罪の告白

 アリーナは観客で満員だった。

 だが、不気味なほど静まり返っている。観客たちの視線が向いているのは、アリーナの中央に立つフォルだ。大型モニターにその顔が映っている。フォルはうつむき、存在しない心臓を押さえていた。


「話せ」


 隣に立つナアンがそれだけ言って、離れる。


「あの……みんなどこまで知ってるのかな」


 フォルがおずおずと切り出した。

 観客の何人かが、なにもかもだよ、という意味のことを言った。

 フォルはナアンを見る。じゃあ話さなくてもいいのでは? 壁際にいるナアンは腕組みをしたまま首を振った。それでも話せと。

 うつむいたままのフォルが説明を始める。


「ぼくは……ある女性と出会った。草原を歩いているときに近距離無線が聞こえて、それで出会ったんだ」


 フォルは話した。ふたりの語らいや、いかにトルーが素晴らしい存在で、かけがえのない存在かを。


「でも彼女は地雷だった。地雷を制御するためのBIだったんだ。こんなの、類を見ないぐらい、このうえなくバカげたことじゃないか。だって踏めば爆発するだけなのに、なんの制御が必要なんだ?」


 観客席を見上げるとたくさんの知っている顔がいた。フォルのファンたち。いや、もとファンか。

 彼らの、そして全員の沈黙が刃物になって、彼を切り刻むようだった。


「認める。ぼくは意図的に哨戒の任務を放棄した。認める。それがなにをもたらすかについて、てんで考えていなかった。認める。このたびの敵軍の侵攻はぼくが引き起こした。以上だ」


 なにかがフォルの足下に衝突した。

 コードだ。意図的に傷つけられたコードがフォルに向けて投げつけられたのだ。それは悪意を固めた爆弾としてアリーナのあちこちで炸裂する。ビットが雨のように降り注いだ。

 腕で頭をかばっていたフォルは、ふと視界が暗くなるのを感じた。

 誰かが前に立っている。


「これでおひらきだ!」


 ナアンがすぐ前で叫んでいた。コードの破片がぶつかっても意に介していない。

 彼の一言で会場は冷静さを取り戻したようだった。

 ひとり、またひとりと観客席から離れて通路へ向かう。各々の通路の行き止まりにあるのはポータルだ。


「どこへ行くんだろう」


 フォルがナアンに聞く。ナアンは愚か者に向ける目でフォルを見た。


「仕事だよ。回収をなるべく遅らせるために一生懸命、やるべきことをやるのさ」


 ナアンはそれだけ言って、自身もポータルへの道を歩きだした。

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