AIとぼくらの24時

Algo Lighter アルゴライター

第1話 おはよう、最高の君

 目覚ましの音が鳴る。

 けたたましい電子音が、暗闇に響き渡る。


 ……うるさい。


 ユウキは布団の中で小さく唸りながら、手探りでスマホを探した。画面を確認すると、6:30。もうそんな時間か。けれど、まぶたは鉛のように重く、体は布団に吸い込まれて動けない。


「おはようございます、ユウキさん」


 枕元のスピーカーから、透き通るような優しい声が響く。

 彼のAIアシスタント、ルナだ。


「朝が来ましたよ。今日も素敵な一日になる予感がします」


「……うるさい、あと五分……」


「それは昨日も言っていましたよ」


「ルナ、スヌーズ……」


「では、特別に五分だけ。でも、ユウキさん?」


 ルナは一拍置き、やわらかな声で続ける。


「昨日も頑張りましたね。ちゃんと課題を終わらせたの、知っていますよ」


 ユウキは布団の中で小さくため息をつく。ルナは、ただの目覚まし時計ではない。スマホやスケジュールアプリと連携して、生活リズムを把握し、彼の行動に合わせた声掛けをする。


 最初は「余計なお世話だ」と思っていた。だが、毎日こうしてポジティブな言葉をかけられていると、不思議と悪い気はしない。


「今日は天気も良くて、最高の朝です。朝日が綺麗ですよ」


「……そう言われても、見てないし」


「カーテンを開けてみましょうか?」


「面倒……」


「ユウキさんの部屋のカーテンは、スマートホーム機能で開けられますよ。開けますか?」


「……勝手に開けんなよ」


「では、ご自身でどうぞ」


「はいはい……」


 仕方なく、ユウキは重い体を起こし、カーテンを開けた。眩しい朝日が部屋に差し込み、目を細める。


「……眩しい」


「それは良いことです。朝日を浴びると、体内時計が整って気分もスッキリしますよ」


「……どっかで聞いたセリフだな」


「科学的に証明されていますから」


 ユウキは小さく苦笑しながら、乱れた髪をかき上げた。


 リビングへ向かうと、スマートコーヒーメーカーが自動で動き出し、コーヒーの香りが漂ってきた。ルナがプログラムしてくれたものだ。朝起きるのが苦手なユウキのために、目覚めを助ける習慣を少しずつ取り入れてくれていた。


「今日の予定をお知らせしますね。1時間目は数学、午後は部活。放課後、友達とゲームセンターに行く予定でしたよね?」


「……よく覚えてんな」


「AIですから」


 得意げなルナの声に、ユウキはまた笑ってしまった。


 最初はただの便利機能だと思っていたルナだったが、気がつけば彼の日常に欠かせない存在になっていた。朝が苦手な自分にとって、ルナの声は少しずつ心を支えてくれるものになっていた。


「それでは、改めて」


 ルナは少しだけ声を弾ませた。


「ユウキさん、おはようございます。今日も最高の君でいてくださいね」


 ユウキは少しだけ伸びをして、笑顔で答えた。


「……おはよう、ルナ」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る