拝啓 貴方へ。

りんもくいお

第1話

 未だに慣れない三度目のスヌーズで目を覚ます。


 うずくまるベットからやけに重い体を起こす。


 歩き始めても重たいまぶたが焦点を合わせようとしてくれない。


 寝室を出ていつもより冷たいリビングを通り洗面所に向かう。


 「……酷い顔だ。」


 顔を洗い、鏡に映る幸のない顔と見合わせて思わずつぶやいてしまう。


 時間がない。いつもより遅い起床に昨日着たしわしわのシャツとスーツに袖を通す。ご飯は食べる時間がない。……いや、食べるものも気力もない。


 いざ着替えてしまえば出勤の時間までに時間がある。


 少し空いた時間には思わず考えさせられてしまう。


 「……。」


 しかし考え出せばまた涙が出そうになる。


 そう思うと止まっていることはできいなかった。


 今日も明日も明後日も。押し寄せる社会の荒波に、自身の感傷に浸る時間を世界は与えてくれないのだから。


 勢いよく扉を開き部屋を後にする。


 『いってきます』はもう言えない。


 私は長い付き合いだったと思うけどあなたはもういない。


 最後はうまく話し合う時間もなかったですね。


 もしまた会えるなら、伝えたいことは沢山。


 『今はちゃんとゴミ出し忘れてない?』なんて心配を。


 『お互いの成長になったでしょうか?』なんて建前を。


 『いつからすれ違ったんだろうね?』なんて確認を。


 『今でも好き』なんて本音を。


 そんな心の手紙を書きながら今日も生きる。


 ねえ。


 あなたは幸せでしたか。

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拝啓 貴方へ。 りんもくいお @io-rin

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