましょうか!」
話が早いなぁ、なんかフィアネさん、早くレストラン開店したくてウズウズしてるみたい。
私がお店開く時もあんな感じだったっけ、ふふっ、なんか初々しくていいね。
「レストランですか、それはいいですね」
マンタクちゃんを納品したフィアネさんから聞いたんだろうね。
様子見に来たラギハッドさんが、さっそくレストランについて話題にしてきた。
「お店の半分ぐらいを飲食スペースに改装すれば、雑貨店との両立も出来るかなって」
「そうですね、それに改装工事と言っても、魔法で済んでしまうのでしょう?」
「ですね、石と岩なら、ものの数秒で完成させられます」
『なんて言ったって、初日に私巻き込みながら全壊、復旧させたものね』
うっ、ディアさんめ、痛いところを突いてくるね。
苦笑いしていると、フィアネさんもキッチンからとことこと、会話に混ざりに来た。
「それに、この立地条件ならオープンカフェみたいな感じで、外に客席があっても良いと思うんですよね。二階のデッキをもっと大きくして、テラスみたいにしたら景色も良いし、お客様も喜ぶと思うんだけど。メオちゃん、どうかな?」
ふむ、二階の物干しエリアを改造か。
ラギハッド支部長もいることだし、聞いてみるか。
「それって、町的に大丈夫なんですか?」
「二階の改造ですか? よっぽど常識外れでなければ大丈夫ですよ。ただ、日照権の問題もありますから、程々にしておいてくださいね」
日照権、つまりは太陽が当たる権利か。
立地的にあまり大きいと、下の家の人に陽が当たらなくなってしまうものね。
さすがはラギハッドさん、博識だね。
と、内心関心していると、ラギハッドさん、パンっと手を叩いた。
「さて、それでは本題に入りましょうか」
「本題?」
「ええ、さっそく各店へと、大人のおもちゃ【マンタクちゃん】を納品した訳ですが」
そうか、もう実際に店舗に配布されたのか。
早いな、この前試供品が合格したばかりなのに。
ドキドキしながらラギハッド支部長の次の言葉を待っていると。
支部長の口角が、いやーに上がってきた。
「お客様の評価は上々です、中には何個も買い取りたいと言ってくるお客様もいるみたいですよ」
「凄い、本当ですか」
「はい。各個人の形を模した物と謳っておりますので、どうやらそれが推し活として認識されたみたいです。どれだけの数、好きな接客嬢のマンタクちゃんを購入できるか。それがその人のパラメーターとなっているとか。分かりやすく言いますと、俺の好きな子のマンタクちゃんは、誰にも渡さねぇ! という感じみたいですね」
あー、なるほど。
恋愛感情的な何かが発動している感じなのかな。
独占欲、かな? 確かに、好きな子の大事な部分は、他の人には見せたくないものね。
「ということは、作戦は大成功、ということですよね」
「評価に関しては。ただ、それと犯罪傾向はまた別ですからね。実際に婦女暴行事件が無くなって、初めて作戦成功と言えるでしょう。それに、北の荒くれ者集団も、そろそろ町に到着する頃でしょうから……まずは、彼らを乗り切る、それが第一目標と言ったところでしょうか」
そっか、そんな集団がいるんだっけ。
恥ずかしい集団だよね、全裸接客に飢えてるって、結構な恥だと思うんだけど。
それから三日後、マンタクちゃんの納品が半分くらい終わった頃。
「来ました、間もなく、荒くれ集団が街に到着します」
お店に来たラギハッドさんが、彼らの到来を教えてくれた。
店の二階へと上がり、そこから梯子を掛けて屋上へと上がる。
高い場所にある回楽店からは、結構遠くまで見ることが出来るんだけど。
「うわ、なんですかあの行列」
『凄いわね、北ってことはサラウマから来たってことでしょ? 一体何人いるのよ』
あんな行列が、全員全裸接客を受けにきたってこと?
いやいや、馬鹿でしょ、男ってそんな生き物なの?
なんか、世の中の男を信じることが出来なくなってきたよ。
「……あ」
だけど、何かに気付いたフィアネさんが、口元に手を当てる。
「どうしました?」
「あの行列、ウチの人」
「ウチの人……え、アンドレ親方ですか!」
フィアネさん、相当に嬉しいのか、瞳をうるうるさせちゃってる。
え、でも待って、アンドレ親方が全裸接客の為に人を連れてきたってこと?
いやいやいやいや、さすがにそれはないって。
だってフィアネさんいるんだよ? アンドレ親方には不要でしょうに。
「私、旦那を迎えに行かないと」
「ちょ、ちょっと待って下さい、私も行きます!」
どういうことなのか、きっちりと説明してくれないと。
アンドレ親方に限って、それは無いとは思うけど。
さすがに、ないよね?
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