比良坂の呼び声【黄泉と異神シリーズ 1】
taktak
一
オカ板で尋ねることではないのかもしれないが、内容が内容だけに許してほしい。
俺の名前は仮にAとする。話の概要を掴んでもらうには、少し俺の話もしなければならないので、かいつまんで話す。
俺は大学卒業後、地元の地方都市から出て、関東の不動産関係の職についた。俺、自分が思ってた以上に社会適応できてなくて、失敗しては先輩や上司に怒られる日々、取引先や顧客からはしょっちゅうクレーム、バイトや後輩にまで鼻で笑われて、毎日クタクタに疲れて倒れるように眠る。そんな生活が約二年続いた。プライベートなんか全然充実せず、いい点と言えば、使う暇がないので貯金が多少貯まったことぐらいか。それでも元来が根気強い気質なので、何とか頑張っていた。
そんなこんなでやっと重要な仕事を回してもらえるようになり、大きなプロジェクトに転属されて猛烈な忙しさになっていた最中、俺はストーカー被害にあった。相手は俺の住んでいたアパートの近くに住む、一人暮らしの熟年女性だった。
この界隈では有名なゴミ屋敷の主で、俺が住む前から近隣住人と揉めることがあったらしい。一体どこで接点ができたのか全くわからないのだが、俺の何かが気に入らなかったらしく、深夜に執拗につけまわされたり、赤い封筒に入った怪文書や意味不明の物品が郵便受けに何度も投げ込まれた。
何処から調べたのか、無言電話も昼夜関係なくかかってきた。着信拒否にしたりスマホを買い換えたのにかかってくるからタチが悪かった。
プロジェクト最中で引越しをしている余裕もなく、貴重な睡眠時間をストーカーに削られるため、心身ともにやつれていった。仕事も目に見えてミスが増え日々対応に明け暮れた。元々ブラック気味な会社だった事もあり、サビ残、休日出勤は当たり前なので、俺の精神はさらに削られる事になった。
大家さんに相談して、人づてに苦情を伝えてもらったが効果はなく、警察にも相談したのだが注意喚起と見回り強化しかしてもらえずで、俺、半分ノイローゼ。
無性に故郷が恋しくなり、会社には迷惑かけてしまったが無理やり辞表を出して、逃げるように実家に帰省した。
家族には色々言われたが、結局は暖かく迎えてくれた。帰省して転職まで少しのんびりするつもりだったのだが、この頃から左手の薬指に変な痛みが走るようになった。
大した痛みではないけど、刺すような焼け付くような痛みが、長いと一日中続いた。一度痛むと気持ちも落ち込みがちになり、気落ちしているとストーカー被害中の記憶がフラッシュバックし陰鬱な気分になった。
痛みを重ねるうちにうっすら指の付け根が赤く痣のようになってきたので、心配になり医者にも見せたが原因は分からず、先生には帰省の理由も伝えてあったので心因性の問題ではないかと言われた。ストレスが少ない生活を心がけてくださいと言われて、軽めの抗うつ剤を処方された。
日常生活に支障はなかったが、職探しは思うようにいかなかった。運転中や料理中はほとんど気にならないのだが、この痛みのせいでタイピングや物書きは苦痛になるし、急に痛むと持っているものを落としてしまうことがあったので、肉体労働もやりずらかった。
そんな折、親戚のおじさんからタクシーの運転手をしてみないかと誘われた。元々運転は好きだったし、運転中は左手は痛まなかったので、俺にとっては渡りに船だった。
二種免許の取得代も出してくれるし、俺の病状も気遣ってシフトを融通してくれた。給料は少なめだったが、何よりも仕事につけた事が嬉しかった。
最初、先輩たち(ほとんどが俺よりかなり年上だった)は無愛想だったが、不器用ながらに真面目に働いていると段々打ち解けてきて、親戚の甥っ子みたいに扱ってくれた。故郷の街を案内して走るというのは新鮮な体験だったし、お客さんに話せるように観光資料や郷土史なんかに目を通すことが増え、そういった勉強も楽しくなってきた。
ただ、時折走る指の痛みと、不意に訪れる不安感の発作で、時々仕事を休まないといけない日もあって、晴れ晴れとした気持ちには中々なれなかった。
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