第21話 男の人って、どうやったら満足するの?
ラギハッド支部長の依頼を受けて、いざ大人のおもちゃ作りに手を出したものの。
よくよく考えてみると、私、男の人の性の捌け口なんて、どんなのかサッパリ分からない。
ふよふよと浮かぶディアさんへと、分からない旨を伝えてみたところ。
『分からないなら、作る必要もないんじゃない?』
なんて返事を頂戴してしまった。
「でも、大人のおもちゃは、この街の治安回復の為でもあるんですよね?」
『だからこそ、ウチだけに依頼しているはずがないじゃない』
そうなの?
魔法の力がどうとか言っていたくせに?
『金額も金額だし、街のお店全部に声掛けしていてもおかしくないわよ?』
「そういうものですか……じゃあ、作ったとしても、採用されない可能性もあるってことですか」
『より上を求めるでしょうからね。まぁその上っていうのが、どんなものかは分からないけど』
より上を目指す、か。
大人のおもちゃで上なんて存在するのかな。
「ところでディアさん」
『なに?』
「男の人って、どうやったら満足するのですか?」
あ、ディアさん固まっちゃった。
そんな、珍獣を見るような目で見ないで欲しいです。
「いえ、私、森で生きてきたじゃないですか。以前お伝えした通り、森には若い男の人っていなかったんですよ。女の人が満足するのは、そりゃ私自身ですから分かりますけど、男の人のは知識としてサッパリでして」
『ああ、ネタじゃなくて、本気で知らないのね』
「多少は知ってますよ? ベッドで一夜を共にして……っていうのは、お母さんから教わりました。そうじゃなくて、男の人って何をどうやったら満足するのかなって。女の子なら、ほら、ね? イジル場所イジっていれば、それこそ手を使わずに、股で擦るだけでイっちゃうじゃないですか」
『性感帯を知りたいってことでしょ? そうね、私もそこまで経験豊富な訳じゃないけど。なんていうかな……こう、細い棒があるじゃない? これを一生懸命に擦るというか、先端を舐めるというか。ところでメオちゃん、男性器って、見たことある?』
「そりゃ、ありますよ」
『本気の状態のよ? 勃起っていうんだけど』
勃起。
多分、あの時のビットのが、その状態だったんだろうな。
太くて長くて、血管が浮いていて、なんかもうとにかく凄かったし。
「まぁ、ありますね」
『……誰の?』
「誰のって、誰のでもいいじゃないですか」
『お父さん?』
「違いますよ」
『ふ~ん?』
なんですかその目は。
ターゲットを定めた猫みたいな目をしないで下さい。
『まぁ、メオちゃんの恋愛事情には触れないでおくとして』
「恋愛じゃないです」
『そういうことにしておくわね』
「違います」
『私が言いたいのは、だったらその勃起している男性器を見せてくれた人に、直接伺えばいいんじゃないの? って話。所詮私だって女だし、男性器の性感帯なんて言われても、世間一般の常識の範囲内でしか知らない訳ですし? まぁそれを言えば、性感帯なんて十人十色なんでしょうけどね』
性感帯って十人十色なの?
ということは、ディアさんのと私のでも違ったりするのかな。
子供の頃、お泊まり会で見せ合いっことかしてる友達はいたけど、私は仲間に入らなかったのよね。
「ねぇ、ディアさん」
『なに? やっぱり恥ずかしい?』
「いえ、ディアさんのも参考に見せていただけないかなって、思いまして」
『は?』
あ、ディアさんまた固まっちゃった。
今度は天井に張り付いて動こうとしない。
「十人十色な訳ですよね? だとしたら、私とディアさんとでも違うのかなって」
『お、女は大体一緒でしょ? 大した違いなんてない……あ、ちょっと待って! なんで急にカウンターに商品を置くの!? メオちゃん、私のこと裸にするつもりでしょ!? そうはいかないからね!? こっちには魔力補填のドーナツちゃんがいるんだから! ほらおいで、ドーナツちゃん!』
残念ですが、ドーナツさんは既に買収済みなのですよ。
ディアさんの裸が無条件で見られるのなら、彼は絶対に動くことはないのです。
『え、え、え、ちょっと待って! 本気!? 本気で裸にするつもり⁉』
残念ですが本気です、こちとら金貨十万枚が掛かっているのです。
裸の一個や二個ぐらい、バニースーツと共にくれてやってるんですよぉ!
「店員さん! これ下さいな!」
『やめてええええぇ!』
数分後。
「ふむ、やはり大差はない感じですね」
『ひっく……昼間の店内で裸とか、私もう……お嫁に行けない』
「大丈夫ですよ、周囲には誰もいませんでしたし。それに見せあいっこだったじゃないですか。恥ずかしいのはこっちも同じだったのですから、運命共同体として諦めて下さい」
しかし、女性器の方に大差がないとなると、やっぱり男性器の方に注力しないとダメか。
ビットに頼むのもなぁ、また変な誤解されそうで嫌だし、他に誰かいい男はいないものか。
信頼出来て、裏切らなくて、それでいて情報通で、商品の可否を審判出来る人。
……ん?
『どうしたの、また何か変なことでも思いついたの?』
「変なことというか、一番役に立つ協力者を思いつきました」
『一番役に立つ協力者?』
両手を頭の上に持ってきて、わさわさと木の精霊の真似をする。
「はい。ラギハッド支部長に実演して頂きましょう」
『え、私、あの人の性感帯とか知りたくないんだけど』
「そうは言っても、ラギハッド支部長が審判を下す訳じゃないですか。だったら、彼を攻略すれば全てが丸く収まるのではないのでしょうか? 好き嫌いはあるかもしれませんが、金貨十万枚が掛かっているのですよ? それこそ大成功すれば、ディアさんだって元の姿に戻れるかもしれないじゃないですか」
ここ最近それなりに盛況だったのに、ディアさんは相変わらず幽霊のまま。
でも、金貨十万枚となれば、さすがに話は変わってくるはず。
『確かにそうかもだけど……』
「それじゃあ何ですか? 経験豊富なディアさんなら、私たちだけで大人のおもちゃを作れるとでも?」
『経験豊富? どうしてそう思ったの?』
「え? ……ディアさんのって、私のよりも結構色が」
『うるさいわね! そういうこと思っても口にしたらダメなのよ! 私は二十二歳で未経験、満足した!?』
未経験? あの色で?
うむむ……確かに、十人十色ってことなのかも。
なんか、ものすっごくディアさんが怒り始めちゃったから、逃げるように商工会へ。
さっそく、ラギハッドさんに性感帯を教えて貰えないか相談したところ。
「そんなの協力できる訳ないじゃないですか」
ピキリ顔で断られてしまった。
うう、あっちもこっちも怒ってるよぉ。
「ちなみに言っておきますが、試作品に関しては私だけではなく、街の協力者数名にて行う予定となっております。ですので、私だけを悦ばせても銅貨半欠け分すらも意味がないということを念頭に入れておいて下さい。第一、それだと組織のお金を私的利用していると判断され、私の首が飛びます。絶対に協力はいたしませんので、悪しからず」
むぅ、良案だと思ったのにな。
ラギハッド支部長に断られたとなると、誰に頼ればいいのかなぁ。
考える度にビットの顔がチラつくけど……ビットはないない、絶対に無い。
他に誰か……信用できて襲われなくて協力してくれる男の人。
そんな都合の良い人なんて、いる訳ないよなぁ。
「あら、メオちゃんじゃない」
とぼとぼと街を歩いていると、目が覚めるような金髪の美人さんに声を掛けられました。
愛嬌の塊の笑顔、母性溢れる大きい胸、出産してもなお、くびれた腰つき。
アンドレ親方の奥様、フィアネさんだ。
「フィアネさん」
「どうしたの? いつになく暗い顔をして」
「フィアネさん? …………、あーーーー!!! フィアネさん!」
「え、な、何、どうしたの?」
「すいません! 旦那さんを私に貸してくれませんか!?」
「ウチの? ちょ、ちょっと待って、どういうこと?」
「ここでは何ですので、いったん店まで来てください!」
これはきっと天啓だ、神様が引き合わせてくれた奇跡だ!
この町に住むフィアネさんなら、あの優しいアンドレ親方なら、きっと!
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