第4話

おうちゃんが引っ越す日。

階段の下からお母さんの声がする。


都瑚みやこ、お見送り行かないのー!?」


「行かなーい!」


ベットの上でミノムシになった状態で、

ありったけの声を張り上げる。


「お父さんとお母さん、

 桜ちゃん見送り行ってくるからねー?」


「わかったから!!もー!

 いってらっしゃ、イーーーーー!!」


こうなったら、

意地でも行ってあげない。

私をずっと、妹扱いしてきた罰だ。


部屋の片隅に飾られた、ミヤコワスレ。

紫の可愛らしい少し小さなお花。

別れ。短い恋。



……今の私に、ぴったりじゃん。



その時、玄関から大きな音。

ドタドタと足音がして、部屋の扉が勢いよく開け放たれる。

ベットにふさぎ込んでいた私の体が、大きく跳ねた。


「はあ、はあ…。ミャコ!!」


髪の毛がボサボサのまま、何が起こったのかとビックリして

顔を上げると、息を切らした桜ちゃんがいた。

そして、目が合った瞬間、桜ちゃんは私を抱きしめた。


「なっ!?ど、どどどどどどどどうしたの!?」


「…なんで俺の見送り、来てくれないんだよ。」


「……は?」


顔を真っ赤にしていた自分が恥ずかしくなるくらい、興ざめした。


なんだこいつ。

私が見送りに行かなかったことにふて腐れてんのか。


「いっつも俺のあと、ちょこまかついて来て

 手をつないでやると、すごく喜んで

 桜ちゃん大好き、ってあれほど言ってきたのに、

 今更、俺のこと嫌いになった?」


「……は??」


温かくて優しい手。

けれど、昔より大きくゴツゴツした男性の手。

昔と一緒で、昔と違う、大好きな手。


その手が私の体を、さらにギュッと引き寄せる。


「なんでずっと怒ってんだよ。

 俺の後、もう、ついて来てくれねえの?

 俺の片想いだった?」


耳元で、寂しそうに低く唸る桜ちゃんの声で、

顔が一気にユデダコのように赤くなる。


「……はあ!?」



俺の、片想い、って、?

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