やりなおし楽園王の冒険者生活 ~民の願いを叶え続けた大魔法使いの王様、理不尽に処刑されて他国にTS転生した結果、生まれて初めて感謝の言葉を浴びる~
第五話 王子と楽園王の高貴なる腹芸会話、あるいは幼女アンリ爆誕
第五話 王子と楽園王の高貴なる腹芸会話、あるいは幼女アンリ爆誕
「この女性と話がしたいのです。席を外してください。出来れば誰も近づけないで欲しい」
王子殿の言い放った言葉を受けた店主は。
直前まで愉快そうだった顔を曇らせる。
するとなにを考えたのか王子殿は、さらに革袋を追加。
「額面の問題ならば、交渉を受ける用意はあります」
眼鏡をキラリと輝かせ、そんなことを口にした。
「……好きにしな」
舌打ちでもしそうな様子で、店の奥へと引っ込んでいく店主。
満足そうに頷く伊達眼鏡の君。
……うーむ、既に私たちはこの酒場で注目の的。
そこで金をひけらかせば、一層悪目立ちすることなど考えるまでもない。
少しばかり思慮が足りないな、この王子殿は。
などと考えていると、
「ああ、そうだ。
と、言い出す。
おっと? 前言撤回だ。
なかなか骨のある若者である。
「葡萄酒は遠慮しよう。代わりに、のちほど清らかな水を一杯」
「……承知した」
一拍の間が、いま
直近のそれは、噛み砕けば〝国庫〟の話になる。
彼は国家の礎、
私は清らかな水こそをいただくと返答した。
つまり、互いに後ろ暗い話は無しにしようということだ。
王族であれば通じる、楽しい腹芸であり、周囲に意図を悟らせないための会話術だ。
しかし、それだけを交えて今後も談笑するというのは難しい。
私は
「『静寂の帳よ、降りよ。
魔力のフィールドが、カウンター席を包み込み、雑音をシャットアウトする。
王子殿は瞠目し、すぐに表情を
「……やはり凄まじいな。
おやおや、誰も聞いていないとわかった途端に口調を荒っぽくして、単刀直入に切り込んでくるか。
若さ故のヤンチャ、覚えがあるとも。
安全だからと腹芸を放棄する、その無鉄砲さが愛らしい。
上機嫌に思いつつ、なんだかこの青年を
「こちらが名乗る前に、
「……いいだろう。自分は、ヴィルヘルム・ゴートリー。この国の」
ああ、思い出した。
「第三王子殿か」
「――先ほども、兄上について言及していたな」
「もっと知っているとも。兄二人、姉一人の補佐に回っている、一見して人畜無害な王位継承権所持者。しかし腹心連中からは、王位争奪戦に担ぎ上げられそうで困っている。悩みは……恋愛と心配性?」
「こちらのことはやはり筒抜けか」
そんなことはない。
私は万能であっても全能ではない。
知っているのは、ここまで。
人となりなどはなにもわからないとも。
「おっと、返礼しなくてはな。私の名はアルカ――」
言いかけて口を押さえる。
いぶかしそうにヴィルヘルム殿が首を傾いだが……これでも私は一国の元王。それが幼女化した姿で本名を名乗るなど
国や民に迷惑をかけたくない。
なにせ私は、クーデターに
なので、しばし考えて、慎重に答える。
「アンリだ。アンリ・アルカと呼んでくれ」
嘘ではない。
極めて親しい人が使う愛称だ。
だから、父母からもらった姓名を
「偽名か?」
ヴィルヘルム殿は当然疑ってきた。
彼の領地、或いは周辺諸国に、同じような名前の有力貴族がいなかったからだろう。
ゆっくりと首を振る。
「私は嘘をつかない。いや、つけない。魔法は真なる心に宿るものだ。嘘を重ねれば重ねるほど、その力は弱まって、いずれは消えてしまう」
「……ならば、自分が問いを詰めていけば」
「ああ、いずれ返答に
「それを承知で? 誠実さが、銅貨一枚の価値もないと解っていながら?」
もちろんと頷く。
先ほどは脅かしてしまったが、こちらとしては隣国の王子に敵対するいわれはない。
友好的な態度でのぞみたいし、なにより私は彼を少し気に入っている。
常に好奇心と冷徹な判断力が渦巻いている眼差しは、本当にいつかの自分とよく似ていたからだ。
なので、誠意を持って対応している次第だ。
事実、自分から口にした。
清らかな水、と。
「
ふむ、先ほども密偵を疑っていたな。
……ゴートリーは幼子がスパイである可能性を考慮しなくてはいけない情勢にある、ということか。
無論、能力込みではあるのだろうが……あまり愉快な話ではないな。
とはいえ、事実として私は、密偵でも間諜でもないのだが。
「断言してもいい。この国の内情を探るつもりも、国勢を調査するつもりもない。
「罪滅ぼしでこれだけの魔法使いにやってこられては、たまったものじゃないな」
緊張がほぐれたように、彼は口元をほころばせた。
どうやら信じてくれたらしい。よかった。
「では、アンリ嬢。あなたを一端、仮に信用するとして……強大な魔法使いで、真なる言葉を用いるあなたに、改めて訊ねたいことがある」
大国の第三王子が。
勤めて真剣な調子で、告げた。
「先ほどの
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