第12話 ビバ! お化け退治!
ランボリピーの街は、海辺に面した港町です。
白い石畳は潮で染められ、普通の石材よりも白く磨かれたように見えます。
金属類は錆びて赤く染まってしまう為、あまり使われていないそうです。
カモメが空を飛び、頬にふれる潮風が心地よい街。
それが、私がこれから住まう、ランボリピーの街。
与えられた店舗はとても素敵で、巷では幽霊屋敷とか呼ばれているけど。
そんなことない。だって、鍵を開けて中に入ったら、知らない女の人がいたのですから。
「あら? どなた?」
とりあえず扉を閉める。
え? 誰? 私いま、鍵を開けてから中に入ったよね?
あの人が幽霊? いやいや、はっきり存在していたし、なんなら話しかけてきたし。
もう一回開けてみよう。
「何か御用?」
やっぱりいる。
青い髪をした三角巾を頭に付けた女の人。
白い綿素材のシャツ、胸元の茶色い止め紐が結構可愛い。
ロングのスカートに、腰巻をつけて戸棚を拭いている。
……あ、あれか、商工会の人か!
定期的に掃除してるって言っていたものね!
「すいません! 私、今日からここに住まうことになった、メオ・ウルム・ノンリア・エメネと申します! メオって呼んで下さい!」
「あらご丁寧に、私はディアトート・Z・ゼンマン、ディアでいいわ」
差し出された手を握ると、物凄く冷たかった。
ディアさん、こんな寒いのに、濡れ布巾で掃除してたのかな。
顔を見ると、青い目を細くしながら微笑んでいる。なんか、凄く嬉しそう。
「メオちゃんが今日から住まうということは、この店舗もようやく明るくなるってことね。毎日磨いていた甲斐があったわ。ちょうど良かった、店舗内を案内してもいいかしら? いろいろと自慢の場所があるの」
ふむ、毎日掃除とは、そんなに熱心な職員さんでしたか。
それなら、私の知らない入口から入って作業してた、ってこともありえるね。
「まずは、メオちゃんが今いるこの場所、ここは、お店のバックヤードなの。水場やトイレなんかもあるのよ? この街は水が豊富な街でね。侯爵様の治水工事のお陰で、水場はほら、蛇口をひねれば水が出てくれるの。洗い物も全部簡単に出来るようになっているのが、この店舗の一番の売りってところね」
「へぇ……凄いですね」
「あと、メオちゃんは魔法使いさん?」
「あ、分かります? ディアさん凄いですね!」
「ふふふっ、私もこの道長いから。魔法使いさんなら、店舗側の照明も使いこなすことが出来るわね」
店舗側の照明。
あ、なるほど、これは森で見たことがある。
「魔法球、ですね」
「ええ、メオちゃん、試しに点灯してみてくれるかしら?」
「はい、家ではよく点けていましたから、なんだか懐かしいです」
ぽんっと触れると明かりが点く。
これがあるとないとで夜の過ごし方が違うんだ。
「わ、懐かしい。この明かりを使いこなせる人がいなくてね、長年、この店舗は空き状態が続いていたの。でも、メオちゃんが来てくれたお陰で、ようやくなんとかなりそうね」
「えへへ……それにしても、広い店舗ですね」
「そうよぉ? 棚やカウンターだって現役で使えるし、ショーウインドウだって磨かれて綺麗なんだから。このお店を沢山のお客様で埋め尽くすことが、私の目標だったんだ。もう、諦めちゃったけどね」
ふぅん、もしかしてディアさん、このお店の前のオーナーさんだったのかな? でも、長年空き状態が続いていたって言っていたから……あれか、掃除している内に感情移入しちゃったってことか。
「大丈夫ですよディアさん、その目標、私が引継ぎますから」
「……本当? 期待してもいい?」
「はい! 任せて下さい!」
まだ、何を売るかも決まっていませんけどね!
「それじゃあメオちゃん、一階の店舗はこれぐらいにして……二階の住居エリア、逝ってみる?」
「はい! 二階って住居なんですよね、窓からの景色とか、もう全部楽しみです!」
「……じゃあ、憑いて来てね」
一階の店舗からバックヤードに戻ると、玄関の右隣に階段があった。
階段も綺麗だな、埃ひとつないよ。
「メオちゃん、魔法球、いい?」
「はい、明かりをつけますね」
窓を閉めているせいか、二階は真っ暗だった。
一人だったら怖くて上がれなかったかも。
ディアさんがいてくれて良かった、本当、運が良い。
「うわ、広い!」
「ふふふっ、一階の店舗と同じだけの広さがあるんですもの、広いに決まっているわ」
大きな広間、キッチンもあるし、これ、数人でお食事とか出来そう!
「扉もあるんですね! 凄いな、全部で四部屋ですか!」
「トイレとお風呂があるから、この広間をのぞくと二部屋っていうのが正しいかも」
「お風呂! お風呂が二階にあるんですか!?」
「ええ、湯沸かしも魔法球がしてくれるから、メオちゃんなら温かいお風呂に入れるわね」
うはー! なにこの家、本当に賃料無料でいいの!?
モノクル爺に感謝しないと、これは毎日幸せ生活間違いなしじゃない!
「部屋の扉、開けてもいいですか?」
「その前に窓を開けたら? 空気の入れ替えも出来るわよ?」
確かに。
窓……というか、これはそのまま外に出れるタイプの大窓かも。
しかも一階と同じガラス窓だ、豪華な造りしてるなぁ。
窓を開けて、外の木窓を持ち上げると。
「…………すっごい綺麗」
もう、それしか言葉がなかった。
眼下に広がる白い街、その先に広がる青い海。
白い雲が浮かび、太陽が街をきらびやかに輝かせる。
「最高の景色よね」
隣に立ったディアさんも、口端を緩ませながら外を眺める。
最高の景色、もう、そうとしか言えないよ。
大窓を開けて、そのままバルコニーへと進み、手すりに身体を預ける。
「私、いろいろとあったんですけど」
「うん」
「いま、生きてて良かったって……心の底から、そう、思えます」
美しい景色は、それだけで心が洗われてしまうから。
はぁ……ペイムさんも後で呼ぼう。みんなで観れたら、絶対に素敵に違いないから。
「じゃあ、奥の部屋、開けてみますね」
「ええ、中に入って、奥に魔法球があるから」
「分かりました。とはいえ、もう広間の窓を開けたから、明るいんですけどね」
階段を背にした広間の突き当り、左右にある扉の内、右側を開ける。
「……寝室かな?」
広間の明かりが中に入らないみたい。
うっすらとした明度の中、部屋へと足を踏み入れ、魔法球を探す。
「うーん、魔法球、どこあるのでしょうか?」
広間に比べたら、全然狭い部屋。
でも、窓も開かないし、天井にありそうな魔法球も存在しない。
とことこと部屋の奥へと向かうと――バタン――と、扉が閉じて、室内が真っ暗になった。
「え?」
何も見えない。
え、ちょっと待って、目を開けているのに、暗すぎて何も見えないよ?
「ディアさん、扉開けてくれませんか? 暗くて何も見えないのですが」
広間の大窓を開けっぱなしにしていたから、風で扉が閉じちゃったのかな。
というか、ディアさんからの返事がない。一階に下りちゃったとか?
「ディアさん、ディアさーん!」
聞こえるように大きな声で呼ぶも……やっぱりダメ、返事がない。
暗すぎて何も見えない、手探りで扉を探すけど……あれ? 開かないよ?
なにこれ、全然、びくともしない。
『ごめんね、メオちゃん』
「ディアさん? ディアさん、どこにいるのですか?」
『私ね、実は、幽霊なの』
幽霊? ディアさんが、幽霊?
『事故物件って呼ばれている原因はね、私にあるの。私が、入居者を全員殺してしまうから』
「……は、はぁ!? くだらない冗談言ってないで、早く扉を開けて下さいよ!」
『ダメよ、貴方はもう、私の手の内だから……』
ちょっと、え、これ嘘じゃないの? なんか、変な臭いが急に立ち込めて来たし。
あんなにくっきりはっきり見える幽霊なんているの? 聞いたことないよ。
っていうかこれ、このままでいたら殺される?
そんなの嫌だ、嫌なんだけど。
私が死んだらセンメティス村の皆が、石切り場の親方たちが生活できなくなっちゃう。
暗闇の中、ぐっと手を握り、息を吸って……ゆっくりと吐いた。
「ごめんねディアさん! 私、死ぬわけにはいかないの!」
戦いとか、そういうのには不向きな魔法だけど。
「万物従属」――――「〝形状変化〟ストーン・ゾナ・アルフ!」
私の魔法は、全ての石の形を変えることができるから!
「この家は、白く染まる石で出来ていた!」
『……え? ちょっと待って、なんか急に、壁が』
「石なら、私は自由自在に変えることが出来るの!」
『ちょっと、床が抜ける! 待って! あのね! 私、本当は商工会の!』
――私この家の幽霊! 今から貴方達を呪い殺すの!――
「呪い殺す!? 呪い殺される前に、
『ちょっと! ちょっと足場が、きゃあああ!』
――え!? 私の家、私の家が! きゃあああああ!――
なんか声が二重に聞こえる!
でも、負けない! 幽霊なんかに負けないんだかあああああ!
「おりゃあああああああああぁ!」
『きゃああああああああああぁ!』
――きゃああああああああぁ!――
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