第25話 最後に愛を添えて!
「残念ながら、二次審査は失格となりました」
申し訳なさそうにラギハッド支部長は言ってくれたけど。
失格? え、この二次審査って、失格とか存在するの?
「二次審査はランダム抽選で九名の男性にご協力頂きました。九名の審査員の内、合格を出したのは四名、そして不合格を出したのは五名でしたので、今回は不合格と相成りました」
『相成りましたって……支部長、何がいけなかったのでしょうか?』
たまらずディアさんが質問する。
私だってそうだ、何がいけなかったのか知りたい。
「一番の理由は、していて
「していて虚しい?」
「はい、イチモツを筒に入れて、なぜこんな事をしないといけないのかと」
それは、審査員だからなのでは?
そんなので不合格にされたら、さすがに不満が顔に出ちゃうよ。
『虚しいも何も、実際には全裸接客を前にしながらするんですよね?』
「前ではしないですよ? サービスの後、渡すのです」
『どっちでもいいですけど、要はオカズがあるか無いか、ただそれだけの話ですよね?』
「オカズは渡しました、秘蔵の一品でしたから、不満足なはずがありません」
オカズって、何? 二人は何の話をしているの? 秘蔵の一品?
『とにかく納得いきません、これ以上のものなんて、私たちには作れませんよ?』
「とはいえ、我々のものづくりに対する考え方はランキング至上主義です。皆に愛される物、それこそが需要のある商品なのですから、この二次審査を超えない限りは、商品化はあり得ません。というか、すっかりそっち側の考え方をしていますが、本来ディアさんはこちら側の人間なのですからね?」
『そうですけど……それでも、納得がいかなければ噛みつきますよ』
ディアさん、悔しそうにしている。
でも、ラギハッド支部長の言っていることは正しいんだ。
半数の人がダメだと言った、なら、改善しないといけない。
何がいけなかったんだろう。
虚しい原因、それって何かな。
頭の中にある試供品を、きっちりと思い浮かべてみる。
火山岩を使ったから、色は白い。
筒状で、持ちやすいように手の形に凹ませてある。
中身はジャガイモと水、それと泥を混ぜた混合物。
実際にイチモツに触れる部分は、傷つけないように薄く魔力を張った柔らかい泥。
それが試供品の全部、傍目的には単なる筒にしか見えないのは、男性への配慮だ。
「ディアさん、虚しいってことは、寂しいってことですよね?」
『え? ……まぁ、そういうことなのでしょうけど』
「そもそも全裸接客なんて受けに行くんですから、相方もいないってことですよね?」
「それに関しては、私の方で市場調査したものがあります。全裸接客を受けているのは独身、もしくは高齢の妻帯者がほとんどでした」
ラギハッド支部長がディアさんの代わりに教えてくれた。
でも、そうだよ、相手がいればそんなの見に行く必要なんてほとんど無いはずなんだ。
つまり、全裸接客という商売の需要は、寂しい男性の為にあると言ってもいい。
「全裸接客って、一番大事な部分を見せないんですよね」
「はい、見せておりませんね」
「うん、わかった。見せましょう、一番大事な部分」
しん……っと静まり返る店内。
あれ? 私、何か変なことを言ったかな。
「ダメですよメオさん、大事な部分は見せないと、接客嬢と約束しましたから」
「ええ、彼女たちが直接見せる必要はないと思います」
「……どういう意味ですか?」
ふぁさっと、ラギハッド支部長の頭が揺れた。
負けじと、私も自分の髪を手で靡かせる。
「そうですね。とりあえず、イスクさん達を呼び出して貰えますか? 出来たらフィアネさん、婦女子会の皆さまにも来るようお願いします。その間、私も準備をしないといけませんので、誠に勝手ながら、これにて失礼いたしますね」
席を立つと、すぐさまディアさんが付いてきてくれた。
『大事な場所を見せるって、何か良い案でも思い浮かんだの?』
「うん、多分、これが成功すれば二次審査は間違いなく合格だと思うの」
『そう、私には良く分からないけど、メオちゃんがそう言うなら大丈夫ね』
「ありがとう。じゃあ、ちょっと店の周りの石、集めてきますね!」
私の提案から一時間もせずに、結構な人数が集まってくれた。
夕飯前の大事な時間なのに……やっぱり、他人事じゃないからかな。
「ごめんね、もっと早く来ようと思ったのだけど、ラミーが離してくれなくて」
ぱたぱたとやってきたエプロン姿のフィアネさん。
奥様って感じ、とっても可愛らしくて良きです。
「いえいえ、急に呼び出しして申し訳なかったです」
「聞いたけど、二次審査ダメだったんだって? それで、何か新しい妙案でも思いついたの?」
「そうですね……関係者も揃い始めてますし、そろそろ始めましょうか」
前は傍観者だったけど、今回は最前線に私が立った。
ぺこりとお辞儀をして、集まってくれた人たちへと視線を流す。
「夕飯前の忙しい時間にお集り頂き、誠にありがとうございます」
「前置きはいい、とっとと本題に入ってくれねぇかな? ウチ等、稼ぎ時の時間なんだけど」
イスクさんの言う通りだ、早く本題に入ろう。
「では、さっそく本題に入らさせて頂きます。まず、皆さまのお耳に入ったかどうかは不明ですが、今回作成した試供品は、二次審査にて不合格との判定を頂きました。不合格の要因として一番大きかったものが、していて虚しい、という意見です」
ざわつく店内、真っ先に挙手をしたのは、やはりイスクさんだった。
「していて虚しいって、意味分からねぇんだけど」
「私たちも、何を言われたのか最初は理解できませんでした。だから、納得できなくて商工会の支部長さんに噛みつきもしました。けど、結果が出ている以上、今のままじゃ覆すことが出来ません。そこで考えたのです、そもそも全裸接客が求められている理由と意味を」
またしても店内はざわつき始める。
だけど、今はそれが収まる時間なんて待っていられない。
「結局、男の人って相手を求めているんですよね。ご存じでしたか? 全裸接客を利用する男性のほとんどが独身である、もしくは冷めた夫婦関係の男性であることを」
「……まぁ、相手がいたら見に来ないわな」
「はい、イスクさんの言葉通りです。そこで私は考えました。せめて、試供品の形状を愛くるしいものに変えるべきなのではないかと。そして更に、サービスとしてもう一歩踏み込んだものが必要なのではないかと。つきましては、一点、接客嬢の皆さまにご協力をお願いしたいと思います」
魔法を使い、持ち運んできた石を四角い枠状の物へと変えると、中を泥で満たした。
ここが一番大事、何が何でも説得しないといけない。だから、声を大にして言う!
「一番大事な部分を見せたくないという意見は理解します、しかしお客様は見たいのです! そこで私は考えました、ならば、大人のおもちゃの挿入部分を、接客嬢の一番大事な部分と似せて作ればいいのではないかと! いいえ、似せるなんて甘い言葉は使いません! 魔法により、シワの一つまで精巧に真似た形に作り上げればいいのではないかと!」
叫びながらも、泥を満たした枠は次々に完成していく。
それこそ、接客嬢一人ひとりの前に、着々と完成させていくんだ。
「ふ、ふざけんな! 結局それって見せるってことじゃねぇか!」
「ですが! これが一番相手の要求に応えられる形なのです! 目の前にいる接客嬢、それと同じ形をした大人のおもちゃがあるとしたらどう思いますか!? たまらないと思いませんか! 男性目線で物事を考えた場合、これが最適解だと言わざるを得ないのです!」
していて虚しいの一番の理由は、相手がいないことだ。
もし、相手の大事な部分だと想定した場合、絶対に虚しいなんて気持ちは出て来ないはず。
「いやよ! 知らない男の前で脱ぐだけでも恥ずかしいのに!」
「大事な場所が見せたいのなら、貴方のを見せればいいじゃない!」
「私たちは見せるだけ! それ以上のサービスを求めるなら他の町に行けばいいのよ!」
反論する接客嬢たち、そんな彼女たちの意見を封殺するのは、婦女子会の皆さまだった。
「貴方達、以前言っていたわよね? 私たちはただ服を脱ぐ仕事じゃないって」
「そうよ、プライドを持って仕事をしてるって言ってたじゃない」
「だったらもっと、お客様の要望には応えるべきなんじゃないの?」
「実際に見せる訳じゃないんだし、いいじゃないの、作らせてあげなさいよ」
さすがは子育て真っ最中の奥様方、意見が強い。
「で、でも、さすがにそれは」
「イスクさん」
「な、なんだよ」
イスクさんの爪が綺麗に彩られて、細くてしなやかな指を絡めるように握ると、彼女は頬を赤らめた。
真摯な瞳、これでもないぐらいに真面目な視線を、彼女へと近づける。
「お願いします。イスクさんの愛を、形として込めさせて下さい」
愛があれば、寂しいなんて感情は絶対に沸かない。
凄く、とっても凄く悩みぬいたイスクさんだったけど。
「……っ、わかったよ。協力するよ」
「――ッッッ! ありがとうございます! ではさっそく作業に入りたいと思います! はいディアさん、店内のカーテンを閉めて下さい! 接客嬢の皆さんは下を全部脱いで、枠の中に腰を下ろしてください! 婦女子会の皆さまは彼女たちのサポートをお願いします! 急いでやりしょう! 彼女たちは稼ぎ時の時間を費やしているのですから! はい急いでー!」
言質は取った、逃がさないぞ、絶対に逃がさないからね!
接客嬢全員分のマン拓、しっかりと取らさせてもらうんだから!
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