あなたの順位

@hayama_25

第1話

「私達、もう別れよっか」



それだけ言って、返事も聞かずに走り出した。


返事を聞く勇気なんてなかった。


大雨の中、目的地もないまま。

行き先なんてどうでもよかった。


ただ、この思いから逃げたかった。

いっそ、このまま消えてしまいたいとさえ思った。




友達からは倦怠期だよなんて笑われたけど、ほんとにそうなのかな…


デートだってすっぽかされて、


やっとデートできると思ったら、今度は友達と遊ぶ予定が入ったって断られて。


どっちが先約だった?どっちが重要?


なんてめんどくさい女になりたくなくて、気付けば物分りのいい女になってしまっていた。




いつも「友達」に負けてしまう。


久しぶりのデートだっていうのに



「ゲームしてるから話しかけんな」



なんて、「ゲーム」にまで負けてしまった。



「そっか、ごめんね…」



ねぇ、柊弥。

柊弥は私といて楽しいと思ってくれてる?


私はもう…辛いよ。




「ねぇ、柊弥」



視線を彼に向けても、まるで心が遠くにあるようだった。


「何」



気づいてないの?

今日まだ1回も目が合ってないよ。



「柊弥にとって私は何…?」



もう、やめたい。

今日で終わりに…するんだ。


「は?なに急に、めんどくさい」


ゲームをしながら、私に目もくれない。

その瞬間、涙が溢れそうになった。


そんなふうに言われるのが嫌で、本当の自分を隠してきたのに…。



「めんどくさい…。そっか、そうだよね…ごめんね。だけど、もう物分りのいい女になれない」


本当の私はめんどくさくて、うざくて、だけど嫌われたくないから必死に隠して誤魔化して…


だけどもうそれは今日まで。





「…大好きだった。だけど、それは私だけだったみたい」


声が震えるのを抑えようと必死に息を整えるけれど、抑えきれない思いが零れた。



「何が言いたいわけ、」



冷たい視線と言葉が私の心を深く傷つける。


表情を隠すために視線を逸らしながらも、指先が微かに震えるのが分かる。


どこか他人事のようなその態度。

これ以上言葉を続けるのは無意味みたいだ。


「私達、もう別れよっか」




その一言にすべての思いを込めた。


口にした途端、喉の奥が詰まり、呼吸が苦しくなる。


もう戻れないことは理解していた。

それでも、走り出したら止まらなくなっていた。


追いかけてきてくれるんじゃないかって少しでも期待した私が馬鹿だった。


完全に冷めきってたんだ。


分かってた…。

分かってたけど、それでも一緒にいたかった。




「待てよっ、」


その声が背中に響いた瞬間、足が止まる。


心臓が大きく跳ねる感覚に戸惑いながらも、振り返る勇気が出ない。


自分の中で終わりを決意したはずなのに、柊弥の声にはまだ心が揺さぶられる力があることが悔しい。



「柊弥…、」


振り返ると、雨に濡れた彼の姿が目に入る。


追いかけてきた理由を知りたくてたまらないのに、それを聞くのが怖かった。


こんなにも傷つけられたのに、まだ彼の言葉に希望を求めてしまう自分が嫌だった。



「悪かった、めんどくさいなんて二度と言わないし、今までよりも大切にするから、離れないで」



その言葉を聞いた瞬間、胸の中で何かが崩れる音がした。


「なんで、追いかけてくるのよ、」



やっと逃げられると思ったのに、



「手放したくなかったから」



やっと嫌いになれると思ったのに、




「こんなに濡れて…」



体が震え、冷たい雨が頬を伝っているのか、それとも涙が混じっているのか分からない。


「それは沙耶も一緒だろ」



あぁ、やっと目が合った。

今日初めて名前呼んでくれた。



「…好き、大好き、愛してる」



涙が目の中に溜まり、雨とともに頬を伝う。


「あぁ、俺も大好きだよ」




…だけど、愛してるとは言ってくれないんだね。


手放したくないんだよね、こんな物分りののいい女。





柊弥は私の事何番目に好き?誰が1番?


私、ちゃんと気づいてるんだよ。

柊弥の言う「友達」が「後輩」だって事。


可愛かったもんね。

柊弥の好きそうなタイプだもんね。


だけど、もっと上手に隠してよ、そしたらこんな思いしなくてすんだのに…


こんなに、傷つかずにすんだのに…。




私は馬鹿だけど、柊弥が思ってるほど馬鹿じゃないよ。


あの子を好きな事ぐらい分かってる。


だけど、あの子には彼氏がいるから…。

叶わない恋だと分かっているから。


だから、柊弥の事が大好きな私を傍において置くんだよね。


1人になるのは嫌だから。










それを分かっていても私は、これ以上順位を下げるのは嫌だから、今日も馬鹿を演じなくちゃいけないみたい。

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