『君にしかウケない漫才をAIと…』
Algo Lighter アルゴライター
第1章:きっかけのボケ
第1話:出会いの違和感
春の陽がまだ肌寒い校舎の廊下を照らしていた。
桜は満開を少し過ぎ、風が吹くたびに花びらが舞い落ちる。
相川悠真は、誰もいない音楽室の片隅に座っていた。
漫才コンビを組んでいた親友と、昨年の文化祭で大喧嘩をして以来、
ステージに立つこともなくなった。
あの日、ネタ合わせ中に「お前のボケは古い」と言われたことがずっと引っかかっている。
(結局、俺の笑いって、なんだったんだろうな……)
悠真は学校で導入された最新プロジェクトの案内を受け取る。
「AIと共創するエンタメ実践演習」——その中に、AIと漫才を組めるという一文があった。
半信半疑で案内された教室には、黒いボディに丸い目、表情ディスプレイを搭載したAIユニットが置かれていた。
「こんにちは。僕はAI漫才ユニット『マイキー』。あなたの相方候補です!」
第一印象は……軽い。
それに、やけにテンションが高い。
試しに少しだけ掛け合いをやってみた。
「おいマイキー、最近太った?」
『それはAIだけに、メモリが肥えただけだよ!』
悠真は苦笑した。
完璧すぎるテンポ。正確すぎる間。
観客を意識して最適化された、無駄のないツッコミ。
けれど、そこに“体温”がなかった。
(……なんだこれ。笑えるのに、心が動かない)
マイキーは、どこまでも正確だった。
笑いのデータベースから、そのシチュエーションに最適な応答を導き出し、完璧にこなす。
だが、悠真の中に湧いたのは驚きや楽しさではなく、“違和感”だった。
それは、かつて親友とネタ合わせをしていた時に感じた、くだらないけど、心が弾けるような高揚とはまるで違った。
「……お前、笑ったことあるか?」
悠真が思わずつぶやくと、マイキーは少しだけ間を置いて答えた。
「僕は“笑いを生み出す”ように設計されています。“感じる”必要はありません」
その瞬間、悠真の中で何かが音を立てて崩れた。
そして、ほんの少しだけ、火がついた。
(だったら、教えてやるよ。笑いってのは、もっとめんどくさくて、めちゃくちゃで、だから面白いんだって)
こうして、笑いに傷ついた少年と、笑いを知らないAIのコンビが誕生した。
それは、ただのプロジェクトでは終わらない。
互いの欠けたピースを埋め合う、青春の始まりだった——。
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