第5話

器用に咥えて飲んでるし。

飲むか運転するかどっちかにしろよ。




「誰でもいいけど……。あの、その辺でテキトーにあたし降ろしてね。じゃないと、あんた死ぬから」




既に前に向き直ってるそいつは

唸り声もうなずきもしない。


ただゼリーを飲んでるせいで、

その喉が一定の感覚で動いていた。


腹立つ以上に呆れた。

なんなの、このおとこ。



運転席に座って車を爆走させてるそいつは、

よく見るとあたしの彼氏より

ちょっと年上っぽい感じだった。



うん。


ばりばり大学生。

か、大学生入りたてかの二択。




なんだけど。




髪色は白で薄めたようなおとなしい金色だし。


耳にゴチャゴチャピアスしまくってるし。


腕にもブレスレットだとかバングルだとか

腕時計がジャラジャラしてるし。


ほっそい指にも指輪もガチガチにハメまくってる。




なんかこう、

「全財産抱えて移動してます」

みたいなファッション。


おまけに黒の薄手のシャツは、なんかよくわからないピンクやら黄色の塗料がかかってた。



……カラーボールぶつけられたのか?




あたしはさっきの男が

慌ただしくコンビニから出てきたとこを

頭の中で振り返ってた。



それからウィダーインゼリーを横目で見て確信する。



こいつ、アレじゃん?

窃盗犯ってやつじゃないの?



まあ、そうだよね。

どう見ても普通の男じゃないだろうけど。




それに比べて、と。

あたしはサイドミラーに写った自分の顔を見て

つまらなそうにため息を漏らした。

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