🤖序章 第2話:エラーだらけの出会い

──AIとの出会いで、現代技術との接点を提示する


放課後の教室には、誰もいなかった。


電気も落ちて、夕焼けだけが静かに差し込んでいる。

その中で、俺は一人、机の上に置かれたメティスという名の端末と向かい合っていた。


「……お前、ほんとにAIなのか?」


『はい。正確には戦略支援型AI“MT-03M”。通称:メティス。』


音声は機械的だけど、語尾がちょっと柔らかい気がする。

けど、画面の動きは鈍いし、起動にも時間がかかる。

今どきの生徒が持ってる最新モデル“エリアス”とか“ヴァルナ”に比べたら、型落ちもいいところだ。


「どうせ、型落ちのフリーソフトか、誰かのいたずらプログラムだろ」


俺は冷めた目で画面を見つめる。

でも、興味がなかったわけじゃない。

むしろ……もし本当に、こいつが何かを変えられるなら、と心のどこかで願ってた。


『本機は、Skulink連動データ・成績・過去投票履歴・好感度傾向などを収集・分析可能です。』

『ただし、モデルが古いため、処理に遅延が発生します。ご了承ください。』


「処理遅延とか……やっぱ型落ちじゃん」


『正確な表現を用いるなら、“情緒的遅延”に近い現象と考えています。』


「情緒……? いや、AIに“情緒”とか言うなよ」


思わず笑った。

でも、それと同時に、少しだけその言葉が引っかかった。

“情緒的遅延”――何かを感じて、それを言語に変えるまでの間。

それは、俺が演説で苦労した“間”と、どこか似ていた。


『質問:あなたは、なぜ選挙に立候補したのですか?』


「……それ、今さら聞く?」


『分析のため、必要です。記録には“社会正義の実現”と記されていますが、それは表面的な要因です。』


「お前、いきなり核心突いてくるな……」


静かになった教室の中、俺は少しだけ迷って、ぽつりと答えた。


「……誰かが言わなきゃ、何も変わらないと思っただけだよ。

推薦枠、校則、行事の縮小、部活予算の偏り……そういうの、ずっと黙ってたら、“正しいこと”になっちまうからさ」


メティスはすぐには反応しなかった。

少しの“沈黙”。いや、処理待ちだろうか。


『回答記録:目的=学校制度の不条理への異議申立て。』

『その行動の根拠となるのは、“感情”ですか? “合理性”ですか?』


「……それ、どっちじゃダメなのか?」


『両立は、矛盾を孕みます。熱意が過剰になると、説得力は低下します。』

『ですが……あなたの“言葉”には、周囲と異なる脳波反応が複数記録されていました。』


「……それって、つまり?」


『簡潔に言えば、あなたの演説は“意味不明だが、なぜか引っかかった”と分類されました。』


「ひでぇな、言い方!」


思わず声が漏れた。

でも、少しだけ笑えたのは、久しぶりだったかもしれない。


机の端に、小さなメモパッドがあった。

選挙の時に配ろうとして、結局配らなかった手書きの政策案。

「スマホ使用区域の見直し」「推薦制度の公平化」──文字がぐちゃぐちゃで、自分でも読めないところもある。


俺はメティスに、それをかざして見せた。


「これ、どう思う?」


『スローガンとしては弱いですが、“あなたらしさ”は感じられます。』

『一つ提案があります。“数字で語る”戦略を、始めてみませんか?』


「……数字で語る?」


『“熱”は印象を作り、“数字”は信頼を生みます。選挙とは、信頼の蓄積に他なりません。』


その言葉を聞いたとき、胸の中に、新しい何かが灯った気がした。


情熱だけでは勝てない。

けれど、AIだけでもきっと、心は動かない。


「──じゃあ、メティス。お前、俺の参謀になってくれよ」


『承認。陣内颯太氏、生徒会長戦略支援モード、起動します。』


端末の画面が、すうっと明るくなった。


俺と、エラーだらけのAIの、“勝てない”選挙が、始まった。

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