第16話 借金増額するよ! やったねメオちゃん!
私、魔法使いのメオ! ランボリピーの街で、
こっちは住み込み幽霊店員のディアさん!
夜中にカウンターに立つわ、物売ったら満足して全裸になるわで、もうめちゃくちゃ!
でも、お店を繁盛させないと私もディアさんも死んじゃう!
なので! 今日は商品の元となる、石材の搬入をしたいと思います!
「よう嬢ちゃん、久しぶり」
「アンドレ親方―! え!? ビットも来てくれたの!?」
「ああ、母さんがメオの様子を見てこいって煩くってな」
ペイムさんは相変わらずみたいで、なんだかほっこりする。
もうセンメティス村を出て三日も経過したんだなって、改めて実感するよ。
「あれれ? 石材の搬送だから、てっきりロクジさんが来るかと思っていたのに」
「父さんは基本運航管理だから、搬送は俺達、下の人間の仕事だよ」
「ふぅん……それにしても、結構な量を運んできてくれたのね」
店に来る前にそれなりの量を柔らかくしておいたから、楽に搬送出来たと思うけど。
見ると、荷馬車……じゃないな、牛? 荷牛車?
「え、牛で持ってきたの?」
「石材は重いからな。馬だと荷車を繋ぐハーネスが肺を圧迫して、速度が思ったよりも出ないんだよ。だから、こういう時は牛が重宝されるんだ。村には酪農やってる人が多いからな、それに馬よりも牛の方が数も多いし、いろいろと便利なんだ」
へぇ……牛さんでも荷物って運べるんだ。
『あら、随分沢山の荷物を運んできてくれたのね。これが噂の石材【ラスレーの黒正妃】なの?』
「はい、ディアさんも見たことありますか?」
『黒貴婦人の時はね。ふぅん、本当にそのままだ。名前を変えて、再出発ってところね』
ディアさん商工会の人だものね。
そりゃ見たことあるに決まっているか。
運び込まれてくる石材に目を通していると、つんつんってビットに肘で突つかれた。
「なぁメオ、この綺麗な人って、誰?」
「あ、えっと、紹介するね。ランボリピーの商工会に務めている、ディアトートさん。私はディアさんって呼んでいるんだけど、彼女もこのお店の手伝いをしてくれる事になったの」
まぁ、強制なんだけどね。
呪われているとかは、言わなくてもいいか。
『アンドレ親方は何度か顔合わせしているけど、ビット君は初めてですね。商工会職員、ディアトート・Z・ゼンマンって言います。ディアでいいからね』
「ご丁寧にありがとうござます、ビット・ガウ・サマーです。宜しくお願いします」
ビットが手を差し出してきた手を、ディアさんはきちんと握手で返した。
握手出来るのかな? って思っていたけど。
魔力があれば首絞めは出来る、つまりは握手が成立するのか。
「さてと嬢ちゃん、この石材なんだが」
「あ、はい! 一度見本品を作って商工会に提出しないといけないみたいなので、一旦バックヤードに置いといてもらえると助かります!」
これだけの量が入るかな? って気もするけど、倉庫もあるし大丈夫よね。
いざとなれば溶かしてしまえばいいし、収納で悩むことは無さそう。
と思っていたのだけど、親方はハゲ頭を横に振った。
「違う、嬢ちゃん、この石材を渡す前に、契約を締結して欲しいんだ」
「契約を締結、ですか?」
「ああ、アロウセッツ侯爵との契約で、嬢ちゃんはロウギット石切り場の支配人となった。基本的運用は俺達が継続して行うが、俺達だって霞を食べて生きていける訳じゃねぇ。石切り場従業員としての賃金をきちんと支払うっつー、約束みたいな事をして欲しいんだよ」
そうか、アンドレ親方たちのお賃金、私が支払わないといけないのか。
侯爵様が手放したのは、ロウギット石切り場の権利、だものね。
「わかった。でも親方、私、賃金の相場とか全然分からないの」
「これまで通りで構わねぇよ。とりあえずウチのに作らせた書類があるんだが、店内、借りていいか?」
「まだ椅子も何もないから、今すぐ作るね」
石材を椅子とテーブルに変えると、私と親方、ディアさんとビットの四人が席に着いた。
広げられる書面、相変わらず分からないので、私は話に集中することに。
「まず、俺達の賃金だが、出来ることならこれまでと同じ賃金をお願いしたいと思っている」
「それは、その通りだと思うのですが」
『ちなみにメオ、今動かせる資産とか、あるの?』
「銅貨一枚すらありません」
『そうよね、そうだと思った。ということは、商工会の信用払いを利用する、ってことかしら?』
信用払いって、何?
「出来ることなら、それをお願いしたい。メオちゃんには申し訳ねぇが、アンタにはロウギット石切り場を担保にして、再度借金を背負って欲しいんだ」
「再度借金、ですか」
「ああ、少なくとも今のロウギット石切り場は、金貨二十万枚の価値があると侯爵様が認めたようなものだ。それを担保にすれば、四分の三ぐらいの金額にはなってしまうが、担保として商工会から金が借りられる。金貨十五万枚だ、それだけあれば、当面の運営資金にもなるし、俺達の賃金も支払える」
金貨十五万枚か、確かに、それだけあればお金には困らなそうだけど。
なるほどーと感心していたけど、それに関してビットが待ったを掛けた。
「でも待ってくれよ親方、その場合、メオの借金は」
「ああ、金貨三十五万枚に膨れ上がる」
「そんなの無茶だろ、毎月の支払だけで幾らになるか」
うーん、想像出来ないね。
想像したくもないけど。
『でも、支配人として人を雇っている以上、賃金を支払わない方がデメリットは高い』
「ああ、ディア嬢の言う通りだ。信用を失い、借金すら出来なくなっちまう可能性が高い。そうなっちまったら完全に詰みの状態だ。俺達も職を失い、石材の搬送すらままならない状態になっちまう。掘削、搬送、販売、これら全部を、嬢ちゃん一人でやらないといけなくなっちまうんだ」
なるほど、これは事実上、ほぼほぼ強制の借金な訳か。
「わかりました。ディアさん、商工会の信用払いっていうの、間違いなく借りられるのかな?」
『ええ、商工会職員の私が保証してあげる』
「ありがと、ディアさんいてくれて本当に良かった」
『書類作成は私の方で行いますから、アンドレ親方、申し訳ないのですが、必要書類の全てを、商工会から取り寄せてはいただけないでしょうか? 私が動ければ私が向かうのですが、実は私、この店舗に呪われた幽霊でして』
言うと、ディアさんはふわりと浮かび、ぺろりと舌を出した。
「おお、事故物件とは聞いていたが、アンタが噂の悪霊か」
『私じゃないですよ? 元々の悪霊はメオちゃんが追い払ってくれたのですが、その場に一緒にいた私が、間抜けにも取り憑かれてしまっただけの話です。その証拠ではありませんが、こうして触れることも出来ますし、お店が繁盛すれば、いずれは元の身体に戻れますので』
ディアさんにはお世話になりっぱなしね。
アンドレ親方といい、ディアさんといい、いつかしっかりと恩返しをしないと。
「持ってきたぜ、必要書類一式」
「ビット、ありがとう」
うわー、これまた細かい字が沢山だ。
しかも何枚あるのこの書類、契約書に担保証明、なんかいろいろあって、目がグルグルしちゃう。
『メオちゃんには、後で端的にまとめて説明してあげるからね』
「うぅ……すいません、本当に助かりますぅ」
『持ちつ持たれつよ。さてとアンドレ親方、ここからは身内、として話を進めさせて貰ってもいいかしら?』
髪を後ろに縛り上げると、ディアさんは足を組んだ。
『賃金に関しては、私も知らない世界ですから、このままでいいと思います。見れば親子のような関係ですから、父である貴方が娘であるメオちゃんに吹っ掛けるとは思えません。恐らくそのまま、と言いつつも、可能な限り減らしているのでしょう?』
そうなの? アンドレ親方は何も語らず、腕組みしたまま。
自分たちに負担が掛かっているってことを、私に知らせないための配慮かな。
みんな、優しすぎるよ。
『とはいえ、この借金の全てをメオちゃんが負担する、というのは、少々手厳しいのでは? 金貨十五万枚の借金はメオちゃんが背負うにしても、支払いに関しては貴方達も負担すべきだと、私は進言いたします』
賃金を減らして、そこから更に借金返済の負担をしろって。
それは流石に……でも、そうでもしないと厳しいのが、きっと現状なんだ。
まだ動いていないお金、その流れを見据えて、二人は話をしている。
ここは黙って、ディアさんに任せよう。
『それと、金貨二十万枚の借金、これも全額メオちゃんに支払わせるつもりじゃありませんよね? こんな年端も行かない小娘を借金漬けにして、そのまま自分たちはぬくぬくと生活し、支払いが滞りそうになったら逃げるとか、そういう事を考えてはおりませんよね?』
「そんな訳ねぇだろうが」
『ですが現状、貴方は何も背負っていない』
アンドレ親方に負けないぐらい、強い姿勢のまま、ディアさんは語る。
『言葉だけなら何とでも言えるのです。どうなのですか? このまま新商品を販売して、それだけで金貨三十五万枚を彼女が支払えると、本気で思っているのですか?』
「……」
『現実的な話をしましょうか? この街に店を構えて商売するだけでも税金がかかります。毎日の生活だってタダじゃない、たかだか一店舗の雑貨店の売り上げが、月にいくらになるか想像できるでしょうに。ハッキリ言って不可能です、いずれは借金の為に借金を重ね、終わりを迎えることでしょう』
とてもシビアなことを、ディアさんは教えてくれた。
毎月の金貨千枚の支払い、そこに加わる金貨十五万枚の分割払い。
これらを支払いながら生活を送るなんて、本当、夢物語みたいなものなんだ。
「無論、そこら辺は俺達も考えていた」
『では、どのようにすると?』
親方も腕組みすると、深いため息を吐いた。
「元々の流通経路、そして窓口の全てを復活させる」
『具体的に』
「北のサラウマ、東のコンベン、ジャルベン、ヴェルシン、南のグハロゼア、ラウグ、西のベルダー。石材【ラスレーの貴婦人】の売り上げは、一日に金貨百枚はくだらなかった。月に金貨三千枚だ。アロウセッツ侯爵様が打ち出した返済プランは、元々の稼ぎがあれば返済可能なプランなんだ。俺達はただ、それを復活させればいい。いや、そこに底上げして、石材【ラスレーの黒正妃】を売り込めば、むしろ莫大な利益が可能となるはずだ」
石材【ラスレーの貴婦人】って、そんなにも売り上げのある商品だったんだ。
そんな凄い物を、私は全てダメにしてしまったんだ。
そう思ったら、なんか急に泣けてきた。
「メオ」
「ビットごめん、ちょっと胸貸して」
泣いてる場合じゃないのは分かっているけど。
今更になって自分がしたことの重大さが、理解出来てしまった。
支払わないといけない。
私は、自分のしたことに責任を持たないといけないんだ。
『では、こちらの書類を、商工会へと提出して下さい』
「おお、了解した。金貨十五万枚に関する支払いは、ウチとメオちゃんの半額負担、何も問題ねぇ」
『アンドレ親方が話の分かる人で、本当に安心しました』
「メオちゃん一人だと心配だったんだが、アンタみたいなしっかりした人が一緒なら、俺の方も安心できる。大変だろうが、いろいろと任せたぜ」
『はい、お任せ下さい』
二人席を立つと、互いに握手をしようとした。
でもね、この店で商談成立ということは。
「ディアさん! 服!」
『え? あ、しまっ――』
もう、なんでこんなに判定甘々なの!?
しかも消える時の速度が速すぎて、防ぎきれないよ!
『み、見ないでください!!!!』
慌てて腕で胸を隠して、カウンターにしゃがみこんじゃったディアさん。
これホント、どうにかしないとダメじゃん。
「……ビット、見てないよね?」
「あ、ああ、見てないぜ?」
鼻血ダラダラですけど?
ちくしょう、コイツ女なら誰でもいいのかよ。
前に私を襲おうとしていたくせに。
「とりあえず、軽蔑しとくね」
「ま、待ってくれよ、本当に見てねぇって!」
「あーあ、ペイムさんに言いつけてやろーっと」
「ちょ、マジで勘弁してくれ! また飯抜きにされちまうよ!」
ちょっとぐらい痛い目みた方がいいんだ。
ビットなんか大っ嫌い!
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