第4章 未来を変えるため──“今”動き出す
朝の光が静かに降り注ぐ部屋で
俺のまぶたは
ゆるやかに一日の始まりを受け入れた。
昨日の騒動が夢だったかのような
妙に穏やかな朝だった。
キッチンからは味噌のいい香りが漂う。
母親からピリピリした空気も感じない。
代わりに──
ゆうひが小さな鼻歌を歌いながら
学校の支度をしていた。
(あいつ……
昨日より、ちょっとだけ明るいな)
母の態度は、どこかよそよそしい。
けれど
”怒声も物音もない朝”は
それだけで平和に思えた。
この日が
ゆうひにとって
穏やかな一日になるかもしれない──
そんな希望に
少しだけ胸を撫で下ろしていた。
学校では
懐かしい風景と声に囲まれながらも
俺の中には“現代”の記憶が濃く残っていた。
「教科書出してー、13ページな」
「はい、先生」
ノートを開きながら、俺は授業そっちのけで
“未来の知識”を書き記していった。
『2012年 携帯からスマホが主流に』
『令和時代 キャッシュレス化加速』
『総理大臣:橋本 → 石破(2025年現在)』
(これをどう活かすか……
まだ分からない。
でも、何かの役に立つはずだ)
放課後、帰宅した俺を迎えたのは……
またしても、ピリついた空気だった。
母は、掃除機のコードを乱暴に引き抜き
無言のままリビングを片付けている。
物に当たるたび、小さな音が響いていた。
(……今日はまだ怒りの矛先が
俺らに向いていないのかもしれない)
それを察したのか
ゆうひが
「こっちでおやつ食べよ」と
そっと俺の腕を引いた。
二人でこたつに入りながら
ふかしたさつまいもをつつく。
「……なあ、ゆうひ。もしだよ?
もしさ、未来に行けたら、何がしたい?」
「んー、そしたら……
自分の描いたマンガ、本にしたいな」
「マンガ?」
「うん。本屋さんに面白いマンガが
たくさん並んであるじゃん?
そこにオレの本が並んでて
みんなに読んでもらえたら
なんかすっげぇ嬉しいと思うんだ」
そう言って笑うゆうひの横顔を見て、俺は思った。
(未来のおまえが
どれだけ壊れてしまっても……
この笑顔だけはなくしちゃいけない)
休みの日──
俺は両親を近くのファミレスに呼び出した。
ゆうひは祖父母の家に預け、全てを話す覚悟を決めていた。
「……話って何?」
母の声は明らかに不機嫌そうだった。
「……聞いてほしいことがあるんだ。
おかしいって思うかもしれないけど……
全部真実だし、”本気”だから」
深呼吸して、俺は語り出した。
「俺は──
”未来”から来たんだ」
「例えば……今の元号は”平成”だよね?
でも俺の時代の元号は”令和”になってて
携帯電話もスマートフォンに進化して
ボタンもなくなって
画面タッチひとつで
操作できるようになってる。
昭和から平成では必須だった現金なんか
令和ではほとんど必要なくて
スマホ1つで買い物をする
いわゆるキャッシュレスっていうのが
当たり前の時代。
総理大臣も橋本さんから何代も変わって
今は石破って人になってる。
まだ車は空を飛んでいないけど
26年後は今よりもはるかに
進んでいるんだよ」
母は眉をひそめた。
「あんたさっきから何言ってんの……?
頭でも打った?」
「違う。俺は本当に未来から来たんだ……!
別に…
信じなくてもいい。
でも、俺は……
俺は、ゆうひを守るって決めたんだ
だからこうして過去に…」
母親の手が震える。
「ふざけるのもたいがいにしなさいっ!
ゆうひを守る?
頭おかしいんじゃない?」
母の手がテーブルを叩いた瞬間、
コップの水が震えるように弾け
空気さえ凍りついた。
「だけどゆうひは…ゆうひはな…!」
ゆうひの“未来の姿”に触れかけた
その刹那——
『……それ、
いったいどこで聞いたんだ...?』
俺の言葉を遮り
父が顔色を変えて尋ねてきた。
「……え?」
『今言ったこと、全部。
テレビやインターネットじゃ分からないことまで……
どうしてお前がそんなことを知ってる?』
父の瞳に浮かんだ一瞬の迷い。
それが、俺にとって唯一の救いだった。
(信じてもらうためじゃない。俺は、覚悟を伝えにきた)
「信じてくれなくてもいい。
でも、俺はもう……守るって決めたんだ」
夕暮れが街の輪郭をぼかし始めたころ
階段に座る俺のそばへ
“あの白猫”が
まるで風に乗るように姿を現した。
「……よう、プリン」
猫は黙って、俺の足元に座り込んだ。
『ひとつだけ忠告しとくよ。
"未来"は
アンタひとりの意思じゃ変えられない』
「……わかってる」
『けど──
誰かひとりの勇気からしか
未来は始まらない』
プリンは、ふっと尻尾を揺らす。
『あの子……レンだっけ?
ママに怒られながらも、笑ってたよ。
……アンタと、あの子。
笑顔がそっくりでね。
血は争えないとはよく言ったもんだね』
「……っ」
何も言えず
俺はただ、猫の言葉を噛み締めた。
もちろんゆうひのことは必ず救う。
けど——
だからと言って
レンのいない世界は考えられない。
いったい…
いったいどうすれば…
『迷ってもいいさ。でも忘れないことだね。
“今”を変えなきゃ、“未来”は動かないんだ』
気づけばプリンの姿は
また風のように消えていった。
世界が眠りについた夜更け時——
布団の中、俺だけが目を覚ましていた。
手元に開いた“未来ノート”
そのページの文字が
胸の奥で静かに波紋を広げていた。
『未来を変えるには、何から始める?』
『救うには、何を捨てる?』
答えは、まだ出ない。
でも
立ち止まるわけにはいかない。
「覚悟なんてまだできてないよ……
だけど
俺は前に進むしかないんだ
ただ前に…」
——もし、この手に誰かの未来が
託されているのなら。
たとえそれが
“選ばされた時間”
であっても
俺は
”自分の意志”で——
選び抜いてみせる。
第4章 了
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第4章をご覧いただき
誠にありがとうございます!
拙い文章で読みづらい点も
多々あるかと思いますが
応援ボタンや感想、
ここはこうした方がもっと良くなるよ!
といったアドバイスも
どしどしお待ちしております!
また次章も読んでいただけると
涙が枯れるほど嬉しいです!
よろしくお願いします!
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