勇者ではなく魔王として召喚されました!~魔族の生活向上推進計画~

烏天狗

第1話 プロローグ~青年海外協力隊員、異世界に転生す~

 目が覚めると真っ白い天井が見えた。


(ここは……どこだ?)

  

 俺の名前は佐丹龍之介さたんりゅうのすけ、27歳。

 JICA海外協力隊の隊員として、南米チリで剣道を教えていた。


 <チリで剣道?>と不思議に思われるかもしれないが、世界遺産マチュピチュで有名なこの国は、ラテンアメリカの剣道大会において上位の成績を残すほど剣道が盛んなのだ。


(2年の任期を終えて、マチュピチュの観光をしてたんだっけ……。確か“太陽の神殿”の中に入った途端、意識が遠のいて……)

  

「気がついたか」

  

 声の方向に目をやると、空前絶後の超絶イケメンが立っていた。


(古代ギリシャの彫像みたいだ。この人が助けてくれたのか? 天井が白いということは、ここは病院で、この人は医者ドクター?)

  

「助けていただき感謝します。本当にありがとうございました!」


「礼を言われる覚えはない。断っておくが我は医者ではないぞ」

 男は可笑しそうに笑った。


 そういえば、この男のいでたちは全身黒ずくめである。

  

「我が名はルシファー。貴殿の世界で言うところの堕天使、あるいは悪魔と自己紹介すれば分かるかな?」


「はぁーーーーーー!?」

  

 俺は飛び起きた。


「なんで悪魔界隈の頂点が俺の前に……? 俺、何か悪いことしました? これから殺されるんですか?」


「心配するな。貴様はもう死んでいる」


(北斗の拳かよ!)


「我が屠った。貴殿を異世界へ転生させるために!」


「異世界転生って女神様が使われる御業じゃないんですか? ……その、勇者とかを召喚するために」


「そう。実に忌々しい手口よ。この世界の揉め事に別世界の人間を巻き込むとは……。が、結果が出ているのも事実。異世界からやってきた勇者とやらに、魔族は何度も痛い目にあってきた。そこで今回、我も初めて使ってみることにしたのだ。異世界からの魔王召喚を!」


「そのために俺を殺したんですか? 転生じゃなく転移でよかったじゃないですか!」


「そのやりかたは知らん」


「鬼! 悪魔!!」


「悪魔ですが、何か?」


 俺は頭を抱えた。


(どうしてこうなった……どうせ召喚されるなら綺麗な女神様に呼ばれたかった……)

  

「そう暗い顔をするな。女神は転生者に一つだけしかチートを与えぬそうではないか。我はそんなケチ臭いことはせん。貴殿には我の最大限の加護を与えよう。それを詫びとして受け取ってほしい」


「俺はこの世界で何をすればいいのですか。勇者を倒せばいいのでしょうか?」


「それは貴殿が判断することだ。我の望みは魔族の幸せ……ただそれのみ」

  

 俺の意識は再び遠のいていった――

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