六.裏の顔③
「探しに行くって、何処に行くのですか?」
黙って二代目の事情聴取を聞いていたが、皆の疑問を代弁してあげたくなった。あの新庄さんでさえ、眉をひそめている。二代目の意図が分からないのだ。
「玄関ホールだよ。鍵はそこにある。鍵がそこにあれば、この事件は解決したようなものだ」
「犯人が誰だか分かったということですね?」
「無論だ。そんなもの、とうの昔に分かっている」
これだから名探偵は嫌いだ。屋敷にやって来て、ちょっと現場を見て、関係者から話を聞いただけで、事件を解決してしまったというのか。だったら、さっさと犯人を捕まえれば良い。
二代目が部屋を出て行こうとするので、慌てて後を追った。新庄さんがついてくる。愛好会のメンバーも、ぞろぞろと後をついて部屋を出て来た。
全員が犯人説を二代目にぶつけてみようと思い、「二代目、僕、考えたんですけど――」と言いかけると、「タマショー君。偶然の反対語って、何だか分かるかい?」と聞かれた。
「偶然の反対語? さあ、故意ですか?」
「必然だよ。じゃあ、故意の反対語は?」
「ええ~と。偶然・・・じゃないですよね」
「過失だ。でもね。世の中、白と黒じゃあ割り切れないものって、あるような気がするんだ。その中間に位置するような、偶然でもない、必然でもない。故意でも過失でもないものが」
「はあ・・・」何を言っているんだろう?
ロビーに出た。広い玄関ロビーだ。我々が出て来ても、まだ閑散とした印象だった。結局、ロビーに出て来たのは松野君、若狭兄弟、北野さんの四人で、筒井君と新沼さんは興味が無いのか、部屋から出て来なかった。
二代目は二階への階段を一段、登ると、皆を見渡しながら演説する。「さて、何処かに鍵があるとしたら、考えられる場所は一か所しかありませんね」
得意満面だ。
「ここです。これ、この中に鍵があるはずです」
二代目が階段横の壺を指さす。高さが一メートルはありそうな巨大な壺だ。さあ、どうなるのだ? といった感じで、皆が二代目の様子を見守っている。
「さあ、ほら」と二代目が僕に言う。
「えっ⁉」何のことか分からなかった。
「ほら、壺の中に鍵がないか確かめてみてくれ」
「確かめろって言っても、一体、どうやって・・・」
「壺を逆さにして振ってみれば直ぐに分かるよ」
「逆さにして振るっていっても、こんなに大きな壺ですよ」
相当、重量がありそうだ。
「貴重なものだから、くれぐれも割ったりしないように注意してくれ」
そんな無茶ぶりされても・・・
「手伝いましょうか?」と若狭兄弟が言ってくれた。助かった。とても一人では無理だ。新庄さんは素知らぬ顔だし。
三人掛かりで壺を持ち上げる。想像通り重たい。「ああ、そっちを持って」、「もう少し傾けて」と少しずつ壺を傾けて行く。本当に、鍵なんて入っているのだろうかと疑いかけた時、壺の中でカランと音がした。
――何かある。
「もうちょっと。頑張って」若狭兄弟に声をかける。壺を割ると大変だ。慎重に作業を進めなければならない。余計に体力を使ってしまう。
二代目も新庄さんも、黙って見守るだけだ。松野君は離れた場所から様子を伺っていた。
「よいしょっと!」
壺をひっくり返すことが出来た。すると、中から何が転がり出て来て床に転がった。皆の視線が集まる。鍵だ。本当に壺の中にあった。二代目のこういうところが、時に空恐ろしく感じてしまう。
「大事な証拠物件だ。指紋をつけないようにしないとね」と二代目はポケットから高級そうなハンカチを取り出して大事に包んだ。
「これでスッキリした」と二代目が嬉しそうに言う。そして、「タマショー君。壺を元通り、戻しておいてくれ」と簡単に言った。元に戻すのも一苦労だ。また、三人掛かりで壺を元に戻した。
「さあ、確認してみましょうか」と言うと、二代目は二階への階段を登り始めた。「確認って、何を?」と聞くと、「何処の部屋の鍵か確認しに行くのさ」と答えた。
二階へ上がる。二代目はわき目も触れずに真っすぐ歩いて行く。まるで何処の部屋の鍵か分かっているようだ。一番奥の部屋、向かって右側の規制線が張られた部屋、そう長崎君が殺害された部屋の前に来ると、ハンカチに包んだ鍵を慎重に持つと、鍵穴に差し込んだ。
カチッと音がして、ドアに鍵が掛かったようだった。
試しに二代目がドアノブを回してみる。ドアは開かなかった。「やはり、この部屋の鍵だったようですね」と二代目が満足そうに呟いた。そして、振り返ると、満面の笑顔で言った。
「さあ、謎解きだ。部屋に戻りましょう」
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