第11話 運命
『今は違うけど、昔の吸血鬼と人狼は敵対関係にあったの。そう。吸血鬼のお父さんと人狼のお母さんも敵対関係にあった。だから私たちは一族を捨てざるを得なかった。互いの手を取る為には、そうするしかなかったの。まあ。一度は捨てた一族だけど、こうして少しだけ時が流れて、吸血鬼と人狼は手と手を取り合う関係になったから、取り戻す事ができた。ふふ。私たちのおかげかしら。なんて、考えたりしたわ。本当の理由は分からないんだけどね』
母は酔っぱらった時、いつも同じ話を口にしていた。
何故かいつもハーブティーで母は酔っぱらうのだ。
『吸血鬼は血を主食にして生きているわね。好き嫌いはあるらしいけど、基本的に生物の血だったら何でもオッケー。一人だけに絞らないでね何百人でもオッケーってね。人狼と同じように長命だもの。仕方ないわよね。だけど、そうじゃない吸血鬼も居るの。一人だけにしか吸血行為をしない吸血鬼がね。それがお父さん。だったら、とってもロマンチックだったんだけど。お父さん。私と出会う前に、老若男女問わずに吸血行為をしていたのよね~。お父さんのお兄さんが一人だけにしか吸血行為をしなかったんですって。ふふ。でも、私と出会ってからは、お父さん。私にしか吸血行為をしていないからいいんだけどね。それに一族を捨てての逃亡劇もすんごくロマンチックよね。大変だったんだからね。私の一族もお父さんの一族も誇りがすんごく高くってね。敵対関係にある吸血鬼と人狼が恋に落ちるなんてあり得ないって。不良品だって。私たちを殺そうと躍起になって追っかけて来るのよ』
母はしっかりした足取りで台所に向かい、テキパキと手際よく新しいハーブティーを淹れるとまたソファに座って真っ赤な顔を向けて言葉を紡いだ。
『私たちは華麗に躱しまくって一族の魔の手から逃げ続けたの。そのおかげで世界中旅をする事ができたから感謝してもいいわ。なんて。少し強がりね。とにかく必死で。殺されたくなかったし。殺したくなかった。色々な生物に迷惑もかけたくなかった。逃げて、逃げて、逃げて。いつまで続くのかしらって。少し悲しくもなった。でも、私もお父さんもお互いの手を取った事を絶対に後悔しなかった。私はお父さんしか居なかったし、お父さんには私しか居なかったんだもの。このまま逃げ続ける生活で寿命を終えても、悔いなんてなかった。燃えるような恋だった。から。少し。ほんのちょびっとね。不安だったわ。逃げる生活から解放されて、普通の生活を送れるようになって。お互いに気持ちが冷めちゃうんじゃないかって。杞憂だったけどね。お母さんもお父さんも恋をしたまま。愛したまま。お父さんのお兄さんみたいに、一人だけしか吸血行為をしていなくたって。運命の番だったのよね~』
母はティーカップをテーブルに静かに置くと、拳を両頬に添えて、締まりのない赤ら顔を近づけた。
『あなたはお父さんみたいな恋をするのかしら? それとも、お父さんのお兄さんみたいな恋をするのかしら?』
(2025.4.28)
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