機械少女は依存度と戦闘力が高い
彼女を拾って2年。
俺は12歳になった。
初めて彼女の名を知り、彼女の味方で居続けると約束した俺は、これでベガの悪夢が少しでも収まり、普通に暮らしていけるようになっていくのではと期待した。確かにあの後からベガの表情は明るくなった。俺以外の人にも怖がりながらだが、とりあえず会話は出来るようになった。
今までと比べてもはや進化に等しい成長を見せた彼女だったが、1つの大きな問題が生まれた。
いや大きなと言えば大きいかもだが、第三者から見たら別に大した問題じゃない。問題はあくまでも俺自身のみに起きている事であり、誰かに迷惑をかけてる訳じゃないのだ。
なら何が起きているのかと言うと――
「ベガ」
「何?」
「いくらなんでも……ずっと引っ付いてくると歩きにくいよ……」
「ん??」
ちょっと壊れた装備をケリー達に見てもらいに行くと言って、俺は家を出ていったのだがそりゃもうパーソナルスペースに中指立てるレベルで、見事なひっつき虫を披露していた。
「アルタ」
「何?」
「アルタはボクの味方だよね」
「お、おう」
「それで側にいてくれるんだよね?」
「……ああ」
「じゃあ問題ないよね?」
「う……ん」
と……こんな感じに歩きにくいと言うだけでも、何か浮気した事を妻に詰められる夫の如く、無茶苦茶な問答によって捩じ伏せられてしまうのだ。懐いてくれるのはありがたいが、それにしたってこれは極端過ぎた。
俺が最初にベガの名を知ってから此処に至るまでの2年間、それはもうとにかくずっと一緒にいたからこそ、この現状が出来上がってしまったのだろう。
お互いに遅過ぎた自己紹介を終えた後、俺とベガは親父の命令で2人は一緒に行動するように言われた。最初は弱みを見せ合った事もあって、2人ともぎこちなさMAXの雰囲気漂う微妙な関係性だったが、俺はアガトの人達にベガを紹介しつつ、ケリーのような機人達と一緒に機械の整備の手伝いをするようになった。
おかげでベガは見違えるほど明るくなり、アガトの人々も明るくなってきた彼女を見て癒しを感じていた。ただ……仲良くなっていくにつれて、俺への依存度がはちゃめちゃに上がった。かわいらしいが、このままじゃ良くないなぁと俺は思っていた。
「今から何しに行くの?」
「今度親父が狩りに行くからさ、俺の分とベガの分の装備をケリーに作ってもらってるんだよ」
「ケリーのとこ!? 行く行く!」
「
「……うげ」
今俺以外にベガと仲良くしているのは同じ機人であるケリーだろう。
最初にベガの名を知り、どうしようかなと思った俺はケリーと引き合わせる事にした。そして機人同士なら人間よりは馴染みやすいのではと思った俺の作戦は見事成功。3ヶ月もしない内にケリーはベガの姉貴分になっていた。ただ……同い年のちょっとじゃじゃ馬な女の子の機人――アイラという子がケリーの工房にいるのだが……そいつと絡んだ瞬間、毎日歪みあったり騒いだりするようになってしまった。
「ベガ……せっかく年が同じぐらいで性別同じの機人なんだから、もっと仲良くしなよ」
「いやだ、だってアイラはガキっぽいもの」
(それを言ったらベガもだよ――って言ったら殴られそうだ)
お互い子供だよ。
頭を抱えたくなるが、深刻な問題じゃない。
だって別に殺意が駆け巡る険悪な感じじゃないのだ。
少年漫画で言う主人公とそりが合わないライバル役みたいな関係性だ。ベガはどう思っているかは知らないが、俺的にはアイラはベガにとっての親友ポジとして確立して欲しい。
そうすれば、あら不思議……ベガはもう普通の人間みたいに友達と談笑し、ちょっと荒事はあるけど基本的には平穏な日常を送る女の子になるはずだ。
俺は今日こそは必ず2人の距離を縮めようと工房へと足を進めた――
「はん!! 性懲りも無くまた来たわね! 私の宿命のライバル……ベガ!!」
「うっざ……ボクは君なんか眼中にないよ。ふん」
「腹立つわね……顰めっ面ばかりしてたら貴女の形状記憶合金が、しわくちゃなブス顔から変わらなくなるわよ」
「んだとアイラァ!!!」
2人の機械少女がバチバチとお互いの間で火花を散らしていた――物理的に。
「あははは! 挑発に弱いのねベガ!」
「君がしつこいからだ」
ウキャキャと笑う機人の少女――アイラ。
赤みを帯びた長い髪をサイドテールにまとめ、オレンジ色の
「まぁまぁ落ちつけ2人とも……アイラも騒がしくするとケリーさんに怒られるぞ」
「……むぅ、いいよねー……アルタは先に狩人デビューだもの。武器の整備とか……私だって戦力になれるのに」
そう言って拗ねるアイラを見て、俺は気まずい表情をする。確かに周りを見ても俺と同じ歳で機械兵器狩りに行く奴はいない。大人から見ればかなり異質であり、心配するがアイラは違った。
「機械兵器ぐらい、私だって倒せるのに。何でアルタばかり……」
「アルタの悪口言わないで、アイラ」
「悪口じゃないよベガ。ただ……うらやましいの、人の力になりたいだけ」
アイラはかなり正義感が強い。
俺みたいに機械兵器を破壊する狩人になりたいと望んでおり、俺たちを勝手にライバルだと思っているのだ。これも同い年にいるノラという人間の男の子と約束まで結んでいるせいかもしれない。2人は機人と人間という立場でありながら、単なる友人関係以上の何かがあった。大切な男の子を守れるようにと躍起になっているのだろう……実に微笑ましい。
前世の頃の自分なら「何だその幼馴染設定、うらやましい」と血の涙を流してもおかしくなかった。ただ今の俺にはベガがいるから、そんな感情を抱かないが。
そんなノラは今ここにはいない。
いるのはアイラだけであり、仕事中のケリーを手伝いに来ていた。
「――騒がしくなったなと思ったら、やっぱりアルタ達が来ていたのね」
「ケリー」
やれやれと言った様子で浅黒い肌の似合うケリーが、工房の奥から現れた。煤まみれになった作業着をパンパンと叩いて汚れを落とし、手袋を乱雑に脱いでデスクの上に置くと俺とベガの2人を見遣る。
「ローグから事前に相談はされてた2人の体格に合う改良型アサルトライフルだが、もう出来上がってる。見るか?」
「見ます」
「……うん、見るよ」
俺とベガはケリーが持ってきたライフルを見て、おぉと声を漏らした。ベースは太古の人類が使っていたアサルトライフル――AK47だ。そこに機械兵器の部品を組み込み、1発1発を炸裂弾に改良……更に射撃時に銃身が壊れないよう、キメラの材料を使う事で見た目だけはそっくりの別物が生まれた。
有り合わせかつ狩りをした兵器たちで作り上げた武器は、何となくハンティングアクションゲームを想起させる。何ならもっと強い機械を倒したら、すごい武器が作れそうな勢いまである。
「威力は申し分ないが、ずっと撃ち続けると熱でおかしくなるからな。冷却装置はないから気をつけて」
「ありがとう、ケリー」
「礼なんていいわ、アルタ」
無理やり未来の技術を嵌め込んだ武器だ。そもそも運用するだけマシである。しかし噂じゃもっとでかい都市だと光学兵器も売ってるとか。個人的にはかなり使ってみたい。何せその方が強そうだからだ。
だがアガトという辺鄙な街にしては、このライフルはかなり充実した武器だと言える。これも親父たちが戦いを知らない者にも知識を与えて、自衛出来る力をアガトに持たせた結果だ。気に食わないことはあるが、あの人が普段から人のために動いているんだなと再認識した。
「ふーん……銃……ねぇ」
「ベガはあまり好きじゃない?」
訝しげに銃を持つベガを見て、俺は不安を感じながら聞いた。もしかしたらトラウマを刺激されるとか、俺の知らない何かがあるのかなと思っていると――
「ん、いやそうじゃないよ。ただ……ボクはちょーっと銃よりもいい戦い方があるから」
「?」
「……また本番になったら教えてあげる」
「えぇ」
何故にウィンク、余計に気になってしまった。
というかベガは割と茶目っけたっぷりな奴だったのか。親しくなってきたおかげで、知られざる一面を見れたことに感動を覚えていると背後からブー垂れたアイラがいた。
「ずるい……ベガも、アルタも」
「アイラ」
ケリーが嗜めるような言い方をするが、アイラの不満は止まらない。
「ベガとアルタ、私と変わらない歳なのに! 私より先に進んでズルい」
「アイラ……」
ベガが呆れたような視線を向けてしまったことで、アイラの不満は爆発した。
「私だって
悪い事なんかじゃない。むしろこの世界でそれだけ正義感の強い考えを持てる彼女は、まさしく褒められて然るべき存在だろう。誰かの役に立ちたい、機械とはとても思えない献身的な思いを聞いた俺は内心で胸に来るものがあったが、世の中はそんな子供の駄々を聞いてくれない。
「アイラ、貴女の思いは立派よ。いつまでも大事にしてほしいと思うわ」
この中で1番聡明かつ理性的なケリーが口を開く。
精神年齢で言ったら俺もいい歳な筈なのに、気の利く事が言えないのは見なかった事にしてほしい。
「だけどね、戦いは
「なら……ベガは?」
アイラがちょっと気まずそうにベガを見る。
言わんとしている事は何となく分かる。だってベガは精神年齢は間違いなく幼いからだ。しかしベガの場合は向き不向きに関係なく、親父が「ベガは否が応でも強くならなくちゃいけない、未熟でも」と言っていた。
勿論その内容はケリーにも伝わっていた。
「ベガは……絶対に力を身につけなきゃいけないの」
「なら私だって同じ!」
「アイラ……焦らなくてもいい。今はまだちょっと早いだけよ」
そう言われて大人しく引き下がる子供じゃない。アイラは目に涙(実際は水)を溜めるとプイッとそっぽ向いて、工房から出ていく。
「もういい!! 絶対負けるもんかぁあ!!」
悔しさ爆発と言った様子で叫んだアイラの背中を見つつ、俺は罪悪感に駆られた。力になれない上に同い年が活躍するのを見ていたら、複雑な心境にもなる。
「そんなに人の役に立つ事に必死になるなんて、何がアイラを駆り立てるのかな……」
ベガはアイラの執着に対して、いまいち理解が及んでいなかった様子。それは俺も同じ事を思った。
「ベガ、どうかわかってあげて? アイラも……悪気があって強く言った訳じゃないの」
「……それは、分かるけど」
「あの子……いやアガトにいる機人たちは皆アイラみたいに、人の役に立ちたいと願ったAIに作り出されたのよ。機人やキメラみたいな機械生命体は必ず思想や性格が似通った
「部族……」
今思えばケリーとアイラの額には、同じ半円形のマークが刻まれている。あれは同じとこで作られて、同じように人の役に立ちたい優しい部族に生まれた機人という、ある一種の証明のようなものだろう。
「アガトの近くにある機械の胎で生まれた私たちは皆人を助け、人と共に生きる事を至上命題にしたプログラムが宿っている。だから……アイラもあんなに必死なの」
「そうだったのか」
「だからアルタも、あまり悪く思わないでね?」
「俺は大丈夫ですけどね……」
ならば仕方ない。ただ俺自身アイラに悪感情なんて抱いた事はない。むしろ好感すら抱いている。彼女のようなAIを持つ機械ばかりなら、もう少し人類も生きやすかっただろうと思った。
「……プログラム……」
ただベガは自分の額を摩ると、遠い目をし出した。何を考えているかは定かではないが、あまり良い事は考えていなさそうだ。
「なら……ボクは……何を……プログラムされてるのかな」
「ベガ……」
額にある菱形のマークに触れながら寂しそうに告げた彼女に対して、俺はまた何て言えばわからなかった。
* * *
「――ケリーからもらった武器や装備、しっかり準備したか? アルタ、ベガ」
「ああ」
「うん、大丈夫」
明くる日。
俺とベガは親父と一緒に、旧都市群跡地に来ていた。
もらった武器を使い、今度は2人で連携して戦えるようにしていくという。なるほど……親父はずっとこれがしたかった訳だ。ベガと戦わずに俺と絆を育んできたが、全ては最低限の連携が取れるスタートラインに立たせるためだったようだ。
何だか親父の手のひらの上で踊らされた感があって、あまり好きではなかったが。
「今回は機械兵器の群れと戦ってもらう。俺の援護はなし、お前ら2人だけだ。それにベガの力をこの目で見たい」
「ボクの……力ね」
親父は最近この近くに現れた機械兵器――ラヴェジャーの群れを俺たち2人だけで倒し切ってほしいとの事。もはや無茶な要望は慣れたが、俺もベガの力がどんなものか気にはなっていた。珍しく俺と親父の思惑が一致した日でもあった。
「不満か、ベガ」
「いんや、それより敵は?」
「……もう少し先だ」
何か妙な反応したな……。
親父も気づいたみたいだが、触れなかった。
「足跡がある、ラヴェジャーのものだ」
さて親父がさっきから言っているラヴェジャーという機械兵器は、かなり小型の種類に属している奴らだ。小型とは言っても体格は2メートルから3メートルの間と、人間より普通にデカい。あくまでも兵器の中ではという枕詞がつく。
見た目はチーターのように細長くしなやかで、走る速さは時速190キロに到達する。背部には30mmガトリング砲が2つ付いており、口からは榴弾を放つ。機械兵器は内部機構で弾を自動生成して撃つ機能があるのだが、ラヴェジャーのように小型な奴らは生成速度がかなり早い。
だから見つかると物凄い速度で追いかけまわされながら、ひたすら休む暇なく撃ちまくられる。これはたまったもんじゃない。比較的楽に倒せる部類ではあるけれど、油断は絶対にしてはならない。俺も改良型アサルトライフルを持つ手に力がこもっていた。
「いいか2人とも、俺がお前達に今後身につけて欲しいのは連携だ。これから先を生きていくに当たって、ずっと似たような機械兵器ばかり近寄って来るとは思わない方がいい」
親父は実感のこもった口調で語り出した。
確かにそれはあり得る。いつ頭がイカれた機人とかやってきてもおかしくはない。
「そう言う場合、必要になるのは火力の高い兵器じゃない。仲間を信頼する心だ」
「……精神論を唱えるなんて」
「茶化すなベガ、これは経験から物を言ってる。悲惨な戦場になればなるほど、精神的な強さが生死に関わってくる」
親父が軍にどれだけの期間いて、どんな戦場を生き抜いてきたのかは知らない。だがこの場において誰よりも説得力のある男でもある。ベガはそれ以上何も言わなかった。
それから俺たちは廃墟の奥、かつて高層ビルが建ち並んでいたであろう大通りに出た。いくつも倒れ込んだビルによって、巨大な瓦礫の山がいくつも点在しているせいで、先へ進むだけでも一苦労だ。
俺はよいしょよいしょとおじさん臭いセリフを吐きながら、瓦礫の山を登っていると親父が人差し指を口に当てて「シー……」と言ってきた。隣にいたベガも釣られて静かになると、親父が視線を向ける先を一緒に見た。
「あれがラヴェジャーだな」
親父の一言が耳朶に触れて、俺は目を凝らす。
そこには10体ほどの黒くてしなやかなボディをした、ラヴェジャーがまるで匂いを嗅ぐような挙動をしながら、荒れ果てたアスファルトの道を彷徨いていた。
「10体……多いな」
「奴らが単独でいる時はほとんどない、大概10体前後で群れを作っている。1体でも存在を悟られたら、警報を出されて仲間達に襲われる。それで死んだ奴を何人も見た」
俺の脳裏には背中についたガトリング砲で、原形すら無くなるレベルで撃ちまくられるイメージ映像が流れていた。そんな悲惨な最期だけはごめんだ。
「さて長話はこれぐらいにしよう。奴らは複数いるが……一体一体の戦闘能力は高くない。だから離れた位置で――」
「……あれ? ベガは?」
「む?」
親父は説明しようとした際、俺は隣にいたはずのベガがいなくなっている事に気づいた。親父も気づかなかったのか、目を丸くして辺りをキョロキョロと見渡す。え……マジで何処だと間抜けな声が出かかって――俺は真正面を見ながらあんぐりと口を開けた。
「ふんふんふーん」
何とベガは隠れる素振りを見せずに、銃すら構えずにラヴェジャーの群れへスキップしながら向かっていた。まさかここでいきなりバグでも起こしたのか!?
「あいつ!」
「やばい、アルタ! 銃を」
慌てる親父と俺を他所に、ベガはそのままラヴェジャーの近くまで迫っていた。
「今日は君らだって」
「!!? ギギギギ……!」
軽い口調でラヴェジャーに話しかけたベガ。
これには複雑な思考回路を入れていない機械兵器のラヴェジャーでさえ、困惑しているように見えた。しかし流石は機械といったところか、すぐに背中のガトリング砲を起動し始めた。
「ベガァアアア!!!」
俺は声を振り絞り、ラヴェジャーの意識をこちらに向けようとする。ベガは絶対に失いたくない。俺の……この世界で初めて出会った理解者だ。彼女以外にそんな存在なんて現れない。失ったら俺はもうダメになってしまう。そんなありったけの感情を引き金に込めた瞬間――ベガの蹴りがラヴェジャーに炸裂した。
「ギィ!?」
「よっ――と!」
ベガに蹴られたラヴェジャーは一瞬でボディがひしゃげ、バラバラになって吹き飛んでいく。彼女は「あはっ」と楽しそうに笑うと、すぐ近くにいたラヴェジャーに視線を移し、音速の拳を何度も叩きつけた。
「うりゃ!!」
「……!!」
まるで銃声のような音がなり、ベガの打撃は機械兵器を容易く破壊する。そのままベガは止まる事なく他のラヴェジャーへ向かうと、長い尻尾を掴んでそのままジャイアントスイングして蹴散らし、倒壊したビルの中に投げ込む。
「これでもどう?」
ベガは破壊したラヴェジャーの口に手を突っ込み、榴弾を無理やり引きずり出すと全力で投げつけた。火薬要らずの人力……いやこの場合は機人力でグレネードランチャーを再現し、激しい爆発が起きる。
「ザコなら楽勝かなー」
あとはもう……彼女の独壇場だった。
銃を一切使わず、徒手空拳で10体の機械兵器を破壊した彼女は、手や足に黒い液体をベッタリ付けたまま俺の方に駆け寄ると、可愛らしい笑みを浮かべてVサインをかました。
「えへへっ、ねぇアルタ見た!? これがボクの力――」
「バカ野郎が!!」
「ふぎゃ」
ゴキィンと親父がベガの頭頂部に渾身の拳骨をかました。あまりにも痛々しい音に、ベガの強さに唖然としていた俺は顔を顰めた。いや……生身の拳で超頑丈なベガの頭を叩くって痛いだろうに……。
「な、何すんのローグ」
「お前! さっき俺がなんて言ったか覚えてんのかぁ!?」
「ラヴェジャーを倒すって……「連携しながら倒せだよな!?」……うっ」
親父は俺でさえ見たことレベルでキレていた。
彼女が可哀想だと思って介入するか迷ったが、怒りの矛先が俺に向くのは明らかだったから無理だった。すまない……ベガ……。
「だ、だって! ボクは強い! あんなのに連携なんて要らない! 大半の奴は何とかなるし……」
「なるし……? 何だ、言ってみろ」
「……っ」
ベガはふと俺の方へ目を向けた。
その瞳には心配の色が見えた。
「ボクは……アルタに危ない目に遭って欲しくない。アルタが戦わなくても……ボクが守ればいい……」
その言葉を聞いて、俺はありがたさより寂しさが勝った。勿論そこまで深く想ってくれているのは、男冥利に尽きる事かもしれない。だけどベガが俺を守りたいように……俺もベガを守りたいのだ。
「……ベガ、お前はアルタの事をわかっているようで、わかっていないな。しかも認識が甘い」
「……何?」
あからさまに不機嫌になるベガを前にしても、親父は怯まない。
「ベガ、お前は確かに強いだろう。並の機械兵器なんざ片手間で壊せる程度にはな」
「……」
「だけどな、この世界にはお前の想像を遥かに上回る強さを持つ奴がいる。あの程度の動きなら人間でも出来る」
え……どう考えても100キロはありそうな鉄塊を素手で破壊出来る人間いるのか……? ちょっとそれは出会いたいような、出会いたくないような……。
「はっ、そんな奴いるわけ……」
「だが機人にはもっと理不尽な奴がいる、俺たちなんか100万人いても勝てないような怪物がな。そんな奴を前にして……お前だけで乗り切れると思ったら大間違いだ」
「……っ」
「敵は甘くないぞ。太陽系を支配する機人が……今のベガにやられるようなやわな奴の訳がないだろ」
親父はしっかりと言いつけて、ベガをしっかりと睨む。
「この世界を生き抜くには1人だけじゃ無理だ。お前だけ先行したら……アルタはいつまでも成長しない。2人が一緒に戦い、理解し合わないと強くなれない! お前は……アルタに弱いから下がってろと言ってるようなものだったぞ」
「な……! アルタ、ボク、そんなつもりじゃ……!」
そんなつもりじゃなかったとベガは俺に目を向けた。
ああ、わかっているさ。お前がそんなつもりで言った訳じゃないぐらいは。
「ベガ、言っておく。仲間を……友達を信頼できるようになりなさい。それがお前とアルタの為になるから」
「……はい」
しょんぼりするベガを見て、俺は落ち込む彼女の肩に手を置く。ここで俺がかけるべき言葉は何も気にしてない事を伝えることだ。ベガは結構引き摺るタイプだ、そこは上手く俺がコントロールしてやらないといけない。
「ベガ、気持ちは嬉しいよ。だけど俺にもちゃんと分け前くれよ」
「アルタ……」
「俺だって男だ、信頼している女の子を……この手で守らせてくれ」
ちょっとキザ過ぎたかもしれない――と思ったが、ベガは口をモニョモニョしながら喜んでいた。親父は「へぇ……」と意味深に感心していた。やめろ……急に恥ずかしくなってきたわ。
「――ベガ、アルタ、次のエリアを探しに行くぞ。今度はちゃんと連携を……な」
「「了解」」
親父の忠告を受けて、俺はベガと共にこの日はずっと連携を意識した戦いを行った。決して上手くいった訳じゃなかったが、何となく俺が次にベガへしてやれる事が見えてきた気がした。
それは俺に依存させるのではなく、周囲の人にも気を配り、友人を大切する心を持たせる事だった。
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