七.謎解き①

 居間に戻る。筒井君が「どうだった?」と若狭兄弟に声をかけていた。会話を遮るように二代目が話し始めた。「さあ、皆さん、お揃いのようですので、事件の真相についてお話しましょう。先ず、この事件の真犯人は過去の人物と言って良いでしょう。既に亡くなっています」

 また妙なことを言う。幽霊やお化けが犯人だと言い出すのではないかと心配になった。

「時系列に沿って、真相をお話しましょう」二代目の言葉に、一同、身構えた。「あの日、皆さんが実地調査から屋敷に戻ったのが四時過ぎ、筒井君と新沼さんは夕食の当番、松野君、若狭兄弟、北野さんは、ここ、リビングにいた。五代院君は部屋に戻り、長崎君は近所を見て回っていた。インジウムの鉱脈を探していたのでしたよね」皆が頷く。

「六時くらいに夕食は始まり、皆さん、食堂に集まって食事をした。十五分程度で長崎君は食事を済ませて部屋に戻り、その後、五代院君も部屋に戻った。食後はそれぞれ思い思いに過ごしていたようですが、反省会の時間となり、停電が起きるまで、ずっと居間にいた人物はいませんね。龍臣君は薬を飲みに部屋に戻ったし、輝臣君はトイレに行った。松野君は携帯の充電の為に部屋に戻ったし、筒井君、新沼さん、北野さんはお風呂に行っている」

 よく覚えているなと感心した。次に二代目が言った言葉には驚かされた。「何故、僕が食事の後から反省会の間の皆さんの行動に拘るのかと言えば、長崎君はその間に殺されたと考えているからです」

 皆が一応に「えっ⁉」という顔をする。

「そうです。長崎君は停電の間に殺されたのではありません。食事が終わって部屋に戻ってから殺されたのです。つまりは長崎君を殺すことが出来た人物は食事の後、居間にいなかった人物、そう皆さん、全員が容疑者だと言うことです」

 おおっ! 僕の全員が犯人説の可能性が出て来た。やはり、二代目に話してみるべきだった。しかし、長崎君は停電の最中に殺されたのだと思っていたが、それより前に殺害されていたとは。ちょっと意外だった。

「さて、そうなると皆さんの証言の中に、ひとつ矛盾する証言があることに、お気づきでしょう。そう、そうです。筒井君が証言した、長崎君と五代院君の二人が言い争う声を聞いたので、様子を見に行ったら、長崎君の部屋には鍵が掛かっていたという、あの証言です。だって、そうでしょう。翌朝、皆さんが長崎君の部屋を尋ねた時は、鍵が掛かっていなかった。筒井君が嘘をついていなければ、部屋に鍵を掛けたのは長崎君だったことになる。その時、彼は生きていて、五代院君を追い払って部屋に鍵を掛けた」

「僕は嘘なんかついていない!」と筒井君が声を上げる。

「分かっています。君は嘘なんかついていない。となると、言い争いが起きてから反省会までの間に長崎君は殺されたとすると、どうでしょう。時間として十分程度しかありません。大の男でも、大人の男性の遺体を天井から吊るすのには、かなりの時間が必要です。とても、とても言い争いから反省会までの間に、長崎君を殺して天井から吊るすなんて不可能です。じゃあ、どうする? 長崎君を殺しておいて、死体は後でゆっくり天井から吊るせば良い。なるほど。部屋に鍵を掛けることが出来れば、その問題は解決します。実際に鍵があった。では後って何時でしょう?」

 二代目の独壇場だ。

「停電の最中? 暗闇の中で死体を天井から吊るすなんて、不可能とは言いませんが大変だ。大きな物音を立ててしまうかもしれない。そうなれば誰かに気づかれてしまう。発電機が動いて、電気が復旧してから? その頃には、皆、部屋に戻っていて、やはり物音は立てられない。安全を期す為にも、皆がいない間の方が良い」

 長崎君が殺されたのは停電の最中ではなかったのか? そう新庄さんが言っていた気がする。

「僕はこう考えました。食後の皆さんがここでたむろしている時間が、長崎君殺害の絶好の好機だった。はい。そうなると、二人が言い争っていたことがネックになってしまいます。でも、皆さん、考えてみて下さい。簡単なことです。二人が言い争っている声を聞いただけで、それを見た人物はいません。反省会の前です。一旦、部屋に戻って来る人間がいることは想像に難くない。廊下に人がいないのを確かめてから、録音した長崎君の声を大音量で流せば良い。それに合わせて五代院君は怒鳴るだけだ。五代院君の携帯電話を調べれば、録音された長崎君の音声データが見つかるでしょう」

 何人かが、「えっ⁉」という顔をした。五代院君が犯人⁉ そう二代目は言っている。

「長崎君を殺した犯人なら、犯行時刻にアリバイが欲しいはずです。死亡推定時刻というものがあります。その間、アリバイがあれば完全犯罪が可能です。これが計画的な犯罪で、五代院君が犯人だとすれば、停電の間に長崎君が殺されたと考えてもらいたかったはずです」

「それは、停電が計画的だったと言うことでしょうか?」

 筒井君の質問を二代目は右手を上げて制した。黙って俺の話を聞けということだろう。

「勿論、そうです。あなた言っていましたよね? 部屋を出たのは五代院君の方が先だったけど、居間に来たのは五代院君の方が後だったと。じゃあ、彼は何処で何をしていたのでしょう? 恐らく、この屋敷のブレーカーを落としに行ったのだ。ブレーカーが何処にあるのか、知っている人はいますか?」

 一同、顔を見合わせた後、首を振った。「何処かで見た気がするのですが・・・」と筒井君。ブレーカーボックスなんて、停電でも起きないと、見ていても記憶に残らないものだ。

 二代目が新庄さんに視線を向ける。「調べてみるよ」と新庄さんが答える。「こういった古い屋敷は外から電線を引っ張って来ている場所にブレーカーがあるものだ。屋敷をぐるりと一回りすれば、直ぐに分かるよ」と二代目が言う。

 新庄さんがむっとした顔をする。二代目はお構いなしに「タマショー君。君も行って来たまえ。大丈夫、謎解きは暫く休憩しているから」と僕に言った。

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