第8話 ヤンデレに挟まれて

 袖雪は剣影の腕を離さず、剣影は袖雪の顔を見て抵抗する気を無くし、どうしようか頭を悩ませた。


 皐月「ご、御免! 邪魔だったよね! 直ぐ行くから!」


 剣影「あっ! おい!」


皐月は袋を抱えたまま走りだし、剣影は呼び止めようとしたが、それすらも袖雪に阻まれた様な気がし、途中で声を出すのを止めた。


 剣影「ど、どうしたんだよ?」


剣影はそう聞いたが、袖雪の暗い表情に強くは聞けなかった。


 袖雪「すまない…………剣影が他の女性と話しているのを見ると凄く心が苦しくなって………………」


 剣影「まあ…………次からはやるなよな。」


 袖雪「剣影………本当に私と付き合ってくれないのか? 何だってするぞ?」


 剣影「………袖雪は俺よりいい人と付き合えるよ。」


 袖雪「なっ!?」


袖雪の表情が一変し、顔を真っ赤にしながら剣影を睨みつけ、剣影の首元を掴んだ。


 袖雪「俺よりいい人とはどういう事だ!? 私の事を優れた人間だと思ってくれているなら! その優れた私がお前を愛したのは間違いだと言うのか!」


 剣影「わ、悪い………そんなつもりで言ったんじゃ…………」


 袖雪「愛してるんだ剣影を! 私だけの物の欲しいと思ってる! だから、私以外の人と喋って欲しくないんだ! 私がこう思っているのは、そんなにおかしい事か!?」


 剣影「それは………………」


ぐっ


 剣影はもう片方の腕も引っ張られる感覚がし、横を振り向いた。


 蛍「駄目だよお姉ちゃん…………部長はうちのなんだから。」


 剣影「蛍!?」


剣影の腕に蛍は自分の腕を絡みつけており、薄ら笑いを浮かべながら袖雪を睨んでいた。


 袖雪「蛍………今日は学校に行かないんじゃなかったのか?」


 蛍「嫌な予感がして来てみれば…………駄目だよお姉ちゃん、部長の彼女はうちなんだから。」


 袖雪「付き合っている訳じゃないんだろ?」


 蛍「部長とうちはキスもしたの。」


 袖雪「私もしたぞ。」


 蛍「はぁ!? 何時!?」


 袖雪「昨日。」


 蛍「私が部長の家から出た後!? 最低!」


 剣影「あのさ、ちょっと二人とも離れてくれないか?」


 袖雪「駄目だ。」


 蛍「駄目です!」


 剣影「えぇ………………」


剣影は左右からがっちり腕を取られ、まともに身動きができず、袖雪と蛍はそれぞれ逆の方向に引っ張るので、剣影は千切れるんじゃないかとちょっと恐怖した。


 剣影「落ち着け、頼むから。」


 袖雪「剣影は蛍と付き合うから私と付き合えないのか?」


 蛍「本当ですか部長!?」


 剣影「おれはそもそも彼女とかは………………」


 袖雪「じゃあ結婚しよう!」


 剣影「何でそうなるんだよ!」


 蛍「部長! うちの方が部長を愛してます! うちと付き合って下さい!」


 袖雪「いや! わ、私の愛しているぞ剣影!」


 剣影「一旦離れろ! 話しはそれからだ!」


 袖雪「嫌だ!」


 蛍「嫌です!」


 剣影「無理に付き合おうとするなんてよくないだろ! 俺に迷惑をかけるんじゃあない!」


 蛍「迷惑ってなんですか! こんなにかわいい女の子と腕を絡めているというのに何が迷惑なんですか!」


 袖雪「ほら剣影! 男性は胸が好きだろ? 好きなだけ触っていいから迷惑なんて言うな!」


蛍と袖雪はそう言って剣影に胸を押し当て、若干不利な蛍は背伸びをして剣影にキスをしようとしたが、袖雪が剣影を自分の方に引っ張って阻止した。


 剣影「わ、分かったから! 分かったから一旦落ち着け!」


 袖雪「何が分かったんだ?」


 剣影「俺に勝ったら付き合ってやる。」


 袖雪「本当か!? 絶対だぞ!」


 剣影「ああ、約束する。何なら結婚だってしてやる。」


 蛍「うちが部長に勝てる訳ないじゃないですか! 酷いですよ!」


 袖雪「蛍、蛍は私に勝つ事ができたら剣影は譲ろう。」


 蛍「本当!? お姉ちゃんにならワンチャンあるかも………」


 剣影「じゃあそういう事で。」


剣影はそう言って腕を振りほどき、早歩きで学校まで向かった。


 袖雪「待て剣影!」


 蛍「待ってください部長!」


 と、いう訳で剣影は学校に到着した。その日一日の学校生活は剣影にとって今までで最悪であり、クラスに入るなりクラスのほぼ全員から袖雪との関係を聞かれ、クラスの全員に袖雪と恋人同士であると思われており、袖雪はそれを楽しむように授業中だろうが休み時間であろうが剣影にちょっかいをかけ、先生に注意される事もあった。そして昼休みの時間………………


 剣影「終わりだよマジで………………」


剣影はそう呟きながら鞄を机の上に置き、弁当を取り出して鞄を横に掛けた。


ガンッ


袖雪がそのまま机を剣影の机とつなげ、微笑んできた。もう諦めている剣影は袖雪を無視し、弁当を開いた。


 剣影「なん………………だと………………」


弁当の中にはから揚げやご飯、ニンジンや卵焼き、ほうれん草などが入っていたが、ニンジンはハート型になっていて、ご飯の上にはのりで好きと書かれていた。


 袖雪「どうだ? 気に入ってくれたか?」


 剣影「まあ………………」


剣影はさっさと食べ始め、味はいい事もあり直ぐに食べ終えた。


 袖雪「はい、あ~ん。」


袖雪は箸で自分のお弁当の中にあった卵焼きを一つ掴み、剣影に差し出し、剣影は一瞬躊躇ったが、どうせ袖雪が折れる事はないだろうと横を向いて落とさない様に手を構えながら食べた。


 袖雪「美味しいか?」


 剣影「ああ、お前は天才だ。」


 袖雪「そ、そこまで言わなくても………………」


教室の中心で堂々といちゃつく袖雪と剣影に、クラスの人達は苛立ちを感じながらも羨ましいといった目線を向けていた。


 剣影「これが後2年か、終わりだな。」


 袖雪「卒業したら結婚しような。」


  剣影「俺に勝てたらな………………」


 剣影は午後の授業を無心で受け、かつてない程悟りに近づき、ホームルームが終るとさっさと部室に向かった。


 剣影「寝よ。」


剣影は部室に入り、何時もの場所で寝ようと防具をどかして防具入れの奥に入って行くと………………


 蛍「部長、掃除しときましたよ。」


蛍が何時も剣影が寝ている場所で寝ており、掃除したなんて言って置きながら蛍の横にはこぼれたポテチのくずと漫画。剣影は呆れた表情を見せながら蛍を引っ張りだそうとした。


 剣影「出ろ。」


 蛍「嫌です! 今日はしっかり練習するんですから!」


 剣影「………………」


剣影は今日一日をここで過ごす至福の時間の為に耐えていたのであり、ここを塞がれるという事は今日の努力を無駄にされると同義なので、剣影は強行突破する事にした。


ぐっ


 蛍「ぶ、部長?」


剣影は蛍が入ってるというのにそのまま入って行き、二人はぎゅうぎゅう詰めで向かい合う事になった。


 蛍「何で入ってきちゃうんですか!


 剣影「お前がこんな事するからだ。」


剣影は漫画を取ろうと腕を動かし、何度も蛍の胸に当たったが、心を無心にして漫画を取った。


 蛍「変態!」


 剣影「ふん、じゃあ出てけばいい。」


剣影は足元の方にあったはずの次女の奇妙な冒険の第二十八巻を取ろうとして腕を伸ばし、漫画を取って腕を戻そうとした時……


 蛍「んっ!!」


 剣影「………………」


何かに当たった気がした剣影だったが、忘れる事にし、震える手で漫画を読み始めた。


 蛍「………………何も言わないんですか。」


 剣影「御免。」


 蛍「………………部長は、そういう事に興味ないんですか。」


 剣影「無い。」


 蛍「手、震えてますよ。」


 剣影「………………」


剣影は震えている手を止めようと漫画を読み進めたが、ページを捲る瞬間に漫画を落としてしまった。


ムニッ


蛍は剣影に胸を当てながら剣影に覆いかぶさり、漫画をどかして剣影の顔を覗き込んだ。


 剣影「なんだよ?」


 蛍「恋人同士じゃなきゃやっちゃいけないなんて法律はありませんから。」


蛍はそう言うと制服のスカートのチャックを下げた。


 剣影「おいおいおい! ここでやるのか!? 正気か!?」

 

 蛍「家ならいいんですか?」


 剣影「そういう訳じゃないけど………………」


 蛍「興奮しません? こんな所でするなんて………………」


 剣影「無理矢理なんて駄目に決まってるだろ、それに、色々段階を踏んで………………」


 蛍「嫌なんですか? こっちの方はそんな事無さそうですけど?」


蛍はそう言いながら剣影の下半身を膝上からアレまで撫でた。


 剣影「や、やめ………………」


 蛍「段階を踏んでなんて…………キスもしたのに。次にやる事なんて決まってますよね?」


蛍は脱いだスカートを剣影の顔に放り投げ、下着のまま剣影の腰の上に乗った。


 蛍「愛してますよ部長。ずっとこの日がこないかと待ち望んでました。


 剣影「お前………そんな奴じゃなかっただろ………………」


 蛍「うちはずっとこうですよ? 言ってなかっただけです。部長が助けてくれた日からずっと………………」

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