第2話 平和な世界

私がやってきた世界は、見た感じは普通のファンタジー世界のようだ


賑やかな城下町。道の端には屋台が並び、装飾品や肉串などの商品が並んでおり、それに人々が集まる


あちらでは、子供が遊んでいて、あっでは兵士が老人のことを助けている…


「良い町だね」


町の様子を見ながら、ウチ、ラルフェルは、率直な意見として、そんなことを呟いた


しかし、そんな1旅人の呟きなんて、活気のある城下町では、他の音によってかきけされ、誰の耳にも届くことはなかった


今向かっているのは「冒険者協会」という、説明不要な例の場所。ファンタジー世界なら、あそこにいかなければ何も始まらないだろう?


白色レンガで作られている巨大な建物


ここは、屈強な冒険者が集まり、民のため、金のため、もしくは自身の自己肯定感を高めるために、依頼をこなす、ファンタジー世界の王道…冒険者協会だ


ウチは「いびられるかな? いびられないかなぁ~♪」などと心の中で思いながら、協会の中へと入いる


中は、まあ、よく見る冒険者協会をそのまま持ってきたみたいな内装だった


色々なファンタジー世界を攻略してきたが、まじで冒険者協会や冒険者ギルドの内装は似かよっている


冒険者協会の内装に著作権を付けたら、きっと大変なことになるだろう


受付に向かい、冒険者登録をする


受付では可愛い受付嬢ついてくれた。少しおどおどしており、見るからに新人なのだと分かったので、優しく接することにした


ウチは、慣れた手付きで書類を埋めていく。どんな世界でも冒険者になるのは簡単で、大抵名前さえ書けば登録が完了する


しかし、戦闘力を計ってランクを決める世界も存在していて、その場合は計測の時に力を抑えなければならず、めんどくさい


この世界はそうではないので、気楽でいい


「登録する名前は『ラルフェル・メイデン』でよろしいでしょうか?」


「うん、よろしく頼むね」


そう言うと、受付嬢ちゃんは書類を元に、冒険者カードに色々と記入を始めた


ちなみに、メイデンの部分は偽名である。性がないのは不自然と思い、よく使う偽名ランキング第2位の『メイデン』を持ってきた


メイデンは『少女』などの幼い女性を意味する言葉だ


ウチには年齢という概念は無いが、見た目だけなら少女…なんなら幼女と言われても仕方がない容姿をしているし、合っているだろう


あと、よく使う偽名ランキング第1位は『優紀 エル』で、日本が舞台の世界では、大抵この名前だ


「よし…こちらが、ラルフェルさんの冒険者カードとなります。お写真は自分で撮影して、貼ってもらう形になりますね」


受付嬢さんから渡されたカードを眺める


ラルフェル・メイデン ランクF


説明されなくてもまあ分かる。依頼をこなしていけば、ランクが上がり、より高いランクの依頼を受けられる、いつものパターンだろう


「なにか説明は必要でしょうか?」


「いや、大丈夫。それじゃあ、さっそく依頼を受けたいんだけど?」


「はい! では、あちらの掲示板から、Fランクでもオッケーな依頼書を持ってきてください」


やっぱり、このシステムは万国共通なのだろうか


「わかった。それじゃあ、見てくるね」


そう言って、依頼書が張られている掲示板の元に向かった。といっても、依頼の内容はおおよそ分かる


張り出されているFランクの依頼は『薬草採取』や『店の雑用』などの、まあ…バイトみたいなものばかりだった


「まっ、そうだよね~」


これも、いろんなファンタジー世界で見てきたので、予想できていた


『薬草採取』の依頼書を取り、さっきの受付嬢ちゃんの元へと向かう


「やっほー、持ってきたよ~」


受付台に『薬草採取』の依頼書を置く


「あっ、えっと、わかりました!」


受付嬢ちゃんは依頼書を確認し、その内容を読み上げて確認をしてくれた


「依頼内容は…『初級薬草を10束採取』ですね。初依頼、頑張ってください!」


「うん。頑張るね!」


受付嬢ちゃんにウィンクをプレゼントしてから、冒険者協会を後にした


そして、勢いよく冒険者協会を後にして、しばらく経って、薬草が採れる森にはどう行けばいいのか分からないことに気がついた


要するに、迷子になった


◇◇◇◇


ラルフェルさんが協会の外に出ると、私は受付嬢のバックヤードへと下がり、大きく息を吐いた


「よかったぁ~、怖い人じゃなくて」


私は、今日受付嬢としてデビューをした新人。そして、ラルフェルさんは初めての仕事相手だった


冒険者は屈強な男の人をイメージしていて、前日まで緊張で嫌な想像ばっかりしてしまっていた


しかし、ラルフェルさんは、明るくて私のペースに合わせて会話をしてくれる、優しい女性だった


しかも、今日冒険者は登録をしたのにも関わらず、やけに慣れた手つきで依頼を見つけて、質問とかもしてこなかった


おかげで、私もミスなく初業務をこなせた


「ふふっ♪」


不安は無くなり、心には安心感と共に自分自身への称賛で溢れていた。私凄い、私頑張った、と心の中でリピートされる


そんな自画自賛に浸っていると、他の受付嬢さんから「ちょっと手伝って」と指示がきたので、私は自信に満ちた心で残りの業務に取りかかった…


数時間後、あんなことになるとも知らずに…

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