悪役令息転生〜天才揃いの原作キャラ達をキャン言わせたい系主人公による原作シナリオ知識完全無視戦略〜
莠
物心のついた日
それは、きっかけと呼ぶには余りにも些細な、普通に考えれば取るに足らない事でしかなかった。
例えば死ぬ程の高熱にうなされる中であったり、川で溺れる中であったり、階段で頭を打ったり、或いは雷に撃たれてだったり。前世を思い出すともなれば、普通はその位の『きっかけ』というものがあるだろう。
もしくはカミサマがその年で思い出すよう細工を施したとか、なんらかの条件を満たしたとか。そういった話の方が説得力というものも出てくるだろうし。
つまり、『私』が前世を思い出したきっかけは、なんともまあ締まらない話であると共に、どこまでも『私』の人間性を表すものであった。
恥の多い……訳では無いが、『私』の人生はおよそ挫折と敗北、そういった言葉で表す事が出来るなんともつまらないものであった。
人並みの幸せというものを望んでいればそれなり以上に幸福になれただろう。傲慢に聞こえるかもしれないが、客観的な事実として『私』は人並み以上に優れていた。なんなら天才と呼ばれていた事もある。
では何故、そんな優秀な人間が前述のような人生を送ったのかと言えば、分不相応、その一言に尽きるだろう。あるいは勘違い野郎の末路と言っていいかも知れない。最も、そう思っていたのは『私』だけだったかもしれないが。
あくまでも主観的な評価であって、客観的な『私』の人生は成功ばかりのサクセスストーリーだった。周囲より優れた成績、膨れ上がる両親の期待とそれに応え続ける『私』。なんら破綻せずに終えた人生というのは中々。
そんな実情と心理の乖離の始まりはいつだったか。頂点を目指すには必死に努力しなければならず、その為に入った集団のメンバーが天才の集まりだった、というのはいささか『ありきたり』かもしれない。
『本物の天才』。私がどれほど苦労したかわからない程の難題さえも、「ん、あのくらいなら簡単。分からない方が分からない」なんて軽さで解いて、飄々としている奴ら。もし一時は勝っても、直ぐに追い抜かれていく。
負けた。負けた。負けた。負け続けて、勝ちたいと願って。必死に努力を続けて、これ以上は無いくらいに頑張って、それでも最終的には負けがやってくる。そんな人生。
逃避の先は数多く、逃げた先でも負け続けた。きっとコレなら1番になれるなんて考えは、その全てにおいて『本物』には勝てないという事だけを証明し続けた。どんな話題でも語れる多趣味の才人? その中身は、唯ひたすらに勝ちを求めた惨めな敗北者に過ぎない。
『勝利』への渇望。『敗北』への忌避感。まあ結論を言えば、そういったものが少々、死んで生まれ変わってもなお引きずる位には大きかったらしいと。理解したのは、今生における初めてのジャンケンで姉に負けた時であった。
「ちょっと? ねえちょっと! どうしたの?」
放心していたのは一瞬という訳ではなく。人1人の人生を追憶したにしてはショックもダメージも少ないが、今生と前世の人格が統合された影響は顔色にも出ているだろう。
無意識で出した手なのだろうか、震えるチョキは無様にも姉の出しているグーに対しての敗北手。Vサインだからといってじゃんけんで無条件に勝てる手では無いのだ。
「姉上」
「へ?」
無垢な3歳児から3桁に近い年数の妄執とも呼ぶべき勝利への渇望を背負った3歳児へのジョブチェンジ。つまり、今すべき事は完全に理解した。
困惑、あるいは混乱している目の前の5歳児に呼びかけながら、自身に起こった現象あるいはこの世界について冷静に考える。普通に考えればわかって当然の理性的な行動。唯の子供ならまだしも、人生を1周終えた人間なら当たり前。
何、実に簡単な事だ。
「今のは3本勝負の1本目なので負けてないですし今から姉上がグー以外を出したら姉上を一生嫌うし舌噛むか飛び降りて死にます」
「え? ん?」
そんな簡単な事を簡単だと飲み込めるんならこんな事になってないんだよなぁ! 混乱してる内に勝負の前提をひっくり返して心理戦や盤外戦術も最大限活用して勝ちに行く! コレが『僕』の今すべき事に決まってんだろ!!!
「はいじゃんけんぽんっ! じゃんけんぽんっ! はい僕の勝ち!」
「ん? え?」
「大好きだよ愛してるぜ姉上! じゃあちょっと用事思い出したから失礼するね!」
「ん? んんん???」
何が起きているかわからない、といった少女を置き去りにして全力疾走を開始する。勝手知ったる我が家……というより大豪邸とか御屋敷と呼ぶべきそこを、短い手足や頭部重量のバランスに苦戦しながらも駆け抜けて。
「父上〜」
「ん? どうしたバル君?」
庭園に設けられた、お茶なり花なり会話なりを楽しむ為のスペース。優雅に本なぞ読みながら午後に紅茶を楽しむ父親に、差し当たって宣言しておく事がある。
「不肖ながらこのバルトロメオ、物心つきました!」
「なにそれすごい」
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