嫌がらせされた!?

 うわぁ~

 近くで見るとなお分かる、パパさんのイケメンっぷり!


 お嬢様より少し濃い目の金髪に、お嬢様と同じ青い瞳、若い頃のあだ名は絶対に王子様か貴公子様だったに違いない! 

 以前、友達に見せて貰った乙女ゲームの登場人物が大人になったような、それぐらい格好良い!

 わたしは思わず頬ずりしてしまう。

 う~ん、自分が思っているよりも、わたし、面食いなのかもしれない。

 パパさんが少しくすぐったそうにしていると、下の方から「キュー!    」とお嬢様の声が聞こえてくる。


 ふふふ、どうやらお嬢様はわたしを独り占めしたくて仕方がないようだ。


 下を覗くと、またしても眉を寄せるお嬢様が、催促するようにこちらに手を伸ばしていた。

 ああ、可愛いなお嬢様はぁ~

 パパさんがわたしをお嬢様に返す。

 ふむ、なんやかんやいって、わたしはお嬢様に抱っこされるのが一番かもしれない。

 ぎゅ~っとしてくれて、心が凄く温かくなった。



 しばらくお嬢様のお部屋らしき場所で、お嬢様にたわむれながら時間を過ごしていると、メイドさんが呼びにやってきた。

 そして、連れてこられたのはおそらく食堂らしき場所だった。

 中央に大きなシャンデリアのあるそこは、長テーブルがどんと置かれていて、その際奥にはパパさんが待っていた。

 わたしはどうするのかな?

 などと考えていると、パパさんの左斜めに座ったお嬢様のその隣の椅子に座らされた。


 おやおや、こんな子ドラゴンは床でも良かったんですよ?

 美味しいものが頂けるのであれば。


 でも隣でこちらを見るお嬢様の笑顔を見ていると、わたしもなんだか嬉しくなってきた。

 なるほど、これはお嬢様の要望なんだな。

 そんなにわたしと一緒にご飯が食べたいのか。

 可愛いなぁ。

 パパさんはそんなお嬢様を見ながら、少し困った顔で笑っている。

 ドラゴンとはいえ、獣ですものね。

 ……ん?

 そういえば、お嬢様のママさんはどうしたのだろうか?

 それらしい人に会ってないなぁ。

 ひょっとしたら、亡くなってたりするのかもしれない。

 お嬢様、こんなに小さいのに……。


 でもまあ、生きていても〝あれ〟な親もいるし、そのあたりも、ね。


 そんな事を考えていると、メイドさんがわたしの前に銀色の蓋? がされているお皿を置いた。

 漫画とかで見かける、高級料理とかにされている例のボウルみたいな蓋である。

 凄い、初めて見た!

 これがメイン料理って事かな。

 なんだろう。

 お肉だったら良いなぁ。

 わくわくしながら見ていると、メイドさんがそれをサッと取った。


 ……?


 銀色の皿の上に、肉の塊が置かれていた。

 一応、パセリっぽいのやら、ニンジンぽいのやらも置かれているが、取りあえず、肉の塊が置かれていた。

 ……生で。


 困惑したわたしはチラりと横を向く。

 お嬢様のお皿には、熱々に焼かれたお肉がのせられていた。


「ががががぁがぁ(嫌がらせか!)!」

 怒りと失望のため、バランスを崩し、椅子から転げ落ちてしまった。


 なに!?

 なんなの!?

 ドラゴンがそんなに嫌いなの!?

 何でこんな嫌がらせをするの!?


 メイドさんが慌てて拾い上げようとするけど、わたしはするりとその手を抜け、お嬢様の所に走る。

 お嬢様はビックリした顔でわたしを抱き上げてくれた。

 お嬢様ぁ!

 何者かがわたしに意地悪するの!

 お嬢様ぁ!

 わたしはお嬢様にスリスリしながら、いかに可愛そうなのかを「ガァ! ガァ!」訴える。

「キュー   !」

 お嬢様が何やら言ってくれている。

 言ってやって!

 言ってやってよ!

 くやしぃぃぃ!

 しばらくそうやっていると、後ろからひょいっと持ち上げられた。

 ちょっと!?

 今、お嬢様に慰めて貰ってるんだから、邪魔しないでよ!

 しっぽをぶんぶん振って、不満を表現してやる。

 どうやら、運んでいるのはおじいちゃん執事さんのようだ。

 しっぽが当たらないように、手を伸ばしてわたしを運んでいる。

 キィィィ!

「キュー!

    !」

 お嬢様が何やら指で示している。

 ?

 指している先に目をやれば、先ほど置かれた皿は下げられ、そこに新たなる物が置かれていた。

 胸の大きいメイドさんが例の半ボールを開けると、焼けたお肉の香りがふわりと漂ってきた。

 !?

 わたしはそのそばに運ばれていくまで、目が離せなかった。


 これ、ステーキって奴だろう。

 わたしは……知っている。


 そして、恐らく前世でも食べたことがない。

 目にする度にうらやましいと思っていた――ということを思い出した。

 うまそぉ~

 口元に涎が湧いてくるのを感じた。

 すると、胸の大きいメイドさんがナイフとフォークでお肉を切り分け、わたしの口に入れてくれた。

「ががががぁ!(うまままま!)」

 またしても転げ落ちそうになるのを、おじいさん執事さんが止めてくれた。

 柔らかくて、肉汁が口いっぱい広がり、旨いぞぉぉぉ!

 メイドさんが運んでくれるのをパクパクと食べていく。

 もちろん、ニンジンとかのお野菜もね。

 お肉の旨味が染み込んでいて、それらも最高に美味しかった。

 ああ、幸せだぁ。

 わたし、ここに来られて本当によかったぁ。



 お嬢様のお屋敷に来て、一週間ほどになった。

 ここは非常に居心地がよい。

 お嬢様のお部屋で目を覚まし、午前中お嬢様が勉強中はバルコニーに出て日向ぼっこをし、午後からはお嬢様の膝の上でのんびりして、夜はお嬢様に撫でられながら眠りにつく。

 そんな生活をしていた。

 そんなぐーたら生活に対してなのか、胸の大きいメイドさんが時々、グチっぽく何かを呟くようになった。

 たぶん、わたしが働かずに食っちゃ寝生活をしていることをやっかんでいるんだろうなぁ。

 ごめんね、メイドさん。

 でも、代わってあげる気はさらさらないの。

 一生お嬢様に可愛がられて生きていくつもりだから。


 ……ドラゴンの寿命がどれくらいなのか、分からないけど。


 そうそう、相変わらずお嬢様達がなにを言っているのか、最初はほとんど分からなかったけど、最近は多少ではあるものの聞き取れるようになってきた。

 まずは名前だ。

 どうやらわたしには『キュートリック』という名前が付けられているらしい。

 愛称はキューだ。

 お嬢様が時々、可愛らしく『キュー』と言っていたので、なんだろうと思っていたんだけど……。

 どうやら、わたしのことを呼んでいたようだ。

 ぜんぜん分からなかった。

 また、お嬢様の名前はカトリーヌ、パパさんが呼ぶ愛称はカティ、気品あり、お嬢様にぴったりだと思う。

「キュー!

    」

 そんなことを考えながら、お嬢様の部屋のソファーでゴロリとしていると、お嬢様が戻っていらっしゃった。

 相変わらず柔らかなお嬢様が、わたしを愛おしそうにぎゅっと抱きしめてくれる。


 う~ん、お嬢様好き。

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