【章間2】
◇
灰色の街の中、
ここまでの数が一度に発生することは初めての経験ではあったが、彼女の前では敵ではない。
「ふう」
敵でこそないものの、仮想の息を吐く程度には精神的に疲れがある。
単純に捌く物量が多かったことだけではなく、
普段迷い込んでくる人間は半分夢の世界である幻奏劇場のことはすぐに忘れてしまう。だから
けれど、
それに加えて
精神的な疲れがあるなら癒しの時間が必要だ。
それは一般的な人間であっても、高度な人工心理である
「研究所からの映像音声モニタリングがない──ことを確認。──よし」
フィンガーモーションで
開いていく半実体のディスプレイが表示するのは、色とりどりの写真群だ。
それらは全て
昨日の風呂場や夕飯時のやりとりは勿論、それ以前の
「ん──」
写真群を眺め、恍惚するように瞳を潤ませ息を吐き。
「やっぱり──いいね──コイビトドーシがいちゃいちゃらぶらぶしてるとこ──」
──
それは色づいた街の現実。
幻奏劇場と全く同じ外見で、しかしカラフルな外の世界。
色づいている世界の中で、少年が一人燻って、どこにも行けない日常。
幼馴染の少女の失墜を前にして、未来にも思慕にも答えを出せないモラトリアム。
繋がるようになったのは一年前、
一日に数分ぐらいしか見えないビジョンが現実世界と解ってからは、
そして遂に先日直接対面。肉眼で見た少年たちは、期待以上に仲睦まじく。
端的にいうと萌えている。
自室があったら彼ら二人の写真を撮って飾りたいし、デートの姿を動画に撮って保存したい。
このことは、喜嶋所長にも秘密にしている。
その可能性に気づかれたなら、自分の上の研究所は彼を放っておかないだろう。
そうなってしまったら、
だから
早くこの街を平和にして、好きになったコイビトドーシを眺めて萌えていたいのだ。
「待っててね二人とも──きみたちのレンアイモヨーは
幻奏歌姫の少女は決意の言葉を誓いあげる。
つまるところ、彼女はどこかズレていた。
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