魔王軍に生贄として捧げられたけどご飯作ったら感動されて出世していきました
フェニックス太郎
第一章 今日から料理長!
プロローグ 異世界からの生贄
――目を覚ますと、そこは森の中だった。
灰色の空。ねじれた木々。冷たい土と落ち葉の感触が、靴下越しに伝わってくる。
「……ここ、どこ?」
ついさっきまで、橘サクラは台所にいたはずだった。
母と並んで、夕飯の準備をしていた。
それが――なぜ、こんな場所に?
制服は泥にまみれ、ブラウスには草の汁。ポケットの中も空っぽで、スマホも財布もない。
(夢……じゃ、ないよね)
冷えた空気が肌を刺し、心臓はドクドクとうるさく鳴る。
わけも分からず立ち尽くすサクラの耳に、不気味な鳥の鳴き声と、木の奥から響く低いうなり声が届いた。
「っ……!」
反射的に身をすくめる。恐怖で膝が震え、涙がにじむ。
「……落ち着け、私……とにかく、人を探さないと」
そう自分に言い聞かせ、藪の中を進んでいく。
泥に足を取られ、棘に服を裂かれながらも、必死に歩いた。
そして――
(煙……! あれ、誰かがいるかも!)
木々の向こうに、細い煙が上がっているのが見えた。
希望を胸に、サクラは足を速める。
やがてたどり着いたのは、小さな村。
だけど、そこは――
ボロボロの家々と、沈んだ目の村人たちが息を潜めるように暮らす、荒れ果てた場所だった。
「た、助けてください! 私、迷って……ここがどこか分からないんです!」
必死に声を上げるサクラに、老婆が目を細めて言った。
「見ねぇ顔だねぇ。あんたどっから来たんかい?」
「えっと、日本から……って言っても、通じませんよね。でも、お願いです、助けてほしくて……!」
だがその時、村の奥から太った男が現れた。ギラギラした目でサクラを舐めるように見て、唇を歪めて笑う。
「へぇ…身元不明の娘か。魔王軍が生贄を探してるって話もあるし、こいつを差し出せば村も助かるか」
「はっ!? 生贄って……ちょ、ちょっと待って!!」
叫ぶ間もなく、村人たちが彼女を取り囲んだ。
「やだっ、離して! 助け――」
「お前が魔物に喰われりゃ、俺たちが喰われなくて済むようになる」
縄で縛られ、荷車に放り込まれる。
空はどんどん遠ざかっていく。
「……お母さん……!」
涙があふれる。
どうしてこんなことになったのか、何が現実で、何が悪夢なのか――もう分からなかった。
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