中編
「おらぁっ! サガゾンビ、捕まえたぞ!」
「くっそーっ! まさか、戦闘シーンすらカットされて捕まるなんて!」
弥生時代についた俺は、あっという間にサガゾンビを捕まえた。
俺はこれでもタイムパトロールのエリート隊員。これくらい、ちょちょいのちょいなのだ。
ふん縛られたサガゾンビは、最初こそ暴れていたものの、もうすっかり大人しくなっていた。
「しかし、サガゾンビよ。昔の人を騙して支配してると聞いたから、どんな酷いことをしてるのかと思えば、意外と良い統治をしていたんだな」
そんなことを言いながら、サガゾンビの治めていた集落を見る。
この時代にしては、立派な住居に、しっかりとした田んぼと、なかなかに見事なものだ。
サガゾンビを捕まえる前、ここの人たちに評判を聞いた時も、サガゾンビ様のおかげで豊かな暮らしができていますと、みんな感謝の言葉を口にしていた。
時間犯罪者なんだからもっと凶悪なやつかと思っていたが、なんだか拍子抜けだ。
「当たり前だ。ここの者たちは俺の目的のために利用していたんだから、せめてそれなりにいい思いはさせてやるさ」
「目的? それって、この時代の王様になりたいとかか?」
そういえば、事前に渡された資料では、こいつがなぜこんなことをしたか、その動機は明らかになっていなかった。
するとサガゾンビは、少しの間黙り込んだ後、ポツリと言った。
「…………佐賀を、救いたかったんだ」
「なに?」
佐賀と聞いて、反応せずにはいられない。
「お前だって知ってるだろ。俺たちのいた22世紀では、佐賀はもうなくなる寸前だ。どんな手を使ってでも、そうならないようにしたかったんだ!」
苦痛に満ちた表情で叫ぶサガゾンビ。その姿は、自らの欲のために人を支配するようなやつには、とても見えなかった。
だが、この時代の人たちを支配しておいて佐賀を救うとは、いったいどういうことなんだ?
「まさか、このまま日本全てを支配して、佐賀を首都にでもしようとでも企んでいたのか?」
「バカを言うな。そんなことしたら、歴史が大きく変わりすぎて、佐賀県そのものがなくなるかもしれないだろ」
やっぱりそうなるよな。佐賀県を救うと言いながら佐賀県が無くなってしまったら本末転倒だ。
するとサガゾンビは、傍らからあるものを取り出した。
それは、手の平サイズの四角いブロックに、蛇の形のつまみがくっついているもので、全部が金色に輝いていた。
そしてそれは、タイムパトロールなら、いや日本の歴史を知っているやつなら、きっと見覚えのあるものだった。
「これは、金印?」
かつて、古代中国で作られた黄金の印鑑。日本史では、中国の漢の皇帝が日本の委奴国王に送ったものが有名だ。
それがちょうど、このくらいの時代だったはずだ。
「これは、本物の金印か?」
「いや、22世紀の技術で作ったレプリカだ。だが、これが佐賀を救う鍵となる」
「どういうことだ?」
ますますわけがわからなくなり尋ねる。
するとサガゾンビは、声を高らかに語り始めた。
「お前も知っているだろう。かつて、魏の皇帝が、邪馬台国の女王卑弥呼に送ったことを。だがその金印は発見されず、それどころか邪馬台国の位置は、日本史最大のミステリーと言われていた。だが、もしも佐賀県で、なかなか大きな規模の遺跡と、それっぽい金印が発見されたら、どうなると思う?」
「まさか……」
「俺は、この時代にこの金印を残し、次に21世紀くらいにいって、いい感じに発見するつもりだった。するとどうだ。邪馬台国は佐賀にあったんだ。佐賀スゲーと人々は囃し立て、佐賀は一気にメジャー県の仲間入りを」
「なん、だと……」
なんという計画だろう。
日本史最大のミステリーであった、邪馬台国の場所。それが佐賀となれば、サガゾンビの言う通り、佐賀への注目度は爆上がりだ。
元々、邪馬台国の場所は近畿か九州北部のどこかという説が主流だったから、佐賀で金印が発見されても何も不自然じゃない。
発見するのが21世紀というのも絶妙だ。
そもそも佐賀は、昔からマイナー県だったわけじゃない。
都道府県ができる少し前の幕末の時代、後の佐賀県となる肥前鍋島藩は、日本屈指の科学力を持っていた。
当時の藩主鍋島直正の指導の下、藩財政の改革と軍備強化にめちゃめちゃ力を入れた結果、当時最先端の技術とそれを扱う人材がめっちゃいて、他の藩からもあいつらヤベーぞと大注目されていたのだ。
しかしそんな肥前鍋島藩も、明治維新の後に佐賀県となり、時代が進むにつれ次第に注目されなくなっていった。
そして21世紀前半に行われていた都道府県魅力度ランキングでは、毎回最下位争いをするようになっていたのだ。
だがそこで、実は邪馬台国は佐賀にあったとなればどうなるか。
これまでの不遇が一気に逆転くるすらい、佐賀は大ブレイク。これまでマイナーだと言ってバカにしていたやつらも、見事にザマァできるに違いない。
「どうだ。俺の計画の素晴らしさがわかったか?」
俺の反応を見たサガゾンビが、ニヤリと笑う。
「俺のことは逮捕しても構わん。だが、この計画だけは実行させてくれないか。21世紀に佐賀がメジャーになれば、きっと22世紀でももっと発展しているに違いない。佐賀の消滅を、阻止できるんだ」
佐賀の消滅を阻止。
佐賀県民として、佐賀をこよなく愛する者として、その言葉はとても魅力的に思えた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます