第3話 模索



「見合い相手がいない?」

「はい」


 尋ね返すと、ヴァスカールはいつも通りに淡々と返してきた。


「あれ? それってまずいんじゃないっけ?」

「ええ。とてもまずい状況です」


 この国、セイダシーバ王国の法律では、貴族は貴族同士の結婚で生まれた子供にしか継承権が認められない。

 それなのに、貴族の見合い相手がいない。

 つまり、俺と結婚しようという貴族がいない、ということになる。


「……うちって、養子ってダメだったよね?」

「はい。このダンジョン街の領主は古の賢者ハウディールの直系を維持するために、いかなる理由であれ養子縁組が認められておりませんし、おそらくはこれからも認められないでしょう」


 さらに我が家限定の決まり事まである。


「つまり、兄貴のところに子供ができても?」

「家門を移った時点で、直系はハロン様となっています」

「……ええと、それってつまり?」

「ハロン様にもわかりやすくお伝えすると、ハロン様が結婚して跡取りができる前に死んだ時点でお家は取り潰し、ダンジョン街は終わりとなります」

「ええ。それは困るな」


 いや、困るか?

 ……うん、困る。

 なんか、俺の代で終わるっていうのが嫌だ。

 特にそんな理由で終わるなんて。

 でも、お見合いっていうのをしてくれる貴族がいないわけで?


「それってつまり、俺は一生結婚できないってことだよね?」

「ハロン様が貴族をお辞めになれば可能ですよ」

「だからそんな、負けたみたいに終わり方は嫌だよ」


 世間からの風当たりが強いダンジョンだけどさ、ここには温泉もあるし、冒険者案内所のみんなはいい人だし、手伝ってくれる子たちもいるし……ああいう人たちが、俺が死んだ途端に路頭に迷うようなことになるのは、嫌だな。


「うん、終わるのはダメだな。なんとかしないと」


 なんとか……。

 まぁ、その方法を俺が思い浮かぶことなんてないんだけど。


「ヴァスカール、なにか方法はない?」


 だから、こういう時は知恵袋ヴァスカールに聞くに限る。


「とりあえず二つ」

「二つもあるんだ」

「ええ。悪辣な方と正攻法の二つがありますが、どうしますか?」


 悪辣って……。

 でも、気になる。


「とりあえず、悪辣な方ってなにさ?」

「いまの国王がダンジョン街を終わらせるために貴族の結婚に関する法に手を入れ、お家と縁のある貴族たちに手を回し、先先代父上先代兄上の引退を画策したのは事実です。この執拗なダンジョン街への策謀には、世間のダンジョン不要の風潮とはまた別の、裏の理由があると考えられます」

「裏ねぇ。例えば?」

「例えば、王家にとって都合の悪い真実が隠されているので消えて欲しいのではないかと」

「都合の悪いって、なにさ?」

「それがわかれば苦労はしません」

「結局、わからないのよかよ。で、見つけてどうするんだ?」

「もちろん、国王を脅すのです」

「脅すのかぁ」


 たしかにそれを見つけられたらなんとかなりそうな気もするけど……。


「それ、なんとかならなかったら、どうなるの?」

「立ち回りを失敗すれば、王族を脅した一族としてハウディール家のみならず、先先代お父上先代兄上が入られた家も取り潰されることになるかもしれません」

「ダメじゃん。むりむり。それはやめとこう」


 被害がうちだけじゃないっていうのがだめ。

 いや、ダンジョン街が潰れるかもでもだめなんだけどさ。

 さらに親父や兄貴が継いだ家まで危機になるのはいただけない。


「なら、正攻法ってどんなのよ?」

「簡単ですよ。国内の貴族がだめなら、国外の貴族と結婚するのです」

「国外?」

「外交上の理由で国外の貴族と結婚する家もあります。国王としてはこちらも封じたかったでしょうが、あまりお家にだけ不利になるような法の変更はできなかったようですね。ですから、いまだに有効です」

「それなら、ヴァスカールがいつもみたいに見合いの手紙を書いてよ」

「ただし、貴族が個人的に他国の貴族と外交を行うことは推奨されておりませんので、私が正式文書として手紙をばら撒き見合い相手を探すのは難しいでしょう」

「ならダメじゃん」

「ですが、たとえばですが旅の途中で出会った女性と恋に落ち、それが偶然、他国の貴族の娘であったというのなら、少しは言い訳が立ちます」

「え? 言い訳になる?」

「言い訳にするのですよ」


 なるのか?

 いや、待て。

 旅の途中?


「それってつまり、俺が街の外に出るのか?」

「そうですね」

「出ていいの?」


 ダンジョン街の領主は、ダンジョンの魔物が外に出るのを防ぐために強くなければならないし、見張っていなければならない……んじゃなかったっけ?


「……これは先先代に聞いたのですが、十分な数の魔物を駆逐すれば溢れる危険はかなり減ると」

「ああ」


 まぁ、そうかも。

 魔物なんてどんどんと湧いているけど、一度徹底的に狩っちゃえば、溢れるほどに溜まるまで時間がかかるだろうね。


「それでも一週間くらいかな?」


 自分なりの経験でなんとなく限度を導き出してみる。

 つまり、めっちゃ狩りまくったら、一週間は外出できると。


「帰ってくるのは使い捨ての転移球を使えばいいから。一週間いっぱい、外に出ていられるかな」

「よいですね。では、そのようにしましょう」

「いや、でもさ……俺が貴族のお嬢様相手に会話できると思う?」

「……」


 あ、ヴァスカールがそっと目を逸らした。


「だってさ。家は兄貴が継ぐもんだと思ってたから、俺の貴族教育ってかなりいい加減じゃん?」


 そんな俺が、どうやって貴族のお姫様たちと優雅な会話をすればいいんだ?

 無理っぽくない?

 お見合いなら、家の利益で我慢してもらうこともできたかもしれないよね。

 ほら、我が家って男爵だから格式はないけど、ダンジョンのおかげでお金持ちだし?

 お金があれば文句なしって人もいるだろうしね。


「……私も、まさか二代続けて同じ作戦を使ってくるとは思いませんでしたからね。迂闊でした」

「どうすんのさ?」

「そこは、なんとかしてください。いまさら教育をしている場合でもないでしょう」

「ええ。なんとかって、どうやって……」

「旅先のロマンスなんて同年代でしかできませんよ。それに、バカなあなたを仕込んでいたら十年あっても足りません! 当たって砕けてでも、貴族のご令嬢を惚れさせてきてください!」

「んなっ!」


 無茶振りだ!

 だけどそれしか方法がないのか?

 んん……なら、やるしかないか。

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