第19話 四日目/未開拓領域
カレンの足に従っていたら夜が明けてしまった。
「遅いなぁ……」
「寝ないで走ったんですけど⁉︎」
カレンが荒い息を吐きながら、精一杯という感じで抗議してくる。
「だから、おんぶか抱っこしてやろうかって聞いただろ?」
「この……私が……そんな屈辱的なことを……ゲホッ! ゲホッ!」
「まったく……」
まぁ、目的地の前に着いたみたいなので、木陰に移動して座らせる。
再び満珠を取り出して飲ませてやる。
「ああ、美味しい……」
必死に水分補給したカレンが清々しい顔で早朝の空を見上げた。
「……って、おかしくない?」
隣で朝飯代わりの満珠を飲んでいると、カレンがハッとした顔に変わった。
「なにが?」
「なんで急に、こんなに元気になってるのよ⁉︎」
「だって満珠だからなぁ」
それぐらいじゃないと、ダンジョンの中で飯代わりにはできない。
飲んで即栄養。即元気。
便利な飲料だ。
「いや、待って。昨日もその名前は気になったのよ。満珠……満珠?」
こめかみに指を当てて唸り出す。
忙しい奴だ。
戦闘中ではないので、俺はのんびりと満珠を飲む。
普段はキュッと飲むから味なんてあんまり気にしないけど、爽やかな酸味と甘さが口に広がって、すぐに満足感に変わる。
あんまり疲れないで飲むと、この量はちょっと多いな。
でも、飲みかけをアイテムボックスに入れるのもなぁ。
腹がいっぱいになりすぎても、動くのがだるくなるだけなんだが……。
「思い出した!」
仕方ないと飲み切ったところで、カレンが声を上げた。
「満珠って……
「霊薬?」
なんか、聞いたことあるかな?
「なんで知らないの⁉︎ 」
信じられないという顔でカレンが説明してくれた。
霊薬とは人体の全ての問題を解決する完全回復薬のことだそうだ。
あらゆる病気や四肢欠損を含む怪我、それだけでなく呪いなども完全に打ち払う奇跡の薬。
それが霊薬なのだと、カレンが熱く語る。
「満珠はその霊薬を作るための材料の一つよ! それをこんな、水筒の水みたいに……」
「それは違うぞ、カレン」
「どこが⁉︎」
「水筒の水じゃない。ちゃんとご飯がわりにもなってる」
他には眠気も取れるし、疲れも取れてるだろ?
カレンもすっかり元気だ。
「結局、普段使いには代わりないじゃない!」
いやだって、ダンジョンなら飯代わりにするぐらい、たくさん取れるからな。
「ああ、それに、思い出したんだけどさ」
「……なによ?」
「その霊薬ってのも、ダンジョンで取れるぞ」
ドロップ品で出てくるな。
「……え?」
「最近、そこまで深刻な怪我なんてしないから忘れてたわ。ガキの頃はよく使ってたな」
いやー懐かしい。
病気になったり怪我したりしたらあれを飲まされたな。
そうか、満珠が材料になってるのか。
たしかに、ちょっと味が似てたかもな。
「んじゃ、そろそろ休憩は終わりでいいか?」
なんか思考放棄みたいな顔になったカレンを立たせて、目的地の砦へと移動を再開した。
未開拓領域とやらは目の前に一杯の木が並んでいた。
人間の手が加わっていない森林……原生林というものだそうだ。
砦の中には伐採した木々を薪にしたり木材にする加工場が備わっており、職人たちが忙しく働いている音がする。
「よくいらっしゃいました。皇女様」
砦の責任者だという人物のところに案内された。
名前はポレー将軍だそうだ。
線が細くて『将軍』って雰囲気じゃないけど、まぁ、前に出て戦うだけが将軍じゃないからな。
将軍ってついている魔物も、前に出てくるのから、後ろにいることで集団に補助効果を反映させるっていうのもいるし。
色々なんだろ。
「しかし、今回の訪問はご予定にないもののようですが?」
「修行の旅の許可は出ているわ。そして修行なのだから予定外のことが起きても仕方がないのだと思いませんか? 将軍?」
「軍というのは予定外のことに対して予定を組む集団でございますよ」
「言葉遊びね。でもそれはつまり、予定外のことに対して対応できる能力も必要とされるということでしょう?」
「いえ、しかし……」
と、カレンとポレー将軍が長々となにやら言い合う。
なんか将軍にチラチラと見られているけど、もうそんな視線にも慣れたし、暇なのでソファに座ってダラダラとすることにする。
「わかりました」
「わかってくれて嬉しいわ。将軍」
最終的に、やれやれという感じでポレー将軍が折れたようだ。
「それで……そちらの方が、かのハウディール男爵ですか」
「ん? ああ、どうも将軍。ハウディール男爵です」
「ご先祖の武勇はこの国では有名ですからな。お会いできて光栄です」
「それはどうも。ええとそれで、この辺りの魔物を全滅させればいいんだっけ?」
「「それは違う‼︎」」
カレンに確認のために聞いてみたら、二人揃って否定されてしまった。
「ええ?」
「違うでしょ。あなたは私の修行の同行者。派手なことはしなくていいのよ」
「ほんとか? そんなのでいいのか?」
「それでいいのですよ。男爵の武勇は有名ですが、あまり他国でそれを振るうのは良いことではありませんぞ」
「はぁ、そんなもんか」
ポレー将軍にまで言われたので納得するしかない。
そんなわけで、カレンについて未開拓領域とやらに入ることになった。
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