第15話 夢遊病で全裸露出とか、どこの露出狂だよ!
白波が見える小高い丘にある、真っ白で綺麗なお店。
私達はそのお店の名前を、
他にも、ファンが集まって座する場所として【ファン座】とか。
どこまでもスイスイ、軽い仕事が出来る【DLライト】とか。
そういう名前の案も出てきたのですが、何を売っているか分かりそうで分からない、というディアさんの助言もあり、回楽店で決定と相成りました。本当に大丈夫!? って、私の中の第六感が何かを警告しているけど、別に気にしない! だっていい名前だもん! 回楽店!
「さて、次は商品か。何を売ろうかな?」
『メオちゃんの魔法ありきで考えた方がいいわよね』
私の魔法ありきかぁ。
これまで石魔法で作ったものって、お人形遊びの道具とかしかないのよね。
お人形用のお城とか椅子とか、そんなの日用品とは言えないか。
日用品ってことは、生活が楽になるアイテムってことなんだけど。
生活が楽になるアイテムかぁ……何があるんだろ。
「うーん、何も思い浮かばないです」
『お母さんが普段していることの助けになるようなアイテム、って考えてみれば、何かあるかも?』
「私のお母さん、風魔法が使えるから、家事で苦労してるイメージないんですよね」
洗濯物だって温風で乾かしちゃうし、掃除だって魔法ひとつのすーいすいで終わる。
魔力消費が激しいからあまりしないけど、お母さんは空だって飛べる。
お祖母ちゃんもそう、火の魔法を足から噴出させて飛ぶことが出来る。
いいなぁ、私も空が飛びたかった。
「空を飛ぶアイテムとかあれば、嬉しかったんですけどね」
『あはは……そんなのあったら、まさに飛ぶように売れてたでしょうけどね』
苦笑いされてしまった。
まぁ、そもそも空を飛ぶアイテムなんて、日用品じゃないか。
「ディアさんは、何か思いつかないんですか?」
『私?』
「はい。先のラギハッドさんとのやり取りから察するに、ディアさんって一人暮らしですよね?」
『あら、鋭いじゃない。確かにそうだけど』
「なら、普段の生活で、これがあったらいいなぁ、みたいなのって、あったりするんじゃないんですか?」
『そうねぇ……』
人差し指で自分の頬をとんとんと叩きながら、天井を見上げる。
その後、視線を店内へと向けた後、何かを思い出したみたいに、ぽんと手を叩いた。
『あ、天井の掃除をする時に、モップが重いなって思うこと多いわね』
「天井の掃除ですか」
『だから、軽くした清掃道具、なんかも売れ筋商品になるかも?』
ふむ、清掃道具か。
ホウキ、チリ取り、モップ、そこら辺かな。
『後は料理器具かしらね。フライパンとかも重いし、炒める時に手が疲れるのよね』
「フライパンなら、お釜とかも作れそうですね。お皿とか、食器類も軽い方が好まれそうです」
『そうそう、割れないお皿とか、まさに最高の日用品って感じじゃない』
木製のお皿を森では使っていたけど、ペイムさんの家では陶器のお皿が多かったんだ。
つまり落としたら割れる、でも、私の魔法で作ったお皿は永久的に割れることがない。
「なんか、ものすっごく売れそうな気がしますね!」
『そうね、確かに、そんな気がする』
「そうしたら、ディアさんも元の身体に戻りますし、私も借金返済の目途が立ちます!」
『借金返済? メオちゃん、借金あるの?』
「はい! アロウセッツ侯爵様に、金貨二十万枚ほど!」
いける、これだけ夢のある商品があれば、金貨二十万枚ぐらい余裕で返せる!
『金貨、二十万枚?』
「はい! 返せなかったら族滅って言われました! 族滅ってなんですかね!」
『……ま、まぁ、気にしなくて大丈夫よ。返せばいいんだし』
「そうですよね! じゃあ今日はこの辺にして、そろそろ夕飯にしましょうか!」
『あら? 何か作ってくれるの?』
「はい! ペイムさんが持たせてくれた食材が、リュックに入っておりますので!」
馬車の時は御者さんが準備してくれたけど、今日からは私がやらないとね。
さてと、ペイムさんが詰めてくれた食材を取り出して、っと。
「あ、鍋もフライパンもない」
『さっそく自分で作ってみれば? 実際に使えば、売り込み方も変わるでしょうし』
「そうですね、では、さっそく作ってみます」
とことこと外に出て、手ごろな石に魔法をかけてと。
欲しいのはフライパンと鍋、それとオタマかな。
「万物従属」――――「〝形状変化〟ストーン・ゾナ・アルフ」
まずは石に魔法をかけて、ぐにょぐにょにする。
粘土で遊ぶみたいに形を作ってあげて、再度魔法。
「自由爛漫」――――「〝形状記憶〟ボルンデッド」
カチンコチンに固まったのを手に取り、店内へと戻る。
『わ、もう出来たんだ』
「適当で良ければ、ものの数秒ですね」
『ふぅん……見た目がそのまま石だから、気になる人は気になっちゃうかもね』
「その点は、ラスレーの黒正妃で作れば、問題無さそうです」
『そういえば、そのラスレーの黒正妃って、ラスレーの貴婦人と何か関係があるの?』
「名前が変わっただけで、全部同じですよ」
『あ、そうなんだ。あの黒光りする石材で作るフライパンか、確かに売れそうかも』
そんなこんなで調理開始。
ペイムさんから貰った火打石と麻紐で点火してと。
『あら? そんなのいらないわよ?』
「へ? そうなんです?」
『この店、古くは魔女のレストランだったのよ。だから、火起こしも魔法球が代わりにしてくれるの。お風呂のお湯だって魔法球なのだから、魔法使いさえ住めば、この店舗は最上級の設備であるって言えるのよね』
確かに、この店は魔法使いありきの店舗と言える。
でも、だからこその疑問を抱いてしまった。
「ディアさん、ランボリピーの街……いえ、ここら辺の地域には、魔法使いって少ないのでしょうか?」
『私が知る限りでは、一人もいないわね。この店舗が魔女のレストランだったのも、何十年も昔の話だもの。メオちゃんが魔法使いって聞いて、本当にいたんだって感じ』
「え? でも、セメクロポ領主補佐官は魔法を使ってましたけど」
『補佐官のは魔道具だから、魔法とは違うわよ?』
そうだったんだ。
魔道具か、お値段高そう。
でも、ちょっと意外だったかも。
ウエストレストの森には、少なくとも百人以上の魔女がいたんだ。
ううん、私が知らないだけで、もっと沢山いたかも。
でも、魔女は婿を見つけると、森に帰ってきてしまうから。
だからかな、外の世界では、魔女や魔法使いは、とても珍しい存在なのかも。
『あ、それ、ムーク肉ね。焼く前にいっぱい叩いた方がいいわよ?』
「そうなんです?」
『叩くことによって肉に柔らかみが出て、それと同時に臭みや苦みが抜けるの。出来たら香草なんかも一緒に揉み込めば、もっと良い香りになって美味しくなるんだけどね』
ディアさんは一人暮らしをしているだけあって、料理がとても上手だった。
『弱火で煮込んだ方がいいわよ? 強火で煮込むと煮立っちゃって野菜溶けちゃうし、肉も硬くなるわよ? それに焦げたりしたら面倒だし、極力料理は弱火ですることね』
下準備、野菜の切り方、肉の仕込み方、もういろいろ。
そうして出来たのが、こちらの料理でした。
~ムーク肉とジャグイモのシチュー、ホーレイ草とトウモコロシ、ミツアメのソース添え~
ムーク肉ね、どうしても私の中では、ビット仕立てのクソ不味いアレが思い浮かぶのだけど。
今回は自分で作ったしね、隣でディアさんも見てくれていたから、絶対に美味しいはず。
ドキドキする胸を抑えながら、一口。
「ヤバ、美味しい」
思わず雑な感想がこぼれ出ちゃった。
お肉がスッゴイ柔らかい、それにミツアメの甘めのソースと和えたからか、甘くておいしい。
主張しすぎない肉汁の旨味と、甘さが調和されて、もうただただ美味しい。
「ディアさんも食べてみて下さい! 本当に美味しいですから!」
『食べたいんだけどね』
フォークに刺さったお肉を口へと持っていくも、お肉は口を通過して、お皿へと落ちる。
『どうやら私、霊体だから食べられないみたいね』
「そんな……」
『残念、でも、どうにも出来ないし。元に戻ったら、ご相伴させて貰うわね』
こんな美味しいご飯を、ディアさん食べられないなんて。
可哀想すぎるディアさん。
でもね、ディアさんの不幸は、それだけじゃなかったの。
夜中にトイレに行きたくなって起きてみると、寝ているはずのディアさんの姿がなかった。
彼女の布団は無かったから、ふわふわと浮きながら眠っていたはずなのに。
(二階のどこにもいない……一階かな?)
静かに降りてみると、カウンターに一人佇む、ディアさんの姿があった。
「……ディアさん?」
声を掛けてみるも、反応はなく。
ただただ茫然とカウンターに佇み、どこでもない場所を見ていた。
「ディアさん、どうしちゃったんですか?」
『……いらっしゃい、ませ』
「いやいや、いらっしゃいませって、まだオープンもしてないですよ?」
『お客様は、一名様で、宜しかったでしょう、か……?』
会話が成り立ってない……というか、これ、身体乗っ取られてない?
もしかしてディアさん、前の幽霊さんに取り憑かれた部分が残っている、とか?
だとしたら、ちょっと付き合えば満足して元に戻るかも。
「い、一名です」
『かしこまり、ました。どうぞ、こちら、へ』
多分ね、多分、昔はここにテーブルとか椅子とかがあったんだと思う。
でも、今は何もない、単なる床に案内されると『どうぞ』と
とりあえず膝を抱えながら座る。何もないけど。
『ご注文は、いかがなさい、ます、か?』
「え、えっと……オレジンジュースで」
『かしこまり、ました。オレジンジュース、わん、ぷりーずぅ……』
あ、ディアさんの服がうっすらと消えて、全裸になった。
そのまま固まること数秒、青い瞳をぱちくりさせると、改めて私を見る。
『メオちゃん、こんな所で何をしているの?』
「とりあえず、魔力を補填しましょうか」
『魔力の補填? え? え、やだ! なんで裸なの!?』
やっぱり、意識なかったみたい。
毎晩これだと、いろいろと不味いなぁ。
どこかで対策、考えないと。
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