第14話(IFルート②-2) 罪と罰

(side:和樹)

 ダメだと頭では分かっていながら、あかりの誘いに乗ってしまった俺は誘惑はあったにせよ、自分からあかりに手を出してしまった––––。


 言い訳の仕様も無い。まなみに全てを打ち明ける事も考えたが、まなみの離婚の意思は固いだろう…。それでも、せめてもの誠意を見せなければと思っていた所に––––。


『二人だけの、秘密だよ?』


 俺は…あかりの悪魔の囁きに屈してしまった。どうせ破滅する運命であれば、毒を食らわば皿まで––––禁断の蜜の味をおもいきり楽しもうと思ってしまった。


 あかりと一度不倫してしまってからは早かった。まなみに怪しまれないよう、週に一度時間を決めて逢瀬を楽しむ。


 限られた時間だからこそ、余計に俺たちの想いを燃え上がる。行為も激しさを増すばかりだ––––。


 しかもあかりは俺のどんな要求も受け入れてくれる。恥ずかしそうにしながらも、裸エプロンで俺を迎えてくれたり。お尻の初めてをいただいたり。口には出さないような事も色々した。


 そんなあかりにどんどんのめり込んで行ってしまい、バレなければずっとこの関係を続けられるんじゃないか?と甘い考えを持つようになっていった。


 しかしそう都合の良い事は起こる筈も無い。あかりとの爛れた関係が始まってから半年が過ぎ、産まれたばかりの和馬もどんどん大きくなって来た。


 我が子を高い高いをしたり、にらめっこなどしてあやしていたある日。まなみから突然声を掛けられた。


。今晩大事なお話があります––––』


 まなみの目は今まで向けてきた事がないような、冷ややかな視線だった。


◆◇◆◇

(side:あかり)

 まなみから今夜実家に来るように伝えられた。何かあったのか問おうとしても、有無を言わさず電話を切られてしまった。


(ああ…まなみに気付かれちゃったか。いや、勘の鋭いまなみの事だ…とっくに勘付いて証拠も揃えてあるのかも)


 その時が来たら潔く認めて、言い訳するつもりも無かった。ただただ、私が自分を抑えきれなかった…それだけだ。


 覚悟を決めたつもりだったけれど、その日仕事もなかなか手に付かずミスを繰り返してしまう。上司にも疲れてるんだろう、と早めに切り上げさせられた。


 いざ実家の門をくぐろうとするのにも緊張してしまい、自分の実家なのにな…と苦笑するしかなかった。


 指定された部屋には和樹とまなみ、両家の両親…いやお母さんだけ居ない。多分子供たちの面倒を見ているのかも?それともう一人…メガネをかけたインテリ風の男性。まなみが雇った弁護士の方かもしれない。


 私が席に着くと早速話し合いがスタートした––––。


「––––それではお二人とも、不倫関係にあった事は全面的に認めるという事でよろしいですね?」

「…はい」

『間違い、ありません』


 弁護士からの事実確認に私も和樹も正直に答える。二人とも声は少し震えていた。続けて弁護士からまなみの要求が伝えられる。


「まなみさんからの要望は三つあります。まず一つ目はお子様の養育費に関してですが、二人のお子様が成人するまでの間欠かす事なく払っていただきたいとの事です」

「それは…勿論支払います」

「ありがとうございます。慰謝料に関しては今回の発端は、まなみさんご本人の提案に起因しているからという事で請求はしない方向です」


 …いっそ、慰謝料を請求されて口汚く罵ってくれた方がどれだけ良かったか。まなみからは怒りを通り越して、拒絶の意思を感じられる––––。


「続いて二つ目ですが…和樹さん、こちらの書類にサインをお願い致します」


 和樹の目の前に緑色の用紙が差し出される。片側は既にまなみの直筆で記入されている。諦めたように和樹は力無く、ボールペンを手にして文字を書き始めた。


(分かっていたつもりでいたけど…全然分かっていなかった。一つの家庭を壊してしまうのって、こういう事なんだ)


 私は今更ながら自分のしでかした事への深い後悔に襲われる。今更何を後悔したところで状況が変わるわけでもないのに…。


「最後に三つ目の要望です。和樹さん、あかりさん…こちらの書類にサインをお願い致します」

「……え?」

『この紙って–––––』


 先ほどの離婚届と反対の意味を持つ用紙。即ち婚姻届が私たちの前に差し出された。困惑する私たちに対し、初めてまなみが口を開く。


には責任を取って結婚してください。お互い、愛し合っているのでしょう?人の気持ちを顧みない、お似合いの二人じゃありませんか?』

「…………っ!」

『ま、まなみ!待って、私は…』


 このまま婚姻届にサインをしてしまったら、まなみにはもう顔向け出来なくなる––––そう思って縋るように声を掛けようとした。


『まだ何か?これ以降は私への直接の接触はお控えください。何かありましたら必ず弁護士さんを通してご連絡をお願い致します』


 まなみは私を突き放すように無表情で言い放った。これ以上の会話は無意味だと––––。


 観念して和樹も私も婚姻届にサインをする。途中手が震えてしまうが『手が止まっていますよ』と促されながら、なんとか記入し終えた。


「はい、確かに。証人の欄はご家族様に記入していただく事になっております。離婚が成立次第、速やかにご提出ください。あと親権はまなみさんが持つ事に対して、何か異議はございますか?」

「…ありません」


 話し合いは終わり弁護士が退出した後、お父さんと和樹のご両親も退出し私たち三人だけが部屋に残った。


 まなみに話しかけようと思ってもとても話しかけられない…そんな雰囲気の中、まなみから口を開いた。


『和兄ぃもお姉ちゃんとも、もうこれっきりだね。あはは…どこで私間違えちゃったのかなぁ––––』


 ボロボロと涙を溢すまなみに、私は掛ける声を見つけられなかった。そうだ…私と和樹が壊してしまったのは家庭だけじゃない。



 私たち三人の絆も断ち切ってしまったんだ–––。




        〜完〜


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[あとがき]

 ここまでお読みいただきありがとうございます!最後なのに後味が悪過ぎる!大変申し訳ありません…まさか断念したNTRルートを形を変えて書く事になるとは思いもしませんでした。筆者にしては珍しく、この後の展開はご想像にお任せしております。


※一応補足として…ご存知の方も多いかと思いますが、24年から離婚後の再婚禁止期間は無くなっています。自分も調べてなかったら知らなかったので…


 ただ後一つだけ書いてみようか悩むエピソードがありまして、両手に◯エンド(姉妹丼エンド)後の話です。このルートだけ和樹が事故に遭っていないので、事故をなんとか回避しようとするコメディとエロ寄りの話予定です。


 一人でも読んでみたい方がいれば、時間見て書くのでコメント欄にお願い致します!


 当作品が面白いと思っていただけたら、⭐︎評価やレビュー、応援コメントをいただけたら幸いです

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