第二章 メオ、お店を開く

第11話 事故物件で出会った人!

 私、魔法使いのメオ! 好きな物は甘いお菓子! 嫌いな物はお化け!

 なのに私ったら、事故物件の店舗に十年勤めないといけなくなったの!

 これから毎日ゴーストハンティング! 怖くてトイレにも行けない!


 もう死にたい!

 お化けの仲間入りしたい!


 なんてね。


 でもまぁ、そんなに急ぐ必要もないよね。

 ランボリピーの街に向かう前に、一度各々家に帰ろっか、って話になって。


「お帰りなさい、メオちゃん」

「ペイムさん、ただいまぁ! うえええええぇん! うえええええええぇん!」

「ど、どうしたのメオちゃん! 大丈夫!?」


 ペイムさん見たら安心しちゃったんだろうね、もう号泣、涙止まらないの。

 ひとしきり泣いた後、美味しいスープをいただいて。

 何とか気持ちを落ち着かせて、ペイムさんへと積もる話をつもつもつもと語る。


「なんだか、一日でいろいろとあったのねぇ」

「いろいろとあり過ぎて、もうよく分からないです」


 到着したら処刑されそうになって、無理くり提案したらそれが通って、武器作って武器作成禁止令が出て、店を紹介されたら事故物件だったって、中身濃すぎて、ついていけないよ。


「そうだ、お父さん、お家にいらっしゃいますか?」

「お父さん? ああ、今日は仕事がないから奥にいると思うけど。どうしたの? 何かあったのかい?」

「ちょっと、お仕事について相談出来ればなと思いまして」


 ビットのお父さんことロクジさんは、物流の管理をしていた人だってビットが言ってたんだ。

 新商品を開発したとしても、流通経路が死んだままじゃ意味がない。

 暖炉の前でくつろぐロクジさんを見つけると、私は隣の椅子に座った。

 さてと、何から話をしようかな。


「石切り場は、どうにかなったみたいだね」


 迷っていると、ロクジさんの方から話しかけてくれた。


 どうにかなったと言えば、どうにかなったような。

 どうにもなってないと言えば、どうにもなっていないような。


 問題を先延ばしにしただけで、根本的解決は何も出来てないもんなぁ。

 金貨五千枚は、どう逆立ちしても大金な訳だし。

 売れる商品を考えないと、一回目の支払いから不渡りだしちゃうよ。


 などと悩んでいると。

 ロクジさんは私の頭をぽんと軽く叩き、そして撫でてくれた。


「知識と計算だけで掘り進める炭鉱と違い、石切り場の石は目に見えた在庫数がある。我々運び屋は、削られていく山を見ながら、自分たちが後何年この場所で稼げるかを計算し、毎日を生きているんだ。ロウギット石切り場は、もって十年といったところだった。石材【黒の貴婦人】は人気商品が故に、消費も激しい。運ぶ物が無くなれば、我々はどのみち、住む場所を変えざるを得なかったんだよ」


 頭を撫で終わると、ロクジさんは椅子の近くにあった薪を手に取り、暖炉へと放る。

 パチパチという音と共に、火の粉が舞った。

 ほんわかと温かくなる空気と共に、心も温まる。


「だから、メオちゃんが我々のことを気にする必要は、何もないんだ。山が無くなれば、別の山に向かう。ただ、それだけのことさ」


 ……あ、いま、ロクジさん、私を慰めてくれてるんだ。

 優しいなぁ。ペイムさんもビットも、みんな優しい。

 この一家だけじゃない、村の人たちは、みんな優しいんだ。


「私、この村の近くに飛ばされてきて、良かったです」


 だって、用意された物ばかりだったら、こんなにも真剣になれなかったから。

 いろいろと失敗している気もするけど、全然、まだまだ頑張れるって思えるから。


「安心して下さい。十年どころか、百年だって生きていける村に変えてみせます」

「……そうかい? でも、無理はするんじゃないよ」

「ありがとうございます、でも大丈夫。私、無理な方が動けるみたいです」


 本当は逃げたい。

 帰ってきて泣いたのだって、嘘じゃない。

 でも、私って単純だから。

 喜ばれたり励まされたりしたら、すぐ元気になっちゃう。


「メオちゃんが造る商品、オジサンがちゃんと送り届けてあげるからね」

「はい! こちらこそ、よろしくお願いします!」


 頑張ろうって思う。

 支払い期限まで、あと四か月はあるのだから。


 昨日と同じように、ペイムさんと一緒のベッドで眠り、迎えた翌朝。

 私は来た時とはまるで違う、沢山の荷物を手にして家を出た。

 頂いたチェックのコートに、厚手のスカート、防寒用のもこもこが着いた可愛らしい帽子。

 背負ったリュックには、ペイムさんが用意してくれた食材や、着替えの数々。

 新たな装いと共に振り返り、お世話になった三人に、ぺこりと頭を下げる。


「いろいろとありがとうございました! それじゃあ、行ってきます!」

「本当に、俺が一緒に行かなくても大丈夫か?」

「ビットがいなくても、街の地図も貰ったし。アンドレ親方がランボリピーの街まで向かう馬車を手配してくれたから、大丈夫。雪山を歩いて三日も掛けて向かう訳じゃないからね」

「……あの時は、悪かったよ」

「にへへ、ちょっとだけ仕返し。……あ、ペイムさん!」


 出かける前に、ペイムさんにぎゅーって抱き着いた。

 はぁ、落ち着く。本当のお母さんみたい。


「ほんの少しの間だったのに、本当の娘が出来たみたいだったよ」

「あ、それ私も同じこと思ってました!」

「ふふっ、じゃあ、ウチの子になるかい?」

「それも悪くないかも。兄妹ならビットも襲わなくなるし」

「だから、ごめんて」


 軽口を叩いても、笑顔で終わる。

 本当の家族になったみたいで、嬉しい。


 ……うん。もう、大丈夫かな。


「じゃあ、今度こそ本当に、行ってきます」

「ああ、行ってらっしゃい」

「いつでも帰ってきていいからね。ここはメオちゃんの、第二の家なんだからね」

「……ありがとう。泣いちゃいそうだから、もう行くね」


 何度か振り返りながら手を振ると、三人とも見えなくなるまで手を振ってくれて。

 迷惑ばっかり掛けちゃったから、必ず恩返ししないと。

 本当に良い人達だった。


 この村を存続させる為にも、私が頑張らないと。


「おう嬢ちゃん、迎えの馬車、到着してるぜ」

「おはようございます! アンドレ親方、馬車の手配ありがとうございます!」

「なに、もう俺達の雇い主は嬢ちゃんなんだ。これぐらいは当然さ」


 村の馬車停留所には、私にはもったいないくらい立派な馬車が用意されていた。

 艶々な黒い毛並みの馬が二頭。

 木製の客車は、長時間座ってもお尻が痛くならないフカフカ仕様だ。

 

「ランボリピーの街に到着したら、まずは商工会のラギハッドという男を頼るといい」

「商工会のラギハッドさん、ですか?」

「ああ、奴が店舗管理をしているからな」


 あ、店舗管理してる人がいるんだ。

 良かったー、蔦でもじゃもじゃとか、窓が埃だらけなのを勝手に想像しちゃってたよ。


「住まう店舗は何かと噂があるが、噂だけで誰も中には入ったことは無いし、幽霊を見た、なんてのも酒の場でしか聞いたことがねぇ。意外と、住めば都かもしれねぇぜ? 街の中ではちょっと小高い、セレブストモードって通りに面した店なんだ。二階建てだし、景色も最高だろうな」

「へぇ……」


 ちょっと、楽しみになってきちゃったかも。

 

「それじゃあ親方! 石材【ラスレーの黒正妃】の警護を、宜しくお願いしますね!」

「おお、何かあったらすぐに使いを寄こしてくれよな」

「宜しくお願いします! では!」


 御者さんが手綱を握ると、馬車はゆっくりと動き始める。

 ランボリピーの街、セレブストモード通りに面した店かぁ。

 うふふふっ、楽しみだなぁ。


 それから、馬車に揺られること丸一日が経過し。


「ああ、貴方がメオ様ですか。私がラギハッドです、ラギと呼んで下さい」


 商工会に到着した私は、緑髪を丸くカットした青年、ラギさんとの面会を果たした。


「セメクロポ様よりお話は聞いております。こちらが出店案内、及び転居、住まいに関わる必要書類になりまして、こちらが店舗兼住まいの鍵になります。該当店舗ですが、私共、商工会の面々が定期的に清掃に入っておりますが、気になる所がありましたらなるべく早めにご意見を頂けたらと思います。他にも書類面で分からないことがあれば、営業時間内ならいつでもご対応いたしますので、お気軽にお声がけ下さい」


 ラギさん、めっちゃ早口だなー。

 しかも書類沢山、うーん、読むのは後にしておこうかな。

 

「あの、セメクロポって、誰ですか?」

「セメクロポ領主補佐官、片眼鏡を掛けた法服貴族の……簡単に言うと、侯爵様の秘書官ですね」


 ああ、あのモノクル爺か。

 貴族社会かぁ、いろいろと窮屈そうで、ドレス以外に憧れはないかなぁ。


 という訳で、鍵を預かった私は、地図を頼りにさっそく与えられた店舗へと向かうことに。

 センメティス村と違ってランボリピーの街は完全石畳、どこを歩いても歩きやすいの。

 建物もしっかりとした壁の石造りだったり、遠くには海も見えたりで、歩くだけでウキウキしちゃう。


 で、そんな軽い足取りで到着した私のお店。


 私のお店!

 私の、お店ーー!


「やったあああああああぁ!」


 諸手を挙げて叫んじゃった! 

 やだ! 最高じゃない!

 小高い丘の上に設けられた街と海が一望できるロケーション!

 外からでも店内が見えるショーウインドウも磨かれていて超綺麗! 

 街の中心部から外れているから、ちょっと客足悪そうだけど、別に大衆食堂開く訳じゃないし!

 

 転移してきて良かった!

 ここから私の最高のショッピングドリーマーが始まるのね!


「ふんふん、ふふーん♪」


 スキップしながら店舗裏に回って、手にした鍵をぐるりと回してオープーン!


「さぁ、室内はどんな素敵で埋め尽くされているのかしら!?」


 ドキドキとワクワクに任せて扉を勢いよく開くと、


「あら? どなた?」


 知らない女の人がいました。

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