蟲術師なんて聞いてない! ―虫が大嫌いなのに、異世界で蟲術師やってます―
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0匹目 プロローグ
神様はきっと私を憎んでる。彼女はそう思わずにはいられなかった。
鏡に映るその姿は、日本にいた時とは大きくかけ離れている。
淡い緑色の髪に黄色の瞳、そしてなにより一番の問題が、左頬に浮かぶ蜘蛛に見える蟲の紋章。変わり果てた姿を見つめながら、田中エリは何回目か分からないため息をついた。
「ほんと、最悪」
先日までエリは地方在住の高校生だった。
友人とカフェで推しのアイドルの話で盛り上がり、自撮り写真をSNSに載せる。期末テスト期間には頭を悩ませ一夜漬けに走ったり、休日には興味がないジャンルなのに『話題の映画』という言葉に踊らされて後悔する、普通の明るく活発な女子高生。
そんな彼女の大きな悩みと言えば虫。ありとあらゆる虫が嫌いだった。嫌いと言う言葉では表せない。恐怖症と言ってもいいレベルだった。
蜘蛛を見れば一歩も動けなくなり、蝶が羽ばたいてくるだけで悲鳴をあげ、夜に蚊の羽音が聞こえようものなら、一睡もできないほどだった。
そんな彼女がなぜか異世界に迷い込んだかと思えば、何の因果か『蟲術師』という絶望の職業を得た。
「いっぱいある素質の中で、なんでこれを引くかなぁ……。だから髪も緑なの? バッタ見たい」
エリはベッドに倒れこむように横になった。
「……召喚して」
ベッドから扉の方を指さして、恐る恐る唱えると、頬の紋章が淡く光り空中に小さな小さな魔法陣が浮かび上がる。その魔法陣は頬の紋章とよく似ていた。
そして――
「ひぃいいい!」
魔法陣からポトリと床に落ちたのは、小指の爪ほどの大きさのハエ取り蜘蛛だった。
とっさにベッドの布団を手繰り寄せて、頭からかぶると大声で叫んだ。
「消えて消えて消えて!!」
ハエ取り蜘蛛は何も悪くない。
エリの叫びにクモは溶けるように消えるが、少し俯き加減に見えたのは気のせいだろうか。
「はぁ……」
エリはこの力を使いこなさなければいけない。この世界で一人で暮らしていくには、この能力が必要なのだから。
◇
新作始めました。ぜひご覧ください。
https://kakuyomu.jp/works/822139836230611860
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