【Part5:急造挑戦アドリブセッション/つまりはようこそ異能バトル】-4
◇
(まさか──
彼女が
集合的無意識の中から生まれた澱み程度の存在では、具体的な人格から形成された武器の強度には遥かに遠く及ばない。
けれど。
眼前の
擬似生物である
そんな現象、一年間の戦いの中では一度も無かったことだった。
今も
ただし戦っている相手が倒れるそぶりを見せないのであれば、対応できる以上になれない。
(打開策は解らないけど──
与えるならば自分の側で、己は他者に奉仕する身だと、生まれながらにして思っている。
それが彼女のアイデンティティ。誰かのためにみんなのために回り続けるコッペリア。
だから今度の戦いも全て一人でどうにかしようと無理をする。
孤軍奮闘は当たり前で報酬協力考えたことだってありはしない。
けれど。
そんな彼女を手伝いたいと叫びをあげた少年がいた。
なればこそ、彼のためにも己は頑張らねばならない。
「…………た!!」
声がした。
無理やり余力をひねり出しそちらの方へ視線を向ける。
モノレールの駅舎、そこから伸びている線路の上。
「ゴルゴンの本体、見つけたぞ!!」
◇
何故ならゴルゴンたちがここに来たのがその証拠。
こちらは空間転移で移動した。ならば居場所がわかるわけもなくて。
なのに速攻で向かってこれるとするならば、きっと肉眼で見えているからが最有力だ。
広範囲視界を確保するなら効率がいいのは俯瞰視点、ならばあるべき場所は高所のどこか。
セントラルタワーは遠すぎる。周辺のビルの上は案外真下が死角になる。
どうせ陣取るのであれば、オメガフロート全域をカバー出来る場所であれば完璧で。
だとすればここしかないと駆け出した。
駅舎に飛び込み、階段を登り、無人の改札を乗り越えて、立ち入り禁止の線路に降り立つ。
危険と緊張と興奮で引き起こされる背筋と足元の震えを必死の二文字で抑えながら、
「……いた!!」
無人で動くモノレール、その中に。
三体目のゴルゴンが、同化する形でそこにいた。
◇
よって、ゴルゴンも人間たちがこちらの所在に気づいたことは当然理解が出来ている。
「………」
その上で、ゴルゴン本体は微動だにしない。
頭部から生えている触手はモノレールの内部構造に侵食同化しておりレール沿いであれば任意で移動が可能である。
けれど怪物はその上で動かないことを選択した。
ロジックで不死身を保証されている分身程でこそないが、ゴルゴン本体も高い耐久力を持つ。
通常の攻性コード程度のダメージでは仮想肉体の破壊は不可能で、突破するなら
しかしその担い手である有彩色の少女はゴルゴンの分身二体が封殺中だ。
有効手段をとることは出来ず、つまり彼らは詰んでいる。
このままの状態を維持し続けていれば、最後に勝つのはこちら側。
ゴルゴンの持つ擬似知性は彼我の力を非常に正確に把握している。
人間であれば笑んでいるような答えだが、自意識を持たないゴルゴンに表情を浮かべる機能はなかった。
神話の怪物を模した
◇
必要なのは戦闘能力ではなく、一瞬の隙であると理解していた
《【発動】攻性コード:トリプルスピア015【
《・──オーダー検知:斜め上方からの刺突攻撃を実行します──・》
地面に縫いとめられたゴルゴンはそのまま昆虫採集の標本と化して。
◇
そして戦い続けるのであれば、不死身であるゴルゴン側が有利といえた。
幾ら
ゴルゴンが二体いる限り、
逆説。
相手をするゴルゴンが一体だけなら、どうとでも対処はできるのだ。
《【発動】攻性コード:バインドハグ108【
《・──対象を仮想ワイヤにて拘束します──・》
実行されたロジックコードが残されたゴルゴンをぐるぐる巻きに締め上げる。
速攻で無力化を成功させて、
ゴルゴン本体が鎮座する、スカイラインのモノレールを。
◇
少女の視線に射抜かれて、ゴルゴン本体は擬似思考を回転させる。
擬似知性が奉仕するのは捕食本能と自己保存本能の二つだけ。
捕食用の端末を両方とも封殺されてしまった今、起動させるのは後者の方だ。
「………」
自己保存のための最適行動、それはすなわち逃走で。
ゴルゴンの神経信号が一体化したモノレールへと指令を送る。
攻性コードによって具現化された物体の存続時間は有限だ。
オメガフロートの反対側まで逃げてしまえば時間稼ぎは成功で再び分身を起動させられる。
賢明であるはずの選択肢はしかし、
《【発動】防性コード:プロテクション122【
《・──指定位置に仮想防壁を発生させます──・》
光の壁に阻まれた。
発生させた運動エネルギーが反動となってモノレールの車体を軋ませる。
「今だ、
有彩色の少女がこちらを見上げ、戦闘準備を行っている。
「…………」
ゴルゴンに残された手はもう少ない。
分身も、同化しているモノレールも動かせなくなった以上、残る手札はこの本体だけだ。
そして当然本体にも、分身以上の戦闘能力が宿っている。
ゴルゴン本体の目が怪しく光った。
それは充填された仮想エネルギーが漏れて放つ前兆光。
発生させた光熱はゴルゴンの眼球内で往復反射を繰り返し増幅増幅増幅増幅!
臨界点に到達し、レーザーとなって眼孔の外へと放出される。
つまりは目から破壊光線。
最終最後の一撃が地上に向けて降り注ぎ、
◇
《【発動】攻性コード:フレイムホロウ609【
◇
デコイとして用意された熱源に、計画通りに命中した。
それを生み出した
《【発動】補助コード:エスケープ063【
転移を使ってオメガフロートの上空へ。
モノレールの線路よりも高い場所から、身を翻し落ちていく。
「
そして
「
これが彼女の真骨頂。用途に応じて形を変える万能型の
手にする武器の新たなカタチは、身の丈を超えるサイズの巨大弓。
「標的視認──」
視線の先にはモノレールの姿を既にしっかり捉えている。
内部にゴルゴンの本体が融合していることを肉眼にて確認している。
「弾頭準備──」
その手にはいつの間にか極彩色に輝く光の矢が握られている。
大弓にその矢をつがえ、引き絞る。
「照準設定──」
落下しながらの遠距離射撃。
無謀極まる神業を
彼女の有する性能であればこの程度のことは他愛ない。
何故なら彼女はスーパースター。現実と非現実の狭間の天使。
決めるべき時は最高最良を実行してくれと願われて作られた
弓のしなりが頂点に達する。
ゴルゴンの視線と彼女の射線が交差する。
「発射────!」
解き放たれる流星一射。
きらめく軌跡はシューティングスター。
一直線に駆け抜けて標的の潜むモノレールへと直撃。着弾。衝突する。
ガラスを撃ち抜き突き破り、ゴルゴンの胸に突き刺さり──
爆発。
プリズムを散らしたような極光が、灰色の世界を七色に照らす。
◇
戦いが終結し、
そこで待っていた
自分もそうだと気づいた時に、この領域のディテールの薄さを再確認する。
「終わった……のか?」
「ん──今度こそ大型
安堵する。
今度こそ
いつか彼女を解き放つための光明を、出来ることとして見出せた。
「けど、これで終わりじゃないんだよな。
つまりこれはまだ最初の一回。
願いを叶えるその時まではまだまだ遠く、そしていつまで続くかも解らない。
「だから今後もよろしく
手を出し出す。
感謝と尊敬とそして少女を利用する罪悪感を込めて。
「やっぱり──凄いねケイガ」
「……?」
疑問符。今日すごかったのは自分より圧倒的に少女の方で。
「だって──こんな必死の戦いを経験しても──やっぱ無しって言わないんだもん」
そうなのだろうか。
疑問符を浮かべたままの
「明日から戦い方──いっぱい教えてあげるから──ね?」
【NeXT】
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。