第三話 楽園王の能力値(カンスト)
「ありえません、すべての能力が最高値だなんて……!」
受付嬢の声は悲鳴に近かった。
魔導具の
そしてその全てに、〝最上〟の評価がつけられていた。
「金等級でも最上なんて、二つもあればいいほうなのに……それを、こんな幼い……」
「はっはっは。驚くことはないとも、お嬢さん」
なにせ私は、生涯を
いうなれば、誰かの
どんなことでも代わりが出来る万能者。
であるなら、この程度、容易いことさ。
「そうとも、なぜなら私はお――」
言いかけて、慌てて両手で口を塞ぐ。
「お?」
怪訝そうに見詰めてくる受付のお嬢さんとヴィルヘルム殿。
まさか、王様だからだとは言えない。
「お、えっと……そう、オールマイティー!」
嘘は、嘘は言っていない。
王のひとつの資質として、
よって虚言にはならない、はず……そうだろう?
などと内心で訴えかけたところで、二人の視線の意味合いが変わるでもなく。
「なにか細工をしたのか? いつ、どうやって?」
と
どうしたものかと冷や汗を垂らしていると、周囲のざわめきが耳に入った。
先ほどの
「聞いたか? 最上だってよ」
「すげぇな、金等級相当の資質だろ」
「
「ひゅー、可愛い子じゃん、膝とかに乗って欲しいぜ」
「馬鹿、たぶんどっかのお貴族さまの娘だぞ、不敬罪でムチ打ちにされてぇのか」
「じゃあよ、お貴族さまが同僚になるってことか? そしたら俺たちの待遇がよくなっちゃったりして」
「やめとめやめとけ。その手の期待はするだけ無駄だ。聞かれたらブラムにぶん殴られるしな。あいつもよっぽど苦労性だ」
おっと、どうやら悪目立ちしているらしい。
注目を浴びるのは好きだが、人心を騒がせるのは好みではない。
私は受付のお嬢さんへと向き直る。
「それで? この資質になにの意味が?」
「――はい。当ギルドでは幾つか特例を
我に返った様子の彼女が説明してくれた内容は、そのようなもの。
「ふむ。ちなみに銅等級は、どのような仕事がメインになるのだ?」
「外敵の排除、害獣駆除、治安維持への貢献になります」
つまり、地位相当に荒事で危険。
日常と不可分でありながら、その外側になる仕事。
いて当然だが、民からは暴力装置として怖れられそうな役割か。
「遠慮しよう」
「そんな、もっとじっくり考えられてからでも。白木等級では、汚れ仕事も多くなりますし……」
あちらも業務というか、人材を勧誘するノルマがあるのだろう。
それなりの必死さで思いとどめようとしてくる受付のお嬢さん。
だが、私の腹をとっくに決まっている。
私が冒険者を目指すのは、彼らの実情を知りたいからだ。
その上で、市井の人々と関わり、この身の不徳がどこにあったのかを学びたいと考えている。
ならば、途中からはじめても意味はない。
一足飛びに学べること、身につく技術や礼節などは、この世にないのだ。
どれほど忌み嫌われる内容であったとしても、まずはやる。
そこからだろう。
「確認するが、お嬢さん。あくまでこの審査は、私の資質を
「はい、ですので銅等級から」
「ん、ん、ん、ん」
咳払いをして、手まで振って、彼女の言葉を遮り、私は続ける。
「つまり、資質が最高だとしても、未来を確約するものではない。私はこの通り未熟者でね、増長するにしても実績がなさ過ぎる」
だから。
そう、だからだ。
「まずは、白木等級でお願いするよ」
魔法で結果を誤魔化すなど
けれどもそれは、真実に反する。
魔法使いとは己にも世界にも嘘をつかない真なる言葉を扱うもの。
であれば、誠意を尽くすべきだろう。
……
多少は許して欲しい。
私は人間で、こちらにも都合があるのだから。
「なに、後悔はしないし、させないとも。等級通り、あるいはそれ以上の働きをしてみせる。ギルドにも全面的に協力を約束しよう。もっとも、駆け出し冒険者としてだがね」
「気が変わられるということは? 本当に、ギルドとしてはたくさんの特典とバックアップをお約束しますが?」
「残念だが」
「うーん……でしたら、致し方ありませんね……」
渋々と言った様子で彼女はこちらへ魔導具のボードを差しだしてくる。
今度はそこに手を押しつけると、編み込まれていたと思わしき契約の魔法が起動。
そして。
「では……アルカ・アンリさん? 当ギルドは、あなたを白木等級の冒険者として認定します」
差しだされたのは、木製の冒険者証。
私は、笑顔で受け取る。
受付のお嬢さんは小さく嘆息し、周囲の様子を
「白木の冒険者証は功績がなければ三ヶ月で失効します。もしも銅等級からはじめたくなったら、新しく取得するという方法をお使いください」
「……ありがとう」
同じく小声で返答する。
きっと、彼女にしても綱渡りな助言だったのだろう。
席に戻り、コホンと咳払いをした彼女は、非情に営業的な笑顔を浮かべ。
「それでは、あなただけの冒険が、人生の
とても素敵な、祝福の言葉をくれたのだった。
「ありがとう。さて、早速仕事をしたいのだが……なにか、人々のためになりそうな依頼はあるかね?」
「それでしたら、こちらなどいかがでしょう」
彼女が差しだしてくれた依頼書を見て。
私とヴィルヘルム殿は顔を見合わせ。
「
同時に、声を上げたのだった。
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