【Part4:夢見るような夏の日々/要するに都合いい感じにラブコメディ】-4
◇
付き添いが吸う病院の空気は患者の容態によって違うことを、
先輩は救急車こそ呼んでくれたものの同乗まではしなかった。
そして、
「
一日ぶりに顔を合わせた仰木医師は、今度は初手から硬い表情でそう言った。
「つまり、『歩けない』だけだった症状が、他の動作や思考活動にまで広がっている。
手を動かせない、話せない、考えられない。
生命活動に異常はなく、ただ人間としての自立活動それだけが部分的に停止している」
そして、
「停止している動作は刻一刻と増えている。
このままでは、自発呼吸や心臓の脈動にまで及ぶ可能性もありうるだろう」
つまるところ、一人の少女のデッドカウント。
余命宣告に他ならなかった。
◇
病院の外に出ると、太陽が海の端に沈もうとしていた。
黄昏時だった。かつて
元々が非現実の世界に生きる幻想少女だ。
一度別れてしまったら、再び出会うことなんて、夢の続きを見るぐらいには不可能に近いことだろう。
けれど、
あの少女はここにいると。
「……
眼帯を外す。
隠されていた右目の色は、不自然なまでの赤色で。
そして、その目が見つめる世界の色は灰色だった。
赤い空も、光る海も、青々と茂った芝生の庭も、全てがモノクロームに染まっていた。
誰もいない灰色の街。
世界の果ての幻奏劇場。
「やっぱり──そこまで侵食されてるんだね」
灰色に染まった視界の中、有彩色の少女が立っていた。
それだけで、左目に映っていたものも灰色に変わった。
「きみは──幻奏劇場と──いや──
直接触れ合ったことで──その繋がりは更に強化されている。
だからこうして──
こちらを見る少女の顔は無表情。何を思っているのかを相手に隠しているようで。
それに対する
「前置きはいい。
そして人間は可能性の塊だ。将来の夢や夕飯のメニューの考案、手足を動かし考えることに至るまで、様々な可能性を現実とすることで生きている。
その可能性を奪うというなら、それは即ち人間の生命活動そのものを喰らい犯すのと相違ない。
「あれに呪いを受けたことで、
「そう──
あれはハカナと繋がっていて──その可能性をエネルギーとしてる。あれを倒さない限り──ハカナが目覚めることはない」
肯定を受け、更なる問いを
それは幻奏劇場の仕組みを聞いた時から、なんとなく予想していたことで。
「そもそも集団感覚喪失事件自体が
あいつらが表のオメガフロートの人間にまで手を出したから、みんなの様々な可能性が消えた!
天才少女を襲ったのは原因不明の理不尽なんかではなかった。
原因のしっかりある理屈のある理不尽だった。
それが真実でありますようにと、祈るようにして捲し立てる。
「そう。だから
倒して倒して倒し続けて──その果てに奪われたみんなの可能性を取り戻す。
それが使命で願いでレゾンデートル。
笛剣を取り出し、バトンのようにくるりと回し、そして
「あの
「嫌だ」
一瞬の澱みもなく返答した。
だったらそうだこれこそが、
幼馴染の少女の為に少年が出来る夢希望だ。
「さっきの戦いで倒しきれてなかったってことは、あれは死んだふりして逃げ出すか、もしくは死んでも生き返るか、そんな力があるんだろ。そしてまだ生きてることをお前に気づかせないことも出来てる。そんな奴が素直に自分を倒せる奴の前にのこのこ出てきたりとかしないだろ」
「だったら?」
「
だったら俺が、奴らを誘き出す餌でも囮にでもなってやる」
常識的に考えて、断られるに決まっていた。
けれど無理でも無茶でも無謀でも、何かをせずにはいられなかった。
「今回だけじゃない。あいつの足を奪った
だから俺を巻き込んでくれ
俺があいつを立ち上がらせる為に、何かを出来ると言ってくれ!」
心臓の鼓動がばくばくする。
虫のいいことを言っている恥ずかしさに顔が焼ける。
けれども全部本心だ。否定の言葉を受け止める準備なんて出来ていない。
「──解った。いいよ」
だからあっけない了承に、却って緊張の線が解けた。
幻奏歌姫の少女は笛剣を下ろし、
その表情は、なにやら楽しいものを見つけたような、ちょっと意地悪な顔つきで。
「ケイガは──そんなにもハカナのことが好きなんだね」
それは問われるまでもない絶対前提。
幼馴染は大事な星だと、いつか再び輝くと、それを祈って信じている。
「きみがハカナのために頑張りたいっていうなら──
だって
きみが頑張る姿──
幻奏歌姫の少女の手をとる。
二人の間の契約が成る。
きっとここから、ジュブナイルが回り出す。
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