第11話 魔導院の案内

「あー…疲れた…」

「ほんとだよねぇ…」

「はいはい、二人とも。人も混んでるし机に突っ伏してないで早くお昼ご飯食べちゃおう」


六人はその後食堂に向かい食事を摂っていた。

特に迷いなく選んだノア、メノウ、ルクヴェスは先に席を取り、食事を進めていく。エイルとノイズ、ルナはデザートを取りに並んでいるようだ。

どうやら限定のケーキがあるらしい。

時間がかかりそうだから先に食べててくださーい!とエイルに告げられ、三人は先に食事を始めた。

さっきまでの出来事やお昼時間もあり、人ごみの中の注文による疲労感が襲いかかり、カトラリーを片手に思わずルクヴェスが一言弱音を吐けば同調するようにメノウも返す。

ノアは特に疲労感を見せず、定食にあった魚を行儀よくほぐしながら食していた。



「そういえば、授業はいつから始まるんだろう?」

「明日だって。さっき教師の人が挨拶してくれたからその流れで教えてくれたよ」

「は?」

「この魔導院って広いから迷いそうだね~」


あはは、と笑いながらエビフライを口に含むメノウにルクヴェスは思わずもう一度溜息が漏れた。ノアは先に食べ終え、お盆を片付けに立ち上がると、遠くから"あー!"と大声が聞こえてきた。

すると、オレンジ髪のショートヘアの生徒がずんずんと大きな歩幅でこちらに近づいてきた。


「アンタたち、今年の新入生?」

「そう、ですけど…」

「やっと見つけた!ねぇリーチェ!フィスー!」


その元気な生徒は、遠くからゆっくり歩いている女子生徒に手を振っていた。一人は目の前の生徒と瓜二つの顔をしており、目の前の生徒とは対照に疲れたようにげんなりとしている。もう一人は微笑ましそうに後ろをついて歩いて来ていた。


「皆さんは…?」

「あ、自己紹介がまだだったわね。アタシはフェリチータ。フェリチータ・ブレッツァよ。一応アンタたちより少し先にこの魔導院に入学してるの」


フェリチータは胸に手を当て、自信満々に挨拶を交わした。丁度到着した二人に駆け寄り、フェリチータは自分と瓜二つの子に抱きつきながら説明する。


「この子は妹のフェリーチェ。双子だから見た目はそっくりだけど、アタシと性格違うし、話せば分かると思うわ。そーしーて!この子がフィスタリア。優しくて頼りになるの!なんでも相談してね」

「リータ、勝手に説明しなくていいから。まだ全員見つけた訳じゃないんだし…」

「ふふ、リタは初めての後輩だから嬉しいのよ。許してあげましょう?」

「はぁ…フィスは優しすぎるのよ」


フェリーチェが顔を逸らすと、フィスタリアはルクヴェス達を見つめ軽くお辞儀をする。


「初めまして、フィスタリア・ビワーレと言います。慣れないことだらけで不安になるかもしれないけれど、困ったら何でも聞いてくださいね」

「あー私も一応挨拶するべきか。…フェリーチェ・ブレッツァです。よろしく」


三人の先輩に囲まれ、戸惑いを見せるルクヴェスとメノウに、ノアは軽く会釈をした。


「よろしくお願いします。確か学園長が魔導院の案内を生徒に任せたと聞きましたが、もしかしてあなた達ですか?」

「そうよ!あんの鶏、勝手なこと言ってすぐどっか行っちゃったんだから!こっちは片っ端から探すしかなくて困ってたの!」

「まあまあ、無事見つけられたのだからいいでしょう?」

「でも…私たち二手に分かれて行動していたから、連絡しないとですよねぇ。あちらはずっと駆け回る探し方をしていた気がしますし…」

「あぁ、それなら多分…」


フェリーチェがなにか言おうとした時に丁度、食堂の奥で’’見つけたぁぁぁぁ!!’’と叫んでいる声がした。その声に対抗するように’’お前誰だよ!!’’とノイズの声が聞こえた。


「あんの馬鹿、何大声出してるのよ!」

「ふふ、ゼクスは相変わらず元気ですわね」

「ただの脳筋でしょ…」


まあやっとお昼食べられる〜!と注文所へ向かうフェリチータに、フェリーチェは呆れた表情を見せ、フィスタリアはあらあら、と微笑んだ。


「ひとまず一時間後、寮の前で集合って事で。魔導院を案内するから」

「また後で会いましょうね」


それじゃあ、と二人もお昼を食べに向かい、三人だけになった所でルクヴェスは何だったんだ…と呟きながら残りのランチを平らげるのだった。




お昼ご飯を食べ終えたルクヴェス達六名は、事前に話した通り寮の前で待機していた。

食事を終えたフェリチータ、フェリーチェ、フィスタリアが順にこちらへ来れば、彼女らを見るなり、エイルは目を輝かせた。


「ルーク、どこで知り合ったんですか!なんて綺麗なお姉さんたち…!」

「いや、たまたま食堂で会っただけ」

「なるほどぉ、エイルくんもお話してきまーす!」





それから数十分後、新たに三名の生徒がこちらに向かってきた。一人は手鏡を使い自身のメイクに違和感はないか確認しており、もう一人は長髪をポニーテールにし、相手を優しく見つめている。そしてもう一人は後ろから急いで走ってきていた。

それらをみるだけで情報量が多い中、見守っていた女性が口を開いた。


「すまない、遅くなったか」

「あ、みんなやっと来たね!そこまで待ってないから大丈夫よ~」

「ごめんなさいね!ちょっと化粧直しに時間が掛かっちゃったのよ~」

「悪い!今日の飯が美味すぎてお変わり頼んじまった!」

「……、グランたちは何となく分かるけど、ゼクス!アンタねぇ!今日くらい我慢しなさいよ!」


フェリチータは怒りを表しにしながらも、ゼクスと呼ばれた男はアハハと気楽に返していた。

グランと名乗る者はいつものことと思っているようだ。気にせずルナやメノウ達に話しかける。


「はじめまして、一応ご挨拶からかしら?アタシはグランディネ・フルスタ。気軽にグランって呼んでもいいわよー?」

「シュアン・ガオクだ。そして、今リタに怒られているのがゼクス・アンディールという」


シュアンも見慣れているのか自己紹介を済ませ、新入生に試験のことを聞いていた。

一日で終わったことを告げればグランディネは驚いた表情を見せる。


「あら、今回の試験早かったの~!意外ねぇシュアン」

「そうだな、グランディネ。わたし達の時は三日かけて行っていたが…」

「まじかよ!どんな試験だったんだ?」

「そうねぇ、アタシ達の時は筆記試験もあったし、学園長の無茶ぶりで、とある鉱石を取ってこい~って言われて死に物狂いで探したわ」

「そりゃ大変そうだな…」

「この学園で生活していたら、次第に慣れてくる」


シュアンの言葉から彼らはフェリチータ達の同期なのだろう。すると、いつの間にか会話が終わっていたのかフェリーチェから手を挙げてこっち、と先導について行く。

全員でぞろぞろと移動をしながら、学園内を見て回る。まずは外回りということで校庭に連れて行かれる事になった。


「ここが校庭、すぐ横に体育館があるからね。体育の時間は基本的にここにいれば大丈夫よ」

「先生は担任がするの?」

「あー先生はね、担当がいるのよ。多分アンタたち一回会ってると思うわよ」

「へ?」


ルナの質問の答えに、新入生たちは今まで出会った教師を思い浮かべる。

すると背後から、どうした少年少女たち!と大声を上げてこちらに掛けてくる男が現れた。


「あ!試験当日に来たあの変質者!」

「え、マジかよ!」

「変質者?」


ルナの言葉にノイズとノアは男をジッと見ていると、相手は焦った様子で手を前に出しながら弁解をし始める。


「違うぞ!俺は変質者ではなく、エルピス!エルピス・ソレイユだ。この魔導院の教員をしている!ちなみに担当は体育だ」

「相変わらずうるさいわね!ってアンタもしかして今年も人の部屋に入っていったの?!」

「む、ブレッツァか!まあな!俺なりの激励だぞ!」


自信満々に告げるエルピスは笑顔で返して来るが、先輩達は呆れた溜息をつく。

その様子からして、彼らも激励を受けたのだろう…。


「…とにかく、今は校内案内しているから邪魔しないでよ?」

「それは悪かった!じゃあまた授業の時に会おう!みんな!日々鍛錬を欠かさずに、筋肉を鍛えるんだぞ!」


エルピスは元気に挨拶をした後、そのままどこかに走り去ってしまった。

印象の強い教師に皆呆気に取られるが、先輩たちは慣れているのか次行くよーと告げた。

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