第二話 金貨虫と自在鴉
今日も今日とて、私は冒険者ギルドへやってきた。
彼ら冒険者のことを、よく知るためにだ。
私が属する白木等級の主な仕事は雑用だが、これとて馬鹿にしたものではない。
人々の暮らしを安定させ、また先達たる冒険者たちをアシストし、その営みや社会との摩擦を知る上で、これ以上無いポジションと言える。
なので、要請が出るままに、右から左へと依頼をこなしていると、ある銅等級パティーから、手伝いの打診があった。
しかし、彼らは実に奇妙なことを口にするのだ。
「とある商家から財宝が消えたらしくてな。信用がおける人手が欲しいんだ。明日から手伝ってくれ」
じつに、じつに奇妙な話だ。
なぜなら私は、そっくり同じ内容を、先日ブラム氏から聞かされていたのだから。
§§
家へと戻り、ルルさんに帰宅の挨拶。
その後、遅れて戻ってきたブラム氏に事情を説明すると、彼は複雑な表情を浮かべた。
「やっぱりか。手の空いてる、持ち逃げしそうにねぇ冒険者全員に声がかかってるとみて間違いないだろうな」
「つまり、これは人為的な盗難であると、君たちは考えている訳か」
「俺たちじゃねぇ。依頼主とギルドがってことだ」
ふむ、流れを整理しよう。
どうやらこのところ、ゴートリーのあちこちで、貴重品が紛失、あるいは盗難されるという事件が頻発しているらしい。
らしいというのは、それが不確かなことだからだ。
昨日までそこにあったはずの宝石や貴金属が、朝になると姿を消している。
しかし誰かが盗難に
ただただ
ブラム氏は各地から、などと紛らわしいことを言ったが、これは遺跡や迷宮から消えているのではない。
人が住む街の中から、なくなっているのだ。
「遺跡と言えばだが、
問い掛ければ、彼は首を横に振った。
「そうだろう、私が生まれた頃ですら珍しかった」
「つい最近ってことか?」
「私の魅力のみずみずしさについては、いつでも議論に応じるが……ともかく金貨虫にはある生態がある。宝飾品を喰らい、それに擬態するのだ」
魔物の定義は難しいが、簡潔に言うならば、
巨大赤熊であれば、尋常ならざる身体能力。
金貨虫でいえば、その擬態精度。
この虫は主に、金属や宝石を食事にする。
宝飾品を見つけるとどこからともなく現れて、卵を産み付け、去って行く。
卵がふ化すると、幼虫は一晩のうちにもとの宝石を食べ尽くし、まったく同じ姿に変貌。
成虫になるときまで、完璧な擬態をしめす。
そうして来るべき日になると、あっと言う間に飛翔して消え去ってしまう。
あとにはなんの形跡も残らないため、突如として宝石類がなくなったように思えるのだ。
前に一度、そんな遺跡に辿り着いて宝物庫を開けたところ、大量の金銀財宝が嵐のように吹き付け、巣立っていく現場に立ち会うことになった。
私にとっては壮観な光景と想い出だが、その時の同行者は二度と虫はごめんだと
うむ、あれはじつに潔癖症だった。
「どうだろうか、類似の事例だと思うが」
「お嬢の見識を疑うわけじゃねぇんだが、すでにギルドの方では目撃情報から原因を突き止めてる。まあ、これは今日になっての話だがな」
たしかに、彼の言葉は初耳だった。
日中のうちは右往左往していたはずなので、それから状況が変わったということだろうか。
「それで、原因とは?」
「鳥だ」
「しかし、私の聞いた依頼書の内容にそのようなものは」
「そうだろうな。俺がこないだから走り回って、さっき裏が取れたばっかりだからな。魔の森近辺に生息する鳥形の魔物、
ネヴィル・クロウ。
あるいは、
鱗のある蹴爪を持ち、金属よりも貫く
なのだが、その最大にユニークポイントは、身体のサイズと色彩を任意で変えられることにある。
また、異常に賢い。
その能力と賢さを持ってすれば、
しかし、なぜ自在鴉が犯人だと?
「お嬢に知らないことがあるとは驚きだ。ネヴィル・クロウはな、巣を作るとき、金銀財宝でそれを飾り立てるんだとさ。古い書物に、そんな記述があったらしいぜ」
「なぜだ?」
当然の疑問をぶつければブラム氏は顎に手を当て。
しばし悩んでから、
「いや、俺は知らん」
真顔で手を振ってきた。
この男、ときどきこういう部分がある。
仕方ない、仮説を立てよう。
「ドラゴンに近い生態なのか?」
「おお、
「卵を守るためだ。ドラゴンは長命だからなかなか世継ぎを作れない。そこで、出来た卵を壊さないために、硬度の高い財宝で覆ってしまう。また、万が一卵を人間に盗まれたとき、すぐには壊させないため、という理由もあったらしい。人は価値があるものを大切にするだろう?」
いかな私でも、ドラゴンと
ふむ。
「それで、ギルドはこれからどう動くのかね」
「おう、新規の依頼書を発行させて、単純で効果的な方法を
ブラム氏は、自信たっぷりな様子で、こう言った。
「人海戦術で、自在鴉の巣を探すのさ」
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