東京首都国際空港 ~国家の地上げ屋の回顧録~

@pasrunrun

プロローグ

空港への道

◆電撃の呼び声

  2024(令和6)年9月、まだ残暑が厳しい日であった。私はある男に呼ばれ、巨大空港である東京首都国際空港(通称:首都空港)に向かっていた。その男は電話で『君は、まだ半分しか見ていないよ。こっちにくれば全て教えてやる』と言った。その言葉に私は全身に電撃が走った。そして居ても立っても居られなくなった。早く会いたい、その一念が私に取り憑かせた。

 空港に向かうため京葉電鉄の空港アクセス特急「京葉ブルーエクスプレス」に乗る。乗車した特急が時速160kmから200kmに加速し、車窓は速さで歪んだ風景を映す。

 この特急は私鉄唯一の最高速度時速200km運転を、直流1,500Vで実現したもので昨年導入された。最高速度が時速200kmになったことで、皇居前の新東京駅地下から空港まで最短34分で結ばれる。

 空港アクセス鉄道で競合関係にある常磐新幹線よりも都心から早く到着することが出来るようになった。(常磐新幹線の東京駅―空港駅間は用地買収の都合で遠回りのルートになった。そのため、どうしても遅くなる)


 歪み強くなった車窓はロボット農場・市街地を交互に繰り返す。

 ロボットコンバインは秋の実りを粛々と刈っていた。農場には風力発電の風車が点在している。風車はロボットコンバインを充電させるためのものである。

 しかし、その程度の発電でロボットたちの電力を全て賄えることなどできない。結局、原発の夜間電力がその殆どを賄っていた。言ってみれば、この風車は実験的なものであり、同時に農場のイメージ向上の書き割りであった。

 そんな農場を運営していたのは、空港会社の子会社「北総農産株式会社」を始めとする大手農業法人だった。


 市街地は空港開港を機に発展した空港城下町だ。かつて成田山妙法寺の門前町だった参道はホテルや免税店に変わり、護摩祈祷の声はショッピングモールの喧騒に消える。空港関係者の中層住宅や倉庫が立ち並び、伝統は遠い過去に押しやられていた。


 空港に近づくと空港のランドマークとなっている管制塔が見えて来た。そして、2機のジェット機が同時離陸をしながら、更に同時に2機のジェット機が着陸しようとしていた。

 滑走路が6本あり、それぞれの間隔が十分に広く取られているから出来る芸当である。


◆大屋根

 列車は北ウイング駅と南ウイング駅の順で停車した。最も古い第一旅客ターミナルは北ウイングと南ウイングと分かれている。南北ともに5棟のサテライト棟が中央棟を囲む。

 筆者は南ウイング駅で列車から降りるとジェットエンジンの轟音が地を震わせた。そして列車は直ぐに発車して終着駅の第三旅客ターミナル駅へ向かった。


 駅のコンコースには搭乗客たちの喧騒が響き合いながら、どこか遠くに静寂が漂う。 残暑の蒸し暑いねっとりした風が頬に纏わりつき、搭乗客たちの足音が不規則に床を叩く。

 見上げると立体トラス構造の天井が広がる。天井には等間隔に天窓が設けられ、そこから空港駅のコンコースに外光が差す。外光は床に突き刺し鋼管の影を映しつつも、同時に光は鋼管・屋根・壁に乱反射しコンコース全体をぼんやりと包んだ。


 三角形に組まれた白い鋼管が広大に広がる様は50年前のレトロフューチャーを思い起こさせる。1970年大阪万博の大屋根の再現。 50年の月日にも関わらず鋼管はそれほどの腐食は進んでおらず、管理が行き届いていることを伺わせた。

 それらの様子が無機質に感じさせる。大屋根が皮肉にも繁栄の裏に潜む虚無を巨大な箱に閉じ込める蓋のよう感じられる。

 

 第一旅客ターミナルとその駅を設計したのは建築家白鳥章夫である。メタボリズム設計を継ぐ異形の姿で、明日は今日より幸せになれると信じた時代の遺跡でる。


 巨大デジタルサイネージの通路が大阪万博2025のPRを映す。賛否両論のその異様なマスコットキャラクターが愛嬌を振りまくが、歩く人々は興味なく、立ち止まることはなかった。ある者は黙々と速足で歩き、ある者は同行者と雑談をしながら闊歩していた。

 

◆闇の地上げ屋

 日本は過去に「失われた10年」を経ながらも、2024(令和6)年にはGDP884兆円に達した。2019(令和元)年には、品川―新大阪間のリニア中央新幹線が全線開業する。

 それこそ、イザナギとイザナミの国生みから連綿と続く歴史で、最も繁栄していると言って良かった。今現在、少子高齢化などの社会問題はあるが経済成長がそれを緩和(有り体にいえば誤魔化す)していた。

 当然、光が強ければ影も強くあり、日本もその例外に漏れなかった。ここに至るまで公害問題や様々な問題に直面したりした。

 また政財界においても薄汚い裏工作や駆け引きが行われ続けた。国家プロジェクトは、そういう裏工作の産物である。


 私は以前より、ジャーナリストとして、そうした日本の裏面史を長年取材し上梓し続けた。その中で、その男と接触するようになる。男の名は石山正明。私を空港内のホテルに呼び出した男だった。

 石山は過去の取材の中で接触してきた男であった。以前に上梓した「参議院の帝王 砂岡脩造」「リニアに取り憑かれた男 東郷重成」の取材した際、石山はそれぞれの国家プロジェクトに深く関与していたからである。


 石山は砂岡の爪牙であった。東京首都国際空港を始めとして、数々の国家プロジェクトの裏工作に携わり続けた。東郷とは砂岡を通じての縁で、原発新幹線建設やリニア中央新幹線建設に協力したりもした。日本の闇を知ろうとすれば、この男との接触は避けられないものである。まさしくフィクサーである

 そんな男がこれまで話していなかったことについて話すと申し出た。ただし、条件として公表は自分が死んでからとした。


 石山は東京首都国際空港の用地買収に統括責任者として深く関わり、その辣腕を振るった「国家の地上げ屋」というべき男であった。東京首都国際空港は石山のフィクサーとしての原点である。

 開港後もその関連会社や様々な国家プロジェクトで黒子として暗躍し続けた。そんな石山も、現在では引退をして余生を過ごしていた。

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