友達以上恋人未満の条件

ろくろわ

それでは窓口へお越し下さい

 恋愛は自由だ。

 それは間違いではない。誰がしてもいいし、勝手に片想いをして、勝手に好きになって、勝手に両想いになればいい。

 それじゃあ、その関係性を示す証明はどうすれば良いのだろうか。

 仲が良ければいいのか。お互いの気持ちが通じればいいのか。肉体関係があればいいのか。

 カレとは。カノジョとは。友達なのか?それとも恋人なのか?

 そんな曖昧な関係性をはっきりさせる機関がこの国にはあった。


『夫婦円満家庭庁』


 元々は結婚率の低下や、結婚した後の急激な離婚率の増加を食い止める為に設立された機関であった。その活動の中で「離婚に至るのは、お互いの事を知らずに結婚し、共同生活において、その不一致によるすれ違いが原因だ」と結論付けられ、その対策として「付き合い、恋人になるためには試験を受け登録する事で、晴れて恋人と認められる」としたのだ。

 そのため、この国で恋人同士であることを名乗るには関連施設の窓口に行き、二人で試験を受けなければならなかった。

 試験といっても、とても簡単なものだった。例えば「初デートの場所はどこ?」とか「お互いの好物は何?」とか「お互いの嫌なところは?」とか。お互いの趣味趣向やエピソード、要はお互いのことをどこまで知っているかを筆記し、最後は質問官の問いに二人で答えるだけのものだ。


 果たして、この取り組みはどうなったのか。

 実は面白い結果が出た。なんと機関の予測した通り離婚率が大幅な減少を見せたのだ。

 しかし良い事ばかりでも無かった。結婚する数そのものも大きく減少したのだ。いわば、離婚率の低下は、そもそも結婚の総数そのものが減少したからに他ならなかった。

 では、何故そもそも結婚数も減ったのか。それは恋人認定制度にあった。お互いのことを知ると言う事は、一概に良い事ばかりでは無い。試験会場ではこの試験が原因で、恋人になる前に別れる組も多かった。

「なんで初デートのプレゼントを覚えていないの?」

「俺は部屋を勝手に掃除される嫌なんだ」

「どうしてそんなこと言うの?」

 などなど。試験会場は徐々に険悪な空気になることが多かった。


 結局、恋愛は自由だ。誰がしてもいいし、勝手に片想いをして、勝手に好きになって、勝手に両想いになればいい。そしてお互いの事を知り過ぎなくてもいい。寧ろ知らないからこそ、うまくいく事もある。

 だからこの国に恋人の認定を取ろうとする人はごく僅かだ。


 友達以上恋人未満。


 皆、その関係を望んでいる。



 了

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