第8話 記憶が無いのを良い事に?(side:あかり)
まなみから電話の詳細を聞いた私は、すぐにお母さんに伝えに行った。さっきは手が離せない、と言っていたお母さんも動揺していたけど病院まで車を出してもらえる事になった。
『和樹…私たちの事も忘れちゃったのかな?』
『おじさんとおばさんの事も分からなかったみたい––––でもせめて一番長く一緒に居た、お姉ちゃんの事ぐらい覚えててくれたら…』
『そうだったらいいけど…ううん、最近一番一緒に居たのは私だけじゃなくて、まなみもなんだから!きっと二人とも覚えてるよ』
『うん…ありがとう、お姉ちゃん』
私たちは互いに励まし合ってなんとか平常心を保とうとする。病院に着いた私たちは面会の受付をし、病室へと向かう。かなりギリギリの受付時間だったみたいで、受付のお姉さんが渋い顔をしていたが知った事か––––。
病室に駆け出したい気持ちを抑え、でも自然と早足になってしまう。その想いはまなみも同じようだった。
和樹の居る病室に入ると…本人は眠ってしまっていたようで、ベッドの傍におじさんとおばさんが座っていた。
「ああ、君たち…よく来てくれたね」
『あかりちゃん、まなみちゃん…和樹のために来てくれてありがとうね…』
『いえ…その、和樹の様子はどうですか?』
『やっぱり記憶がすっぽりと抜け落ちてるみたい。和樹と付き合いの長い二人だったらもしかして…と思って、ね。直に目を覚ますと思うわ。ちょっと飲み物でも買いに行って来るから和樹を見ててもらえるかしら?』
「そうだな、少しだけ席を外させてもらおう…」
見るからに憔悴した二人の顔–––。少し休んだ方が良さそうだったし、私たちも和樹の傍に居て目を覚ますのを待ちたかった。
『分かりました、任せてください』
『ええ、よろしくね…』
二人が病室を後にし、私とまなみはベッド脇の椅子に座りながら和樹の顔を覗き込む。
『こうして見ると事故に遭ったなんて思えないわよね…』
『うん…頭を強く打ったけれど、他は打撲程度で済んだのは奇跡だって…お医者さんに言われたみたいだよ。ちょっとはお守りの効果、あったのかな』
『だと良いけど…和樹––––』
私は和樹の手をギュッと握り締める。更に私の手の上からまなみも手を被せる。
そのまま五分は過ぎただろうか。握っていた手がピクッと動いた気がする。慌てて和樹の顔を見ると––––閉じていた目が開いた。
『か、和樹⁈目を覚ましたのね?』
『和兄ぃ、良かった!…私たちの事、覚えてる?隣の家の幼馴染、相澤あかりとまなみだよ…?』
まなみが恐る恐る尋ねると、和樹は力なく首を横に振る。
「ごめんなさい…お二人の事を思い出せないです」
いつもと違い口調が敬語になっている事が、より和樹が記憶喪失だという事を実感してしまう。
『そ、そっか。でも…仕方ないよ』
『うん、身体が無事だっただけでも良かったよ。私たちと一緒に居ればその内記憶も戻るかもしれないしね?』
和樹は私とまなみの顔をじーっと見つめて来たけれど–––結局首を横に振るだけだった。
「やっぱりダメです。こんなに綺麗なお二人の事だったら覚えていても良さそうなものですけどね…」
『キレイ?』
『私たちが?』
「は、はい。お二人の事です」
和樹は面と向かって可愛いとか綺麗とか、恥ずかしいからなのか言って来ない。だから記憶が無いとは言え、こんな風に褒めて貰えるのは新鮮だし嬉しいかもしれない。
(あれ、待って?記憶が無いって事は…ちょっと試してみよう)
私は自分の欲望丸出しの悪戯を思い付いてしまった。こんな状態の和樹にやるのは不謹慎かもしれないけど、こんな機会二度と無いだろうから––––。
『ねぇ、和樹。実は私と和樹は付き合ってたのよ』
「えぇ⁈そ、そうだったんですか?」
『ちょっと、お姉ちゃん⁈』
私の発言に驚く二人。記憶が無い和樹はともかく、事実を知っているまなみにとっては青天の霹靂だったのかもしれない。
『春に和樹が私に好きだって言ってくれて、そのままエッチして…それからも沢山エッチしたのに、それも覚えてないの?』
「お、俺があかりさんと…?」
『そうだよ。和樹は私の胸が大好きだったけど、このおっぱいを好きにして良いのは和樹だけなんだから』
自分の胸を強調するように突き出すと、和樹はゴクリと喉を鳴らす。しかしその様子を黙って見ているまなみではなかった。
『ちょっと、ストップ!あのね、和兄ぃ…私も和兄ぃといっぱいエッチしたんだよ?』
「え、えぇぇぇっ⁈じゃ、じゃあ俺は…お二人と付き合ってたんですか?」
私はまなみと目を合わせると、お互いに頷き合い––––二人揃って和樹の問いに答えた。
『『うん、私たち二人と付き合ってたんだよ』』
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