第10話 はい! 私、お店が欲しいです!

 金貨二十万枚とか、一体どうやって返済すればいいのよ。

 私が言った適当プランニングで返済できると思っているの?

 あんなの出来る訳ないじゃない、そもそも商売なんて私やったことないし。


 あーあ、ムリムリムリムリ。

 寝て起きたら無かったことになってないかな。

 もう寝よ、おやすみ。


「魔女の子よ、まずは、其方の力が本物であることの証明を見せてみよ」

「……はーい」

 

 侯爵様御一行、とっとと帰ってくれればいいのに。

 でも、今のところ何も証明してないものね。

 魔法を使ってあげれば、帰ってくれるかな。


 よし、一日ぶりだけど、やるか。


 範囲計測、魔力域展開、土と岩、全ての原石たちよ、我が命に従え。


「万物従属」――――「〝形状変化〟ストーン・ゾナ・アルフ」


 うん、いつも通り。

 魔力も全然余裕、石切り場全体を包み込ませてと。


「おお、なんという魔力量だ……これは、儂の魔道具を遥かに超えている」

「私、一応、ウエストレストの森でも魔力量だけは一番だったの」

「……ウエストレストの森? 聞いたことがない森の名だな」


 モノクル爺も知らないのか、って、普通に故郷の名前出しちゃった。

 ダメじゃん、家族に迷惑だけは絶対に掛けられないし。 

 金貨二十万枚とか、支払える訳ないもん。

 危ない危ない、知らない場所で良かったー。


「自由爛漫」――――「〝形状記憶〟ボルンデッド」 


 はい、石切り場は元通り。

 騎士の皆さん、ざわざわしてる。

 そんなに魔法が珍しいのかな?


「ふむ、本当に元通りになったの。魔女の子よ、この鉱石は全て硬度を上げてあるのか?」

「うん、全部上げてあるよ。割ることも削ることも出来ないんじゃないかな」

「そうか。おい、そこの小僧、試しにピッケルで岩壁を削ってみせろ」

「分かりました」


 ビットの力でも、どうやっても無理だと思うけど。

 昨日、アンドレ親方が頑張って壊そうとした鍵と同じ性質に変えちゃったもん。

 

「フンッ! ――フンッ! ……フンッ!」


 ビットがどれだけやっても、傷ひとつ付かない。

 当然よね、魔法で変えちゃったんだもん。

 あ、モノクル爺と侯爵様が何かヒソヒソ話してる。


「娘、この鉱石を、本当に武具に出来るのか?」

「出来ると思いますけど」

「では、侯爵様が剣を所望している。魔女の子よ、剣を造るのだ」


 へいへい……えーっと、どうせならビットが叩いてた場所の石を使おうかな。

 

「万物従属」――――「〝形状変化〟ストーン・ゾナ・アルフ」


 硬かった鉱石が、一瞬で泥へと変化すると、やっぱり騎士たちがざわめき始めた。

 

 ――凄い魔法だ。

 ――あの魔女、大魔法使いだったんじゃないのか?

 ――あんなに硬かったのに……嘘だろ。

 

 ふん、ついさっきまで処刑しようとしていたクセに。

 でも剣か、小さい頃お人形遊びとかはしていたけど、剣はあまり造らなかったのよね。

 両刃? 片刃? 大きさはどれぐらい? お手本が欲しいな。


「あ、そこの騎士さん」

「……?」

「貴方の腰から下げている剣、お手本に見せて貰ってもいい?」


 無言のまま近づいて来て、鞘から剣を抜くと、私の横に置いた。

 ふむふむ、両刃か、切れ味はあまり無い感じかな? 重さで叩き潰す感じね。


 え、こんな剣で私の首を斬ろうとしていたの? 斬撃じゃなくて打撃じゃない。

 首の骨が折れるだけで、めっちゃ痛い思いするところだったんじゃ。


 ……あーヤメヤメ、考えただけで恐ろしいわ。

 じゃあ、どうせなら片刃にして、切れ味上げてっと。


 チラリと侯爵様を見る。

 細身のお爺さん、力は無さそうだから、軽量化重視ね。 

 片刃、切れ味鋭く、軽量化、刃渡りはちょっと短め。

 柄部分も鉱石だと握りづらいかな。

 でもまぁ、いいか。


「自由爛漫」――――「〝形状記憶〟ボルンデッド」 


 真っ黒な片刃の剣。

 名付けて黒刃剣、いやっはは、そのままね。


「出来ました」

「ほう、これはまた見事な……侯爵様、処女作にございます。どうぞ、お収め下さい」


 侯爵様、黒刃剣を手に取って数回ふんふんと振り回すと、モノクル爺に丸太を用意させた。

 

「――――ッ!」

「おお! 丸太が一撃で……次だ! 次は丸太に鎧を着せよ!」


「――――ッ!」

「おおお! 鎧ごと一撃! さすが侯爵様、見事な御手前でございます!」


 拍手、ぱちぱちぱちぱち……。


「あ、あの、どうでしょうか? 片刃にして切れ味を可能なまでに上げ、軽量化を図り剣速も上がり、更に性質上壊れることのない、最高の逸品だと思うのですが……」


 あ、侯爵様とモノクル爺、何かヒソヒソ話してる。


「魔法使いメオ」

「はい」

「アロウセッツ侯爵様より、この名剣に名を授けるとのお達しがあった」

「剣に名前、ですか?」

「うむ、その名もアロウセッツブレード! 唯一無二の名剣だ!」


 剣に、自分の名前っ……!


「なんだ、何がおかしい」

「いえ、何もおかしくありません!」

「そうか、魔法使いメオよ、アロウセッツ侯爵様より、この剣を献上したことによる褒美として、金貨三千枚を贈与するとのことだ」

「本当ですか!」

「ただし、それはそのまま返済に充てるものとする。よって、支払いは四か月後、夏季中月からとする。それまでに流通や商品を整え、返済が出来る状態を整えておくのだ。最後に、この剣は唯一無二の剣、他の刀剣類を作成すること全てを禁止する、以上だ」


 やった、返済四か月後なら、いろいろと考えることが出来る。

 ……って、待って? 他の刀剣類を作成すること、全てを禁止する? 

 え、それってつまり、剣を造っちゃダメってこと? 

 武具の売買でなんとかするって言ってんのに? 


 馬鹿じゃないの?

 あーダメダメ、顔に出ちゃう、馬鹿じゃない、侯爵様はバカじゃない、あーあー。


「アロウセッツブレードは素晴らしいですなぁ」

「ぶふっ!」

「誰だ! 今笑ったのは! メオか!」

「笑ってません!」

「ふん、多少良い剣が造れるからと言って、調子に乗るでないぞ!」

「はい!」

「まったく、これだから最近の若い奴は……」


 ちくしょー、もう帰れよ、アンタ等いたら私いつか処刑されちゃうからさぁ。

 それにしても武器禁止か、防具だけで販売するってこと?

 そもそも武具って売れるの? 森の外のことは全然分からないんだけど。

 

 いろいろと考えていると、私の肩をポンと叩く、大きい手があった。


「嬢ちゃん、いろいろと済まなかったな、お陰様で命が助かったぜ」

「アンドレ親方……いえ、迷惑を掛けたのは私ですから」

「俺達にも責任がある、少しぐらいは手伝わせてくれ」


 見たら、アンドレ親方だけじゃなく、他の職人さんも「任せろ」と胸を叩いている。 


「しかし、楽観は出来ねぇな。四か月後ってことは、夏季中月、いきなり金貨五千枚支払えってことだ。これだけの大金を生み出すには、嬢ちゃんの力だけじゃ難しい。そもそも流通経路がそんな簡単に復活するかも分からねぇ。信用は築き上げるのは大変だが、壊れるのは一瞬だ」


 商品を作っても、買う人がいなかったら意味がない。

 今の石材【ラスレーの黒正妃こくせいひ】は信用度が地の底、名前が変わったからといって、誰も買わない。

 信用度を上げるには何が一番か、考えないといけない……か。


「何はともあれ、店が必要だな」

「……店?」

「ああ、今やロウギット石切り場は嬢ちゃんの所有物になった。ここでの作業でも嬢ちゃんの力が必要だが、販売するにしても店がねぇと話にならねぇ。これまでは卸業者に任せていたが、今はその手数料すら惜しい。自分で店頭に商品を並べちまえば、そこら辺は金が掛からないからな」


 私の、お店。

 子供の頃からお店屋さんごっこに夢中だった私に、本物の店。


「いいか嬢ちゃん、物を売るってことはな」

「はい! 店、買いましょう!」

「お、おう、だが、買うにしても金がねぇからな、どうにかして都合をつけねぇといけねぇんだが」

「店が欲しいのか?」


 モノクル爺、まだいたの。

 あ、侯爵様、騎士の鎧をズッバズッバ斬ってる。

 気に入ったのね。騎士は寒そうにしているけど。


「年代物の店舗だが、自由に使ってもいい空き店舗がランボリピーの街にあると、侯爵様は提言なさっている。本来ならば賃料を頂くところだが、返済期間の十年間に限り、賃料は不要とのことだ」

「本当ですか! ありがとうござます!」


 やったー! 店が無料で手に入ったー!

 侯爵様ったら太っ腹ね! いちいちモノクル爺挟んでくるのが玉にきずだけど!


「ちょっと待った、それって」

「アンドレ、契約は既に成立している。こちらの提案に、魔法使いメオは承諾した」

「……ちっ、マジかよ」


 あれ? あんまり宜しくない物件だったってこと?

 年代物って言ってたもんね、修繕が必要なのかな。


「親方、私、ボロでも大丈夫だよ。臭くても大丈夫、小屋の毛布でも寝れたんだから」

「メオ、そうじゃねぇんだ。ランボリピーの街には有名な空き店舗があるんだよ」

「そうなの? 有名って、どんな?」

「……事故物件だ」

「事故物件?」

「出るんだよ……幽霊がな」


 ……え?

 

 ……え?


 ええええええええええええええええええええええええええええええええぇ!!!!!?

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