第2話 寄りそわれている

ミキ「ねえ、あの話知ってる? のろわれてる小説の話?」

サチコ「最近、ちょっと話題の?」

ミキ「ちょっとどころじゃないから!」

サチコ「人が死んでるもんね、実際」


ミキ「やばいよね」

サチコ「ガチで呪われてるから。小説のタイトル、『りそわれている』だったよね?」

ミキ「そう、それ」

サチコ「なんでそんなタイトルしたんだろ?」


ミキ「『寄りそわれている』って小説を読むじゃん。そしたら……」

サチコ「そしたら?」

ミキ「んだよ。小説を読んだやつの横にさ……幽霊が」

サチコ「ベタだぁ。作者はどんな人?」


ミキ「女子高生。いじめられてて」

サチコ「かわいそっ。どうして、いじめられてたの?」

ミキ「かなりの根暗でさ、人付き合いも苦手で、いつもひとりでいたから――」

サチコ「だからって、いじめていい理由になんかならないよ」

ミキ「そうだけどさ、いじめられてたの。キモい、ブス、根暗って笑われてて」

サチコ「最悪だ」


ミキ「しかも、こっそり書いてた小説のこと、バラされちゃって……」

サチコ「うわ! みんなの前で、読まれたりした?」

ミキ「しちゃった。ネットの小説投稿サイトに書かれてた小説をさ」

サチコ「こっそり書いてたんだよね。きつかったろうなあ」

ミキ「短編で、すぐ読める長さだった。だから、紙にまでいんさつされて、みんなに――」

サチコ「くばられた?」

ミキ「みたい。それがトドメになって、自殺しちゃったの」

サチコ「作者が? 女子高生の」

ミキ「そう。そこから……らしい。が起こりはじめたのは」


サチコ「っていうと、例の?」

ミキ「そう、例の。まずは作者の女子高生をいじめてた連中が死んだ。全員ね」

サチコ「こう言っちゃなんだけど、当然の報いだよなあ」

ミキ「その人たちは全員が死ぬ前に見てるの、幽霊を」

サチコ「その幽霊っていうのは、作者の女子高生?」

ミキ「みたい。死んだ連中はみんな、女子高生が書いた小説を読んでいた」

サチコ「死ぬ直前まで読んでたんだっけ?」


ミキ「紙にいんされた小説を読んでいた人は、読み終わると……真横に!」

サチコ「作者がいた! でしょ? 幽霊の?」

ミキ「そう。作者は首のけいどうみゃくを切って死んだ。だから、血まみれの幽霊なの」

サチコ「首の頸動脈のところが切れてて、血まみれって……グロっ!」


ミキ「そのグロいのがさ、真横にいるんだよ。んだってさ」

サチコ「ひぃぃ! スマホとかパソコンで読んでた人もいるんだよね?」

ミキ「いるよ、そりゃ。もともとは、小説投稿サイトにけいさいされてた小説だから」

サチコ「で、どうなったの? スマホとかパソコンで読んでた人は?」


ミキ「スマホとかパソコンの画面って暗くなるじゃん。電源切ったりしたら」

サチコ「なるなる。電源切らなくても、しばらくほっといたらなるよね」

ミキ「真っ暗になった画面に、自分の顔が映ったりするでしょ、鏡みたいに」

サチコ「映る映る」

ミキ「その自分の顔の横にさ、いるんだよ。――映ってんの」

サチコ「それって……作者の幽霊がってこと?」

ミキ「そう。首の頸動脈のところが切れてて血まみれの作者に


サチコ「うわ、やばっ! それ、いじめてたやつら以外の人が読んでもアウトなの?」

ミキ「アウト。呪いの力でダメらしい。読んじゃったら、例外なくアウト!」

サチコ「えげつなッ。助かる方法ってないのかな」

ミキ「かなり最後のほうまで読んでたらアウト。例外なく、アウト!」

サチコ「最後のほうってことは……じゃあ、最初のほうで読むのをやめたらいいのか」

ミキ「たぶんね」

サチコ「どんな内容の小説か教えてよ。内容知ってたら、すぐ読むのやめられるから」


ミキ「ずっと会話してるんだって。セリフの、カギかっの前に名前があるの」

サチコ「なんて名前?」

ミキ「作者の名前がさちみょうと、下の名前でわけてて、カタカナにしてる」

サチコ「カタカナで……ミキとサチコか」


ミキ「まるで、ふたりで会話してるみたいな小説らしいよ。でも、実は作者の独り言」

サチコ「ミキって、苗字と下の名前、どっちにもあるからなあ。さっかくさせられるわけか」

ミキ「みたいだね」

サチコ「……ってかさ、それって、だよね?」


ミキ「そう、。で、


サチコ「紙で読んでも、スマホで読んでも、パソコンで読んでも――」

ミキ「アウト! ごめんね、巻きこんじゃって。でも呪いって、そんなもんだから」


サチコ「紙に印字された小説を読んじゃった人は、いま、あなたの真横に――」

ミキ「スマホとパソコンで読んじゃった人は、画面を真っ暗にしてみて」

サチコ「画面をしっかりと見てね。そうしたら、あなたの真横に……」

ミキ「三木幸子に」

サチコ「血まみれのおんりょうに」


ミキ サチコ「

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